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ひーろさん

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不透明人間

16/10/15 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 ひーろ 閲覧数:625

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「博士、ついに完成ですね」
「ふむ。ついになあ」
「博士ったら、珍しく嬉しそうな声をしていますね」
「ふむふむ。これが本当に成功であれば、世界で初めて、人間の可視化に成功することになるのだからな」

 彼らが研究に研究を重ねた末に完成させたのは、人間を可視化させるという“不透明人間の薬”である。本来、人間が不可視透明であることは自明の理であり、覆ることのない人類の常識であるのだが、人間が可視化されるという彼らの発明は非現実的であり、かつ革命的である。これまでの研究で、人間は個々に何らかの身体的特徴を有していると推定されている。可視化されることによって、それぞれの衣服や声でいちいち確認し合う必要がなくなり、視覚的に個人を識別できるようになるのだ。医学の分野においては、検診や治療の精度が格段に向上し、その進歩に大きく貢献するに違いない。また、稀ではあるが、不法侵入や盗難等に対する防犯のあり方も変わり、犯人を特定することの難しかった犯行をも明確に把握することができるだろう。さらに、娯楽の面では、声優や歌手など、声で楽しませるものが人気の中心となっているが、それらの限られた娯楽も視覚的な楽しみへと広がっていく可能性が高い。それに伴って、職業の幅も広がるかもしれない。このほかにも様々な利益をもたらすことが期待される、まさに夢のような発明なのである。実際に成功が認められれば、歴史的な発明家として彼らの名を世界に轟かせることになるだろう。

「まずは僕が試しに飲んでみます」
 助手は、青い粉状の薬を指でつまみ、水とともに口の中へ流し込んだ。
 すると、なんということだろうか。助手の身体の輪郭がうねうねとした動作を伴って浮かび上がってくるではないか! 手、脚、胴、頭……。この世で初めて、人間が可視化された瞬間である。
「ほほお、成功じゃ。これが人間の本当の姿か。まさに、予想していた通りの姿形じゃ」
 博士は助手の姿を興味深そうにじっくりと眺めながら、満足気に何度もうなずいた。
「皮膚の色も想定内じゃ。それにしても、整った顔立ちをしておるな」
「そうですか? そう言われると、なんだか嬉しいですね」
「どれ、私も飲んでみるかな」
 期待を胸いっぱいに抱いて、博士は薬を流し込んだ。

「博士、何だかヘンテコな顔立ちをしておりますね。僕と比べて鼻が大きくて、両目の間隔が離れています。顔全体のバランスが悪いです」
「ふむ。そう言われると、なぜだか気分が悪くなるな。そういうものなのだろうか」
「それと博士、肌の色も予想に反して真っ黒ですね。僕と全く違う。汚らしい印象を受けます」
「ふうむ。そうか。まあいい。兎にも角にも大成功じゃな。早速、この研究の成果をまとめ、世界に発信しようではないか」



 間もなく“不透明人間の薬”は世界中に普及した。人間同士はそれぞれを視覚的に識別できるようになった。予想通り、科学は飛躍的な進歩を遂げ、人々の生活の質が向上した。
 しかし一方で、肌の色や顔立ち、体型などに関する誹謗中傷が流行りはじめた。挙句の果てには、人間を見た目で分類し、ある種がある種を蔑むような、差別意識が蔓延するようになった。これまで共有していた土地は、人類同士で争い、奪い合った。壁など見えなかった透明で平和な世界は、境界線の引かれた窮屈で不穏な世界へと変わり果てていった。


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