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海見みみみさん

はじめまして。 時空モノガタリで修行させていただいています。 焼き肉が大好物。

性別 男性
将来の夢 プロ小説家になること!
座右の銘 焼肉定食!

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平和を食い荒らす者

16/10/11 コンテスト(テーマ):第120回 時空モノガタリ文学賞 【 平和 】 コメント:0件 海見みみみ 閲覧数:672

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 葬式会場。両親の遺影を前に春菜が泣く。春菜はまだ小学生、両親の死はあまりに大きすぎる不幸だった。
「大丈夫だよ、春菜。お姉ちゃんがついてるから」
 姉の夏美は春菜の手を握り、気丈に振る舞う。これからは春菜のために生きていこう。そう夏美は決心した。



 両親の事故死から二年目の春。夏美と春菜は両親の遺した家で二人暮しをしていた。
「ちゃんと制服着られた?」
「大丈夫」
 素っ気なく春菜が返す。春菜は今日から中学生だ。春菜の成長を夏美は喜んでいた。最近反抗期気味ではあるが、それも成長の証だ。
 朝ごはんを食べ、二人で学校に行く。
 両親はいないし、お金もあまり無い。それでも二人は平和に暮していた。

 部活を終え、夏美が帰宅すると玄関に靴が二足あった。一足は春菜の物だか、もう一足はどう見ても男物だ。
 まさか春菜に彼氏ができたのか。夏美は緊張しながら家にあがった。
「はじめまして、お姉さん」
 聞こえてきた声。見るとそこには春菜ともう一人、凛々しい青年の姿があった。
「春菜さんとお付き合いしている斎藤と申します。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ。今お茶淹れてくるね」
 夏美は一度台所に向かった。台所から二人の様子をうかがう。
「それじゃあ春菜、肩を揉んでくれる?」
「は、はい」
 なぜ肩揉み? 夏美は疑問に思いながらも、お茶の準備をする。
「ど、どうですか?」
「どうって」

「下手くそなんだよ! このクソアマ!」

 突如斎藤が豹変する。夏美はティーセットを持って慌てて春菜の元へ向かった。
「どうしたの?」
「これは失敬」
 斎藤が笑みを浮かべる。
「実は大切な腕時計を春菜さんが傷つけてしまって」
 斎藤が腕時計を見せる。確かに傷がついていた。
「だから春菜さんには恋人として、責任をとってもらおうと思って」
 この男、何か変だ。夏美が危機を感じていると、斎藤はお茶に手をつけた。
「それではいただき、熱っ!」
 そう口にし、斎藤はティーカップを落として割った。制服は紅茶まみれだ。
「酷い。お姉さんの熱い紅茶のせいで新品の制服が水浸しだ」
 斎藤の目つきが一瞬にして変わる。
「これは恋人の姉として、責任をとってもらえますよね?」
 夏美はようやく理解した。こいつがこの家を侵略しにやって来た事を。この男は平和を食い荒らす者なのだ。
「濡れたのでシャワーを借りますね」
 斎藤がそう勝手に言って、風呂場に向かう。
 その間に夏美は春菜に問いかけた。
「本当にあの腕時計、春菜が傷つけたの?」
「違う。元から傷がついてて、それを言ったら私のせいだって」
 つまり斎藤が難癖をつけてきたわけか。
「本当はあんな男と付き合いたくないんだよね?」
「私は……」

「大丈夫だよ、春菜。お姉ちゃんがついてるから」

 あの日と同じように、春菜の手を握り夏美が告げる。春菜は涙を流し叫んだ。
「助けて、お姉ちゃん!」
 久しぶりに聞いた春菜の『お姉ちゃん』の一言。それだけで夏美の闘志は燃え上がった。

「実にいいお湯でした」
 斎藤がジャージ姿で堂々と現れる。
「それで、制服のクリーニングと時計の修理代、どうしてくれるんですか?」
「その前に聞きたい事があるの」
 そう言って、夏美が割れたティーカップを指差す。
「これを割ったのはあなたよね?」
「ええ、割りましたが。それよりもこちらの弁償を……」

「このティーカップ、一個二十万円するの」

 斎藤の顔が青ざめる。夏美は畳み掛けるように話を続けた。
「両親の趣味が骨董品集めで、鑑定書が残っているわ。二十万円、あなたは払える?」
 斎藤がよろめいた。そこに春菜が追い打ちをかける。
「あなたとは付き合えません! ここから出ていって!」
 初めて受けた反抗の言葉に、斎藤はうろたえた。
「こ、このクソがぁ!」
 斎藤はそう叫ぶと、春菜に襲いかかってきた。そこにすかさず夏美が飛び込み、部活の柔道部で覚えた関節技を極める。
「痛っ!」
「二十万円弁償するのと、このまま黙って帰るの。どっちがいい?」
 夏美の言葉を受け、斎藤はがくりとうなだれた。

 それから数日後。姉妹の間である変化が起きていた。
「お姉ちゃん、朝ごはん手伝おうか?」
「それじゃあお皿を運んでおいて」
 あれから春菜の反抗期は終わり、夏美の事も『お姉ちゃん』と再び呼んでくれるようになったのだ。
「それにしてもあのティーカップって二十万円もしたんだね。驚いたよ」
「ああ、あれはウソ」
「えっ!」
 それでは夏美はとっさにあれだけのウソをついたのか。これには春菜も驚いた。
 そんな春菜を見て、夏美が笑う。
「どうしたの、ニヤニヤして」
「別にー」
 姉妹で暮らす平和な日常。やっぱりこれが一番だと夏美は思った。


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