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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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楽園追放

16/10/17 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:470

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 楽園と呼ばれるこの場所は、僕にとって世界そのものだった。この場所で産まれ、育ってきた僕たちは、半径百メートルのこの世界しか知らない。けれども別に、それを不幸と思ったことはない。楽園と呼ばれるだけあって、この場所では僕たちが生きていくうえで必要なものは何不自由なく与えられた。衣食住も娯楽も。ここには全てがそろっていて、間違いなく平和が具現化した楽園と呼ぶにふさわしい場所だった。
 けれども、ここは楽園だ。ヒトは楽園からいずれ追い出される。それは大昔から変わらない決められた法則のようなものと言っても過言ではない。アダムとイブも楽園から追放された。原初の人間が楽園から追放されるのだから、その劣化品である僕らが追放されないわけがない。
 けれどもそんなのは織り込み済みだ。生まれた時から言い聞かされてきたことだ。驚きも不満もない。むしろ、僕たちはこの楽園から追放されてこそ真価を発揮する。僕たちはこの楽園を出ていくことによって一人の人間を救う。そういう風に出来ている。
「カミナの追放が決まったってさ」
 キアラはそう僕に教えてくれた。
 カミナは僕よりも二歳年上で、キアラは僕と同い年だ。僕たち三人は仲が良く、いつも三人一緒に行動することが多かった。
「そう、いつ?」
「三日後。お祝いしなきゃね」
「そうだね」
 追放、とはいうものの、それはどちらかといえば卒業というニュアンスに近い。だから、僕たちは追放が決まった仲間をお祝いする。
「カミナの様子はどう?」
「落ち着いているよ。まあ、それが私たちの役割だからね。それは彼もよく理解している」
「そっか。カミナは今どこにいる?」
「さあ。さっきは中庭に居たけど……」
「わかった。ちょっと行ってみるよ」
「うん、わかった」
 僕はキアラと別れて中庭に向かう。
 大きな木を中心にその周りにはベンチがいくつか置かれている。その一つ、木陰に覆われた青いベンチにカミナは腰掛けていた。大柄な彼の身体は離れていてもよく目立つ。
「やあ」
と声を掛けると、
「よお」
と彼は返した。
「追放だって?」
「ああ、ついに来た、って感じだな」
「怖くはないか?」
「大丈夫だよ。怖くはない」
「そうか」
 それから、彼にかける言葉が見つからず、僕は黙る。彼も、何も言わずに足元の草を眺めるだけで、風が木の枝を揺らして葉が擦れる音しか聞こえてこない。ふと、彼の方へと目を向ける。その手は微かに震えていた。
「……やっぱり、わかってても怖いよな」
 そう言って、彼は笑った。それはきっと、全てを受け入れた笑みなのだろう。追放されていく人間を何人か見てきたけれども、彼らはみんな、今のカミナと同じ笑みを浮かべていた。


 簡潔に言うと、僕たちはクローンだ。
 オリジナルの人間の血液から造られた、ヒトの劣化品だ。僕たちはオリジナルの肉体の部品のストックとしてこの世に生を受けた。悪くなったオリジナルの肉体を僕たちの健康な肉体と取り換える。
 つまり、追放はオリジナルの肉体の為にこの命を捧げるということだ。
 この楽園の外の世界では、この施設のことを非人道的だという人たちがたくさんいるらしい。けれども、そんな糾弾は余計なお世話だ。内情を知らない人間のエゴイズムだ。
 僕たちはそもそもこの世に生まれるはずもなかった命だ。それが、こうして何不自由なく生きて、友情まで育んで。徹底的に管理され、争いさえない平和な楽園で暮らす。人生において、これ以上に一体何を望むというんだ?
 そりゃあ、死ぬのは怖い。けれども、そもそも、これまでの人類史において、死ななかった人間の数はゼロだ。人類の致死率は百パーセントなのだ。生まれたことに対して感謝することはあっても、死にゆくことに対して恨むことはない。
 むしろ、僕たちの死は確実に一人の命を救っているという自負がある以上、僕たちは外にいる人たちよりもよっぽど納得して死んでいっているとさえ思う。
 だから、僕たちは追放を、死を、この結末を受け入れる。


 三日後、予定通りカミナは追放された。
 そして、新たなカミナが受け入れられたらしい。彼はまだ小さな赤ん坊だ。これから、成長していき、あの大柄で優しげなカミナの姿に近付いていくのだろう。そして、きっとその頃には僕はとうにこの楽園を追放されているのだろうけれども。
 キアラと会って、今日は図書館へと行く予定だ。空は晴れ渡り、中庭の木は風に揺れている。ベンチには何人かの人たちが座って談笑している。争い事は起きていない。
 今日も楽園は平和だ。
 たとえそれが世界から見たら偽りの楽園なのだとしても。
 僕たちにとっては紛うことなき本物の楽園なのだ。


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