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本宮晃樹さん

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平和のレシピにYはいらない

16/10/21 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:639

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 聞いてください! ここだけの話、恒久平和はもう目の前なんです。
 Y染色体がいかに野蛮で、下品で、近視眼的で、存在価値がないかはみなさん知るところでしょう。有史以来まさにこの野卑で、品性の欠けた(中略)見るもみすぼらしい染色体を持つ殺人狂たちのせいで、この世界は蹂躙され続けてきました。そんなこと許せますか? 断じて許せませんよね。
 サモア諸島のアピアに逃げ込んだ〈最後の野蛮人〉たちも、いよいよ往生際をわきまえるときです。わたしたち慈悲深いアマゾネス部隊がもうじき現地に到着し、連中に引導を渡すまであと数時間。その瞬間、われわれ女性による恒久的な平和が実現されるのです!
 どうです、わくわくするでしょう?

     *     *     *

 俺たちは――連中に言わせれば〈最後の野蛮人〉だということらしいが――もう、とっくに観念してはいる。だってほかにどうしようがある? 男は徹頭徹尾、駆逐されたのだ。
 いまにも狩り立てられようとしているこのコミュニティの最年長者によれば、最初は些細な問題提起だったらしい。ずばり、いったいどうやったら戦争をなくせるのか?
 当時の急進的フェミニストに進化心理学なんてものを持たせたのが運の尽きだった。彼女らの論法はこうだ。@精子はありふれているいっぽう、卵子は貴重だという不公平がある限り、A繁殖戦略的に雄が獰猛になるのは生物学的なもので、Bために男はどれだけ文明が進歩しても原始人並みの攻撃性を保持し続けるであろう。Cしたがって恒久平和を実現するには、男そのものを排除せねばならない!
 性別はご存じの通り、X染色体を二個持てばあの無慈悲な怪物どもに、X染色体とY染色体を一個ずつ持てば哀れな俺たちになる。それは精子がどっちを持つかで決まり、その確率は五分五分だ。
 男を効率的に抹殺するにはどうすればよいか? 簡単だ。そのY精子を不活化しちまえばいい。問題はその方法だが、お手軽で大勢に影響をおよぼす遺伝子改変において、ウイルスベクターに勝るものはない(正確には環状プラスミドの挿入だが)。
 自称〈道徳的ウイルス学者〉がフェミニストどもの手先となり、それはばらまかれた。あとはご承知の通り、男はいっさい生まれなくなった(女たちが今後どうやって個体数を維持するのかは諸説あり、それらは万能細胞からクローンを作るだの卵子の核に雄性核と同様のゲノムインプリンティングを施して無理やり接合させるだのといった与太話だ。俺は「なにも考えてない」に投票したい)。
 ウイルスに抵抗性を持つ精子からごく一部だけ男は生まれ続けたものの、たいていの母親はそれを生きたまま産もうとさえしなかったし、生きたまま産んだとしてもすでに女に牛耳られつつあった当局に処分されたので、結局同じだった。
 サモア諸島は楽園みたいな場所だ。赤道直下の美しい島々。俺たち〈最後の野蛮人〉の死に場所としてはちょっとばかりお上品すぎるかもしれないが、誰だって寒いより暖かいほうがいいに決まってる。
 轟音があたりを席巻し始めた。アマゾネス部隊の強襲揚陸艇のお出ましである。俺たちはどうすべきなんだろう? 竹槍で武装するか? 「男らしく」勇敢に最後まで戦う?
 冗談じゃない。俺たちはもう、そういうのは飽きたんだ。

     *     *     *

 わたしたちが好戦的すぎるとかまるで男みたいだとか言うのは論点がずれています。もともと男なんてのは、遺伝子をシャッフルして環境の激変に耐えられるよう、種の多様性を維持するためだけの運び屋にすぎなかったのです。
 彼らは明らかに過剰な運賃を女性に支払わせ続けてきました。これはその過払いぶんの正当な奪還であり、権利としての報復でもあるのです。
 いま全世界の女性たちは固唾を飲んでテレビなり端末なりに魅入っているはず。さあ見えてきた。アピアの砂浜に揚陸艇が突進し、乗り上げ、わたしを先頭に高潔な兵士たちが進撃していきます。
 標的の居場所はわかっています。この期におよんで男の肩を持つ愚かな女性たちの村に匿われているという確かな情報を、わたしたちはキャッチしていますから。ちなみにこの村がどうなるかは改めて述べるまでもありません。
 村に近づいてきました。攻撃はありません。身を隠しつつ、GPS内蔵のヴァイザに映し出された地理情報を逐次確認。村は開けており、死角から狙撃されるような恐れもなし。
 部下から報告が入りました。男女を発見したと。わたしは逸る気持ちを押さえつつ、その小屋へ突入しました。
 男女は互いに抱き合いながら眠っています。脈はありません。自殺のようです。これ以上ないくらい安らかな顔。拍子抜けです。激闘の末に平和をもぎ取りたかったのですが。
 なんにせよこれで男は駆逐されました。
 新たな時代の幕開けです!


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