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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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お楽しみはこれからだ

16/10/10 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:413

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「おい、今すぐその女から離れるんだ!」
 何もない空間にぬっと開いた穴から現れたおっさんは、おれと彼女の姿を認めるなり大声でまくし立ててきた。
 大した超常現象っぷりだが、もう少しTPOってやつを弁えて欲しかった。おれはその時面倒くさい愛撫を一通り終え、まさに彼女とひとつになろうとしていたところだったのだ。
 彼女もシーツに産まれたままの裸身を包んで、ベッドの隅で脅えてしまっている。高嶺の花が今みずみずしいエビの剥き身のようにその太腿を晒しているのを見ると、居ても立ってもいられなかった。
 むらむらとしていたのが次第に雄の怒りへと換わり、おれは逸物をぶらりと下げたままなりふり構わずおっさんの胸ぐらに掴みかかった。
「なあ、おっさん。この状況を見てわからんのか。おれたちはお楽しみ中なんだ。わかったら今すぐ回れ右して、そのまま二度と帰ってくるな」
 そう凄んでやったのだが、おっさんはぽん、とおれの肩を馴れ馴れしく叩くと、首を振ってこう言った。
「悪い事は言わん、挿れてない今ならまだ引き返せる」
「うるせえ。黒帯の突き、一度受けてみるか?」
「やってみな」
 顔面へ寸止めするつもりで見舞った正拳を、おっさんは回し受けでしっかりといなしてみせた。なるほど、ただの中年じゃないらしい。
「おれだって黒帯だよ。やめておけ。それより、おれは本当に心の底から、お前のためを思って言ってやってるんだ。そこの彼女は確かに魅力的だが、同時に危険だ。かみさんにするなら少し地味なくらいで……」
「他人の好みに口を挟むな。どういう権利とか義務があってそんな事を言うんだ」
「権利と義務ならある。おれがおれの心配をして何が悪い、って話だ」
 今、聞き捨てならない事をさらりと言ったような。
 訊き直すまでもなく、おっさんは改めて最悪の自己紹介をした。
「おれはな、十年後のお前だよ。タイムスリップできるようになって、真っ先にここへ来た」
「ふざけるな!」
 反射的にそう叫んでしまうのも我ながら無理からぬ話だった。目に見えて毛の薄くなった頭頂部、痩せこけた頬、不自然に出っ張った下っ腹。信じたくない事だらけだ。
「おれはお前だ。言いたい事は大体全部わかる。だが安心しろ、少なくともこの頭だけは何とかなるはずだ。彼女の度重なる浮気への心労がたたってこうなったんだからな」
「マジか」
「大マジだ。そして今この瞬間も六股くらいかけてる」
 おれはそれを聞いて彼女の方を振り返った。彼女は視線を逸らしたまま、一向にこちらを見ようとはしなかった。
「マジか……」
「しかも酷な話だが、六股の相手の中に○○と××と△△がいる事を知り一気に友人を失う」
「流石に嘘だろ!? 全員小学校からの仲だぞ……」
 その場で狼狽えていると、また新しい声が聞こえてきた。
「そんなのは、まだ序の口でしかないぞ」
「誰だあんた」
 おれと十年後のおれの声が見事に重なった。視線の先に雁首揃えて続々と現れたのは、風采の上がらない男たちだった。
「おれは二十年後の」
「おれは三十年後の」
「わしは四十年後の」
「わ、わひは……」
「わかった。大体わかった。で、どうなってるんだ未来のおれは」
「事業を興したが経理を彼女に任せたら税務署にマークされた」
「その事業も十年後には彼女の連れてきたよくわからん男に乗っ取られたよ。おれの手元に残ったのは二束三文の金だけ」
「そいつを元手に穏やかな老後を送ろうとしたら彼女から世界一周旅行に行きたいとせがまれて、中南米の反政府組織と中東のイスラム過激派に捕まって国民から大バッシングを受けた」
「それでも、無事に帰って来れたと思ったら、し、終いにわひと負債を残して先に逝っちまいよった」
「わかった、もういい」
 愚息も意気消沈するほどの波乱万丈っぷりに、おれは思わず両手を上げて降参してしまった。もうたくさんだ。確かに、ここで手を引いた方が得策かも知れない。
「と、いう事らしいんだけど」
 おれは最後に彼女の顔色をうかがった。勿体ない。惜しい。この期に及んでそんな言葉が矢継ぎ早に脳裏を過ぎるほどに、やはり彼女は魅力的だった。
 沈黙を守ってきた彼女が、遂に口を開いた。
「えっ、よかったでしょ?」
 話を聞いてたのか。こちとら死にそうな目にあったんだぞと五人の未来のおれが 次々にブーイングを飛ばした。だがきょとんとした表情のまま、彼女はしれっと言ってのけた。
「それでも別れなかったんでしょ? なら、成功じゃない」

 未来のおれたちはその一言に何も言い返せなくなって、すごすごと帰っていった。
 邪魔者がすっかり消えた後で、彼女は再びシーツをはらりと脱ぎ捨てた。
「退屈はしなくて済みそうだけど、どうする?」
 答えるまでもなかった。おれは今度こそ彼女に身体を埋めた。お楽しみはこれからだ。


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