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小李ちさとさん

面白いと思ったことだけをやりたいのです。 space a:kumoというくくりで、ごそごそ活動しています。

性別 女性
将来の夢 砂漠で死ぬこと。
座右の銘 おれが おれがの がを すてて おかげ おかげの げで くらせ

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きっとそんな夜に

16/10/05 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:2件 小李ちさと 閲覧数:1118

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目が覚めて混乱した。景色がおかしい。私は大学の帰りで、バスに乗っていたはずだ。今だってバスには乗っているけど、使い慣れた路線バスじゃない。貸切バスで、走っているのは高速道路。隣は空席、周りに座っているのは同じサークルで活動しているよく知った人たち。何かのイベントの帰り?夢?何?
「あ、起きた?」
前の座席からひょいと顔がのぞいた。どきっとするのは片思いの相手だからか、事態について行けないだけか。
「茜ちゃんは先に降りたよ。そろそろ着くよ」
「……はい」
毎週末会う顔が、毎週末会うのと同じように私を見て笑う。老けてもいないし若くもない。今が今年なのか来年なのか分からない。
「よく寝てたね」
「朝早かったから…」
当たり障りのない返事。ちょっとだけ笑われた。
「今日も率先して動いてくれたしね。疲れたんじゃない」
「それ、先輩には言われたくないです」
いつも誰より多く働くくせに。周りのこと気遣ってばっかりいるくせに。そういうところが好きなんだばーか。
私の捻くれた答えの意図もちゃんと理解してくれたようで、先輩は黙って笑った。頭が引っ込む。一人になったのをいいことにスマホを確認すると、日付は2か月前になっている。タイムスリップ。そんな単語が頭に浮かぶ。
それにしては中途半端じゃない?そういうのって10年前とか20年後とかじゃないの?2か月前って、つい昨日みたいなものじゃない。そんな時に移動したところで何をすればいいんだろう。この時はどうしたんだっけ。このあと少しだけ片付けをして解散して、帰りはいつもみんなの送迎係をやってる先輩が同じように駅まで送ってくれて……
そこまで考えてはっとした。そうだ、この日はイベントだから車で来ている人が多くて、乗せてもらったのが私だけで。流れていたラジオの影響で車内の雰囲気がちょっといつもと違って、言いたかったことが言えそうだったのに、勇気が出なくて言えなかったんだ。
つまり、それを言いなさいってこと?
いやそれならさ、と瞬時に思う。他にタイムスリップすべき時、絶対あったよね。一昨年友達と喧嘩して謝れなかった時とか。小学校時代怒られそうで怖くて嘘ついちゃった時とか。高校時代その後二度と会えなくなる友達に最後に会った時とか。それらを差し置いてなんでこの時?たかが2か月前のことなんて、今だって取り返しがつくじゃない。毎週会える人になんて、いつだって何だって言えるじゃない。いや、この夜は言えなかったわけだけど。
整理が出来ないままバスを降りて、片付けをして、みんなと別れる。虫の声が急に耳に響く。星の明るい静かな夜。なんだこの素敵なシチュエーション。
「じゃ、俺らも帰ろっか」
「よろしくお願いします」
記憶の通りに車は出発する。ラジオは記憶のまま恋愛相談で盛り上がっていて、そういう話をしてもいい空気だなと、やっぱり思う。
……そうしたら、どうなるだろう。
何かが変わるのは確かだ。でも変わった後もう一回これからの2か月をやり直すのか、それとも元の時間に戻るのか。戻ったとして、今ここでやったことが影響するのかなかったことになるのか。いろんな疑問が頭を駆けめぐる。
だいたい2回目で上手にやろうなんてずるくない?チャンスを見送るほうがずるい?ああもう分かんない。
「あーちゃん」
「は、はい」
考え事ばっかりしていたから、声が裏返った。小さく笑われる。恥ずかしいと思う間もなく、言葉が続く。
「あーちゃんも、告白されたいなって思うの?」
「…………」
返事が出来なかった。生まれた沈黙の向こうに救急車のサイレンが落ちる。サイレンはあの時も鳴った。でもこんな質問はされなかった。それがどういうことなのか。
ハンドルを握る長い指を見つめながら、おそるおそる口を開く。
「……先輩」
「うん?」
「今日、何回目?」
我ながらなんてひどい聞き方だ。でもきっと通じる。確信がある。それでもぼんやりと薄暗い車の中、鼓動はずっと高鳴っていく。
「……今日は、2回目」
バックミラー越しの視線と分かりやすい返事。少しだけ笑った表情が窓越しの明かりに照らされて、それで理解する。
同じだ。今の先輩と私。同じ気持ちを、同じ感情を、大事に持っている。
胸が赤く高鳴る。
「私は、」
お喋りで盛り上がっていたラジオがバラードに変わる。いいムードすぎて緊張する。2回目なのに、もうぜんぶがはじめて。
「一緒がいいです。一緒に言いたいです」
私、どんな顔をしているんだろう。分からないけど先輩が嬉しそうに私を見てくれるから、嬉しさと安心がいっぺんにあふれる。
「分かった。じゃあ一緒に言おう」
心の準備が出来るより先に、せーの、のかけ声がかかる。だからぽろりとこぼれる。きらめく星のような街明かり。映画のBGMみたいな音楽。膝の上で握りしめた手。重なった声。
「好きです」


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このストーリーに関するコメント

16/10/16 ゲスの極みともえ

運命の相手と一緒にタイムスリップしているとは思いませんでした… 最後にお互いの気持ちが通じ合うあたり素敵です!

16/10/16 小李ちさと

ゲスの極みともえ さま

コメントありがとうございます!
タイムスリップものって、だいたい自分だけが違う時間に行っちゃうことが多いので
そうじゃなかったらどうなるんだろう?って思ったところで、こんな展開が生まれました。
分かりやすいハッピーエンドが好きなのです!でも自分ではあまり書かないので(笑)、素敵って言っていただけて嬉しいです。
ありがとうございました!

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