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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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例のキャラメル

12/10/15 コンテスト(テーマ):第十五回 時空モノガタリ文学賞【 北海道 】 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1321

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……こいつは正直、予想以上だった。産まれてこの方17年間、ここまでひどいものを口にした事があっただろうか。
味が舌の上でのた打ち回り、味蕾を蹂躙していくのが判る。だが、何の味と問われると答えようがない。全くのカオスだ。キャラメルだから、一応甘い。確かに甘いのだが、それを是としない対抗勢力が組織的に、散発的に武力衝突を繰り返している。そんな感じだ。
部室に置いてあった科学雑誌で読んだ、未だ正体を把握されていないという暗黒物質――それがよもや、北海道にて確認されるとは。否、その中でたった一つ、はっきりと確認出来る要素がある。
独特の刺激臭、ネギだ。
……迂闊だった。俺はネギが昔から大っ嫌いなのだ。セロファンを重ね合わせて作ったような食感も然る事ながら、どうしてもあの硫化アリルを主成分とする臭いと辛味は堪えかねる。
流石に肉の味まではしなかったが、もう充分だ。こんなものを世に遣わして一体誰が得をするんだと、薄れゆく意識の中うっすらと見え始めた神に俺は直訴する。世界の法則に抗ったこの食べ物を糾弾する。土産物に美味いものなし、は過去の風説に過ぎないのではなかったのか!
く、そ、ま、ず、い。
それが最終的に弾き出した、俺の忌憚なき結論だ。ただまずいだけなら折角、珍しくクラスメイトから貰った北海道土産なのだから「おいしい」くらい言っておく。だがむしろこいつは食べ物どころではなく、もはや研究対象だ。何がどうしてこんなにくそまずいのか早速考察してレポートにまとめて今年の文化祭で発表してやりたくなってきた。
……が、それ以上に解明しなければならない謎がある。
「ど、どうだった、江口君?」
「……ま、まあ僕はい、意外と大丈夫、かも」
どういう訳か、この地獄のキャラメルを買って来た張本人である筈の五十嵐ゆかから不安気に問われると、そう答えざるを得なかったのだ。
ゴールデンウィーク明けにこいつをクラスで配りまくった彼女だが、当然反応は芳しくない。というのも実はこの商品、他の女子の話によればジョークグッズとしての側面があり、この辺りでも特定の店へ行けば買えてしまうらしい。
……そんな代物を何故買って来てしまったのか、と誰かから至極当然に問われると、本人曰く「今まで食べた菓子の中で一番美味しかったから」だそうだ。これにはクラスメイトの大半が戦慄した。
ただ、中には思っていたよりは、と、そう悪くない反応を示した者も見受けられた。彼らも独特の嗜好の持ち主なのか、ただ気を遣って言い出せないだけなのか。心理学は専門外だが、興味は尽きない。

しかしこのキャラメルの持つ真の恐怖は、それより後に待ち受けていた。
……味が口の中から全然消えてくれないのだ。
五十嵐ゆかが配ったのは一時限目終了後の休み時間だったが、四時限目が終わってもまだあのネギやタマネギ、ニンニクの風味が延々と残り続けているではないか。
他に食べた人間も同じだったようで、授業中にも拘らずえずき出す者、終いにはトイレへと駆け込む者が数名現れた。
かく言う俺も昼休み開始直後に自販機へと急ぎ、大好物である甘っ甘のいちごミルクで口の中を洗浄するまでは気が気でなかった。1つでは足らずに2つ目を躊躇しながらも買ってしまった辺りに、あのキャラメルの業の深さが表されていると言えよう。
河岸を変え、その2つ目を中庭のベンチにもたれかかりながら飲んでいると、正面の渡り廊下を五十嵐ゆかがとぼとぼと歩いている。
統計学的に見ても見目麗しく、いつもはきはきと喋る彼女があんな暗い表情をしているのを俺は初めて見た気がする。故に少し声をかけ辛かったが、五十嵐ゆかは俺を見つけるなりこちらへと歩いて来て、
「ごめんなさい、江口君!」と頭を下げた。
「え、いやっ、えっと、何?」
「さっきのキャラメル、やっぱり不味かった……よね?」
「そんな事ない」
俺自身も驚くほど即答してしまったが、彼女はそれでも首を振った。
「わ、わたしは美味しいと思ってたんだけど、皆にはそうじゃないらしくって……さっきは無理して、美味しいって言ってくれたんでしょ?」
美味しいとまでは断じて言ってないが。それでも何故か俺は違うとまた言ってしまったのだ。
「お……あ、いや、うん。僕は嫌いじゃない。マジで」
何故言えないのだろうか。科学にそういったあやふやなものは許されないのに。ただ、五十嵐ゆかは笑っているのが一番いいと、そう思った。
「……本当?」
「本当だ」
それでようやく笑ってくれたのだが、
「じゃあ今度、江口君にも分けてあげるね! ここでしか買えない、って思ってお土産とは別に自分用のをいっぱい買っておいたの。でも足りなくなったらいつでも買いに行けるって事も判ったし。……ね、今度一緒に買いに行かない?」
……どうも、更なる研究が必要らしい。自身の安全の為にも。


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