泉 鳴巳さん

泉 鳴巳(いずみ なるみ)と申します。 煙と珈琲とすこしふしぎな方のSFが好きです。文章を書くことが好きです。短編が好きです。 まだまだ拙いですが皆様の作品を拝読して勉強させて頂きたいと思います。宜しくお願い申し上げます。 HP:http://izmnrm.wpblog.jp/ Twitter:@Narumiluminous

性別
将来の夢 不労不仕
座右の銘 見ている世界を信じるな

投稿済みの作品

3

誓い

16/10/07 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:2件 泉 鳴巳 閲覧数:755

この作品を評価する

『……末筆ではありますが、貴殿のご活躍を心よりお祈り申し上げます』
 流れるような動作で用紙を丸め、屑籠へ放り込む。これで通算百社目の不採用通知だ。
 大学を卒業して、もう二年。在学中から考えれば、三年近く就職活動を続けていることになる。近頃は焦燥感さえ覚えなくなってきた。
 僕はテーブルの上のスマホを取り、友美にメールを打った。
『また、ダメだったよ』
 友美とは大学生の頃から付き合っている。初対面から妙に馬が合い、気付けば自然と交際が始まっていた。
 一時は同棲もしていたが、彼女が就職とともに県外へ引っ越し、現在は離れて暮らしている。
「就職が決まったら、私を迎えに来てよね」
 二人の約束。彼女は“いつまでも待つ”と言ってくれたが、いつまでも待たせられるとは僕も思っていない。そして現状の出口は未だ見つからない。
「本当にもう、駄目かもしれないな」
 部屋の隅で一人呟く。
 もしも過去に戻れたら、僕はもっと上手くやれただろうか。
 筆記試験で意識が朦朧としないよう、前日風邪薬を飲んで寝る。
 初めて最終面接まで行ったあの日、駅で倒れたお婆さんに会わないような道を通る。
 待ちぼうけをさせないように、最初から友美と出会わない……。
 そんなことを考えていたら、握りしめたままのスマホが震えた。
『外にきて』
 友美からだった。

「やっほ」
 アパートを出ると、見覚えのない軽自動車の前で友美が手を振っていた。
 言いたいことは色々あったが、結局僕の質問はシンプルだった。
「どうしたの、それ?」
「買ったのよ。中古だけどね。名前はデロリン!」
「デロリンって……」
「さあ、乗って! あなたに見せたいものがあるの」
 二の句の継げない僕を強引に助手席に乗せると、彼女は片目を閉じて微笑む。
「こう見えてこの車、タイムマシンなのよ」
 デロリンは1.21ジゴワットの電力を賄えるとはとても思えない、大分年季の入った車だった。
 走り出してから、彼女は無言を貫いている。僕も色々と問い質す気力は無かったから、なすがままに助手席のシートに揺られていた。

「着いたわ」
 彼女が車……デロリンを停めたのは、小さな教会の前だった。
 促されるまま聖堂の中へ入ると、ひやりとした空気が肌に触れる。薄暗さも相俟った独特の雰囲気は、ここだけまるで別世界のようだった。
「見せたいものって、ここ?」
 他に人はいないみたいだ。僕の声だけが堂の中で反響する。
 友美は質問には答えず、ポケットから何かを取り出した。
 目を凝らしてみれば、百円ショップで売っているようなちゃちな指輪が二つ。
 それを見た僕の頭の中では、良くない想像が渦巻いた。
 いよいよ痺れを切らした彼女は、ここでお遊びの結婚式をして心を満たしたいのではないか? そして、僕との関係を未練なく断ち切りたいのではないか?
「想像してみて。今いるここは未来なの」
 訴えかけるような眼つきで、彼女は指輪を一つ、僕に渡してくる。
 僕は思わずそれを受け取ってしまう。尚も彼女は固い表情を崩さない。
「想像して」
 まあ、いいか。僕は思った。ままごとでも彼女が満足するのなら。そして僕のことを諦められるのなら。
 入場……はしているから、次は指輪の交換か。妙に底冷えした心地で、玩具の指輪を彼女の指に伸ばす。
 そして、僕らの指先が触れ合った瞬間。
「あっ」
 イメージが。映像が。洪水のように頭の中に流れ込んできた。
 ウエディングドレスに身を包んだ友美。
 可愛らしい赤ん坊を抱き微笑む僕。
 僕と子供を玄関で送り出す友美。
 親子三人での賑やかな食卓……。
 僕の中は、友美との未来で溢れかえった――

「汝、病めるときも……」
 友美の声で我に返った。僕は暫し放心状態だったようだ。
 いつの間にか彼女は僕の隣に移動していた。呟いているのは、誓いの確認。
「……真心を尽くすことを誓いますか?」
 まるで現実のように感じられた光景を思い出し、鼻の奥がつんと痛んだ。
「僕で良いのかなぁ」
「あなたじゃなきゃダメなのよ」
 そんな情けない僕にも、友美は口唇をほころばせる。
 途端、堰を切ったように漏れ出す想いに、視界がぐにゃりと滲んだ。
「誓い、ます」
「私も、誓います」
 彼女は満足そうに笑みを咲かせた。
 そして、僕らは誓いのキスをした。
 ゆっくりと唇を離すと、照れ臭そうに微笑む友美の頬は濡れていた。きっとそれは、僕の涙だけじゃない。

 僕らはこれからどうなるのだろう。未来を垣間見たからといって、現実が変わったわけじゃない。それは分かってる。
 でも、出口にあの湯だまりのような世界が待っているのなら、もう少しだけ頑張れる。そう思える。
 悪戯っぽく歯を覗かせる友美を抱き寄せ、僕は心の中でもう一度誓いを立てた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/10/23 泉 鳴巳

海月漂 様

お読み頂きありがとうございました!
タイムスリップを書くときは色々と都合が良いので(エヴェレットの)多世界解釈と世界線(いわゆるパラレルワールド)の存在を前提にしています。
垣間見た未来は無限の可能性の中のたった一つでも、観測されたことで確かに存在はしているはずなんだー! 的なことを書きたかったのです。
「過去をやり直すのではなく垣間見た未来へ進むための、タイムスリップ」と、まさに書きたかったことを端的に表して頂きありがとうございます。

ログイン