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みんなのきのこむしさん

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頭に咲く花

16/10/23 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 みんなのきのこむし 閲覧数:417

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 歩道で擦れ違う人たちのうち何人かの頭に、花が咲いていた。
 真っ青なガーベラ、蛍光ピンクのチューリップ、手の平ほどのラフレシア。種類も色も柄もばらばらだが、どれも人間には見えていないらしい。
 ろくろ首の僕は家に帰ると、妖怪特捜員の仲間、猫又のニャア太に、花のことを訊いてみた。
「花咲か仙人の仕業にゃ。あいつ、また現れたにゃ」
 人の頭に花を咲かせているのは、花咲か爺の子孫を自称する人間から変化した妖怪で、普段は眠っていて十何年かに三ヶ月ほど目覚めて活動する。
 相手の人間に気付かれず、魂に欲望や闘争心を吸って育つ妖花を植え付け、欲深い心を清らかにしたり、荒々しい心を穏やかにすると言う。
「行き着く先は心の平和にゃ」
「いいことだね。善意の仙人だ」
「違うにゃ。人の心の完全な平和というのは、やる気をなくした微笑みウツにゃ」
「生きる意志さえ失うのか」
「うにゃ。そうなったら仙人は花を収穫して、吸収した生気を自分の養分にする」
「結局自分のためだな」
「しかもヤツは美味しいと気に入った生気は全部花に吸わせ、魂をまるまる食べるんにゃ」
「すると花を植えられた人は……?」
「もちろん死んでしみゃう」
「だったらやめさせないと」

 僕はニャア太を左肩に乗せて、花咲か仙人を探しに出掛けた。すぐにそれらしい妖気を感じる。とてもはっきりしている。
「隠れる気は全然ないみたいだ」
「うにゃ。花咲か仙人は妖力も体術もずば抜けている。それを自覚しているにゃ」
「勝てるかな? 戦って」
「根っから悪いヤツではにゃい。話し合いの余地があろう」
 ニャア太と僕は言葉を交わしながら、強い妖気の出所に向かう。
 するともう一つの妖気が現れ、そのまま激しい戦いの気配が伝わって来る。
 花を狙って他の妖怪が仙人を襲撃した。そいつもかなり強い……
 ところが察し終わる前に、その妖気は消えた。仙人の圧勝だった。 
 勝負の済んだ場所に着くと、一人の男が等身大の花々に囲まれ、静かに立っている。その様子は平和できれいだが何となく寂しい。 
「あれが……」
 名前から年取った姿を想像していたが、花咲か仙人は細身で中背の東洋的な美青年だった。黒髪を首に掛かるくらい伸ばしてチャコールグレーのスーツを着込んでいる。
 彼はもう僕たちに気付いていて、こちらを見ると声を掛けてきた。
「妖怪特捜員だね。君たちは」
 敵意は感じない。僕たちがうなずいて歩み寄ると、仙人は続けた。
「心配しないでいい。花の生気は、魂に返すよ」
「にゃぜ?」
 僕の左肩で訊いたニャア太に、仙人は花々を示して語った。

「見れば分かるだろう。ろくな花が咲いていない。どれも食べられない。隠されて歪んだ欲望、弱い方へ弱い方へと向かう攻撃性、そんな状態の魂ばかりだ」
 言われるまでもなかった。気味悪い花しか咲いていない。あたりに異臭も漂っている。
 花咲か仙人は続けた。
「不動産バブルの三十年前、ITバブルが割れた十五年前、人間の心は欲まみれで荒んでいた。けれど今ほどいびつじゃなかった。日本は平和だというけど、本当なのかな……?」
 僕たちが黙っていると、仙人はさらに言った。
「それに何も考えていないせいで、花を咲かせない魂が多い。おかげでひどい空腹。だから君たちのような妖怪を捜していた」
「え? それじゃ……」
 おびき出されたことを知ったときには、既に全身の力が抜け、僕は歩道に膝を着いてしまった。ニャア太も同様で、石畳にだらんと身体を伸ばして動けないでいる。
 花咲か仙人は僕たちを見下ろし、軽く笑って告げた。
「妖気を吸わせてもらった。でも恐れることはない。これ以上は何もしないよ」
 花咲か仙人は食欲を満たすため、人間の魂より養分のある妖気に狙いを付け、僕たちのように彼を止めようとしたり、反対に彼の花を奪おうとする妖怪に、網を張っていた。
「ありがとう。また一眠りする前に、十分な食事をできた。妖気は魂ほど美味しくないんだけど……」
 花咲か仙人はその場で透明になり、姿を消しながら他人事のように言い残した。
「次に私が起きたとき、世の中はどうなっているだろうね?」


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