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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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最期のツッコミ

16/10/05 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:615

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 佐川が病室に入ると、堀内がベッドの上で目を閉じていたが、物音に気づいて目を開いた。
「調子はどう?」佐川が聞いた。
 ゲッソリとやせ細り目の下に濃いクマができている堀内が、生気を失った顔に無理やり笑顔をつくり、
「調子はいいよ」と言った。
 会うたびに病状が悪くなっていく堀内をみるたびに、佐川は悲しい気持ちになる。コンビ結成20年のベテランお笑いコンビだったが、受賞歴はとくになく、舞い込んで来る仕事といえば、一般人の結婚式での営業だけだった。
 半年前の夏、営業先の待合室で堀内が胃が痛いんだと言った。佐川は心配して病院で診てもらえと言ったが、堀内は市販の胃薬を飲んで痛みを我慢していた。
 それから数ヵ月後、路上で倒れた堀内が病院に緊急搬送されると、検査の結果、胃ガンだと宣告された。ガンはすでに血液に乗って他の臓器に転移し、医師からステージ4だと言われたと、泣きながら堀内は病院に駆けつけた佐川に言った。
 佐川はその時、ショックから何も相方に声をかけてやれなかった。
 高校時代の同級生の堀内とコンビを結成し東京に上京してから、2人の関係は徐々にギクシャクしていった。上京したての頃は、よく2人で金が無いのに酒を飲みに行ったが、5年が経過すると飲みに行くことは無くなった。10年経つと、互いに並んで歩くのも嫌になり、距離をとって歩くようになった。20年が過ぎたいま、ステージ以外では話さなくなった。佐川は堀内を心の底から嫌い、堀内もまた同じ気持ちでいるのを佐川は感じ取っていた。
 だが、ステージ4だと堀内から聞かされた時から、佐川はガンに蝕まれている堀内が哀れに感じ、どうか助かってくれと願わずにはいられなかった。
 毎朝、近所の神社でお祈りするようになり、ガンが治ると言われている湧き水を、1週間に1回、車で3時間かけて汲みに行き、それを堀内に飲ませていた。
 
 ベッドの横の棚の上に、花瓶に生けられた一輪の白い花が綺麗に咲いていた。佐川は花を指差し、「麻衣子さん、見舞いに来たの?」と聞いた。
 堀内は小さく頷いた。
 佐川は病室に入った時と同じことをもう一度聞いた。
「調子はどう?」
「うん、いいよ」と、堀内は言う。
 濃いクマができている顔をみながら、もう相方はたぶん助からないだろうと、佐川は改めて思った。せめて、相方の生きた証を残したい。芸人として生きた証を・・・・・・。
「麻衣子さん、何時頃見舞いに来たの?」
「昼前」消え入りそうな声で、堀内は言った。「3ヶ月だって・・・・・・」
「何が?」
「お腹の子供・・・・・・」
 佐川は言葉を一瞬失ったが、すぐに
「おめでたか、良かったじゃん」と言った。
「麻衣子、堕ろすって言ってた・・・・・・」
「そうなの・・・・・・」
 子供が生まれた時、堀内が生きているかも分からない。もし、堀内の彼女の麻衣子さんが子供を無事に生んだとしても、子供がいればその後の結婚にも支障をきたすかもしれない。そう考えると、佐川は麻衣子さんを責めることもできなかった。
「なあ、佐川」
堀内が目に涙を浮かべながら言った。
「どうした?」
「俺、やっぱり死ぬのかな?」
「死ぬわけないだろ。オマエと俺が死ぬのは、お笑いで天下を取ってからに決まってるだろ!」
「だけど・・・・・・」堀内は、大粒の涙を頬に流しながら、布団の上を子供がダダをこねるように拳で何度か叩いた。
 佐川はそんな堀内を、父親のような気持ちで見つめた。
「堀内、新作のネタ考えてきたんだ。読み合わせしようぜ!」
 佐川はベッドの横の椅子に座り、バッグからノートを取り出して堀内に開いて見せる。
「いいよ・・・・・・」
「何が?」
「俺、どうせもうじき死ぬんだから・・・・・・」
 佐川はノートを閉じ、自然と視線を足元に落とした。
 しばらく2人の間に沈黙が流れたが、堀内が空元気なのか本気なのか計り知れないが、血の気の無い顔に笑顔で、
「佐川、俺のためにネタ作ってくれよ!」と言った。
「ネタ?」
「俺、あの世でお笑いの天下取るよ!」
 本気で言ってるのだと分かった。
「よし! 俺があの世で幽霊を大爆笑させるネタ考えてやる! いま作ってやるからな!」
 佐川はバッグからペンを取り出し、ノートの新しいページにネタを書いていった。夢中で書いた。その間、堀内は目を瞑っていた。ネタが書きあがった時、病室の窓から強い夕日が射していた。
「できたぞ!」
 堀内の顔の半分が夕日で照らされ、もう半分が陰をさしていた。その顔はどこか堀内という人間の陽気さと陰気さの二面性を感じさせ、23年の付き合いの中で初めてみる顔に見えた。規則正しい小さな寝息を聞きながら、死期が迫っている相方に今生最期のツッコミを入れたいと佐川は思った。
「俺をおいて死ぬんかい!」
 寝息して返ってこなかった。


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