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吉岡 幸一さん

性別 男性
将来の夢
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【笑わせ人】

16/10/05 コンテスト(テーマ):第119回 時空モノガタリ文学賞 【 お笑い 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:689

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 夜の幕が降りてくる
 重い空の下に濡れた枯れ葉の友と共に
 傷ついていても自由な猫の群れが
 割れた椅子のうえに座って欠伸する
 舞台に泳ぐ笑わせ人は
 増えていく星を数えながら涙ふき
 幸せな笑いとはほど遠い笑いを想う
 汗をかき、髪を振り乱し、手をたたく
 あなたは笑ってくれましたか
 猫の観客に語りかけ、風のささやきを聴く
 コンクリートの野外舞台は水の色
 足踏みしてみれば硬い沼
 支えている悲しみを隠しながら
 猫の笑いを勝ち取ろうともがき苦しむ
 伸びきった草は力ない
 夢見た笑いの渦は夢のそと
 笑わせ人は退屈そうな猫に向かって踊る
 いつか立ち上がってくれるなら
 いつか笑いながら手をたたいてくれるなら



 真夜中のショッピングモール
 屋外に設けられた舞台は寝ている
 すり切れた朱色の街灯の明かりが生暖かい
 練習というには陰鬱で
 度胸付けというには物悲しい
 笑わせ人はひとり舞台に立つ
 幾人かの仲間がスポットライトを浴び
 幾人かの仲間が新しい朝を迎えた
 枯れ葉は土に還り、夜は朝に憧れる
 豪華な額縁で飾られた肖像は涙の海
 笑わせたいほどに涙は溢れてくる
 毎夜猫の観客に演じる姿は墨の川
 遠くから台風の笑い声が聞こえてくる
 近づくふりして避けていく
 山は動かない、駐車場は腹を空かせている
 長細い建物は眠るふりして起きている
 突然吹いては止む風はため息のよう
 いつか見てもらえるのなら
 いつか聞いてもらえるのなら



 晴れた空に輝くうろこ雲
 光溢れた舞台のしたには大勢の人
 笑い声、口笛、手拍子、指さす子供の手
 猫の姿はなく、闇夜は土の底に隠れている
 さあ、笑ってください
 わたしの話はあなたの話
 わたしの動きはあなたの動き
 喜びつつ、喜びを忘れ
 笑いつつ、笑いを失い
 踊りつつ、立ち止まり続ける
 なんて晴れやかな日なのでしょう
 天使の群れは笑いながら地上に矢を放ち
 墓場の亡者は笑いながら舞い踊る
 観客たちは小銭を投げながら笑い合う
 おかしいことはなにもない
 愉快な夢は見えない背中
 透明な猫の集団が青空を駆け抜ける
 なんて穏やかな笑いなんだろう
 なんて静かな時間なんだろう



 朝に眠り夜に遊ぶ笑わせ人
 悲しみを蓄えるほどに笑いたくなる
 ごくたまに訪れる喜びにしがみつき
 ごくたまに膨れる財布に嫌気さす
 尖った針金で喉を刺しながら飛び上がる
 なぜ人々を笑わせようとするのか
 なぜ人々を笑わせなければならないのか
 自問自答するも答えが滑り落ちていく
 あなたの笑顔がわたしの笑顔
 そんな言葉に救われたふりをして
 賞賛されるほどに敗北感が増していく
 朝に白猫、昼に透明な猫、夜に黒猫
 猫、猫、猫が土の底から吹き出してくる
 猛烈な風でビニール傘が舞い上がり
 アンモナイトが回転する
 夢を追いかけるわたしは幸せです
 皆を笑顔にするわたしは魅力的です
 わたしは特別なのです
 わたしは絶望できるほどに素敵なのです



 夜の幕があがっていく
 静かに静かに生クリームを舐めるように
 幕があがってみれば真っ暗な朝
 風が吹き荒れ、雨が頭を叩く
 猫の観客はいつの間にか去っていて
 どこまでも広がる朝の闇がたたあるだけ
 笑わせ人はもがきながら手を伸ばす
 もっと誰かを笑わせたい
 もっとあなたに愉快な気持ちを与えたい
 朝の闇を泳ぎつづける
 こんな面白い人見たことないよう
 どこからが声が聞こえてくる
 振り返っても朝の闇があるだけ
 なんて楽しそうな笑い声なんだろう
 笑わせ人の腹は熱くなり血が沸騰する
 見えなくても良い、聞こえなくても良い
 幻を肯定しながら、それが幻と知っている
 いつか万の笑いに包まれて
 いつか億の笑顔に愛されたい




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