1. トップページ
  2. おもしろい私

つつい つつさん

twitter始めました。 @tutuitutusan

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

おもしろい私

16/10/15 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:465

この作品を評価する

 日曜日のお昼、私は自分の中ではオシャレめな服でお笑いライブが行われている劇場に入った。だいたい月に一回のペースで来ている。なにもない私の唯一の趣味だ。今日もたくさんの芸人さん達が漫才やコントで私を笑わしてくれる。私はいっぱい笑いながら感心する。なんでこんなにうまくしゃべれるのだろう。なんでこんなに会話だけで人を笑わせることが出来るんだろう。私もこんな風におしゃべりできるセンスがあったら、どんなに楽しいだろうって。
 あっという間にライブが終わり劇場を後にする。楽しい時間は一瞬で過ぎてしまい寂しい気もしたけど、なんだか胸の中が温まった気がする。また明日から変わり映えしない日常が始まるけど、頑張れるような気がした。

 金曜日の夕方、やっと仕事も終わり黙々とロッカールームで私服に着替える。すぐ傍で同じ課の後輩の坂崎さんと木下さんもおしゃべりしながら着替えていた。
「美咲、残業で今日のコンパ来れないんだって」
 木下さんが困った顔で話していた。
「だから、営業の娘誘うのよそうって言ったんだよ。どうする、こっち五人って言ってあるのに」
 木下さんがパっと私の方を見たのを感じた。私は心臓をバクバクさせながら、気づかないふりをした。木下さんは坂崎さんにそっと耳うちしている。
「ないないない。それ無理」
 坂崎さんが小声で言ってるのが聞こえた。そのうち、なにもなかったように二人はばたばたとロッカールームを出て行った。

 コンビニでちょっと高めのスイーツを買って家に帰った。録画していたお笑い番組を見ながらスイーツを食べた。二時間程見た後テレビを消して、そのままテーブルにうつ伏せた。涙が出てきた。嗚咽が止まらなかった。もしかしたら、今頃コンパで楽しく飲んでたんじゃないかって、ありえないことを考えて泣いた。いつもそうだ。後になって悲しくなる。誘われなかったのがつらいんじゃない。ないって言われても当然だった。本当に誘われたかったら、自分から会話に入り込むくらいの勇気が必要だ。それも出来ないのに、ひとりメソメソしてるなんて最低だった。泣くぐらいなら、聞こえないふりなんてしなかったらいいのに。
 昔からそうだった。気づいたらひとりだった。みんなのテンポに合わせられなかった。輪の中に入ろうとしても、信じられない速さで更新されていく会話のスピードに自分が加わるスペースを見つけられなかった。そのうち、おとなしい人、しゃべらない人って認知されると、自然とひとりになった。派手なグループじゃなくても、おとなしくても仲間うちではおもしろい子なんて結構いたけど、私は、どこのグループに入っても同じだった。だから、学校の行事で班分けとかすると、いつもひとり余っていた。先生に「じゃあその班入れ」って無理矢理言われて、嫌そうな顔している班のメンバーの輪の中入っていった。明るく「よろしくお願いします」なんて言えたら、うまくその輪の中に入れたんだろうけど、私は緊張して暗い顔でオドオドするだけだった。そんなので楽しくなるわけがなかった。結局同じ班になっても、ただ同じ班として行動を共にするだけ。楽しそうにおしゃべりしてるメンバーの近くにいるだけで最初からいないみたいに扱われていた。
 まだ涙が止まらなかった。悲しいから泣くんじゃなかった。それでもどこか期待してしまう自分が醜くて悔しくて、腹が立って、それで泣いた。平気じゃないのに平気だって嘘をつこうとする自分に泣いていた。ずっとこんなことばかりだった。同じことで傷つき、同じことで泣く。進歩のなさにまた腹が立った。

 そういえば、お笑いライブに行くようになったのも、勉強のためだった。会話を振られても、おどおどキョドキョドして、なにひとつうまく返せない自分を変えたくて、芸人さん達の巧妙な受け答えを学んだら自分にも出来るようになるんじゃないかって思ったのがきっかけだった。最初はテレビ番組を見ながら勉強していたけど、やっぱり生で感じるのが一番だろうって劇場に通い始めて一年、好きな芸人さんも出来て、お笑いライブに行くのは楽しくなったけど、自分の会話のスキルがあがることはなかった。今も仕事のこと以外、気軽な会話なんて出来たことがない。会話なんてまだまだで、なにか言われてもせいぜいうなずくのが精一杯だった。なんの成果もなかったけど、それでも、こんな私に楽しみを与えてくれたことに感謝している。

 頭を上げると真っ暗なテレビの画面に、はれぼったい目をした暗い女が映っていた。不幸のどん底にいるような女がひとり映っていた。
 ナンデヤネン
 私は思わず、自分につっこんでいた。
 ナンデヤネン ナンデヤネン ナンデヤネン
 私は可笑しくなって、何回もくり返した。なんだか自分が、おもしろくなったような気がした。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス