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浅月庵さん

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何度だって俺はーー。

16/10/01 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:4件 浅月庵 閲覧数:869

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 ◇
「ごめんなさい。付き合うっていうのはちょっと……」
 
 ーー俺の真鍋ちゃんへの恋心はあえなく届かなかった。
 高校に入学して初めて真鍋ちゃんと出会い、一目惚れして、半年後に告白。この日まで俺が真鍋ちゃんと会話できたのは、指で数えられるほどの回数でしかなかった。向こうが俺のことを好きになってくれる要素、手応えもなにもないまま俺がガムシャラに突っ込んで、撃沈。当然の結果と言える。

 こんなにあっさりと振られるのなら、勇気を出してもっと自分を晒け出すべきだった。俺はこんなにも真鍋ちゃんが好きで、高校生の恋心なんて大人からみたら笑っちゃうほど単純かもしれないけど、俺にとっては本気だった。

 高校の入学式まで戻って、一からやり直したい。もし仮に願いが叶うのなら、今度の俺は前の俺より何歩も何十歩も真鍋ちゃんに近づけるよう努力する。溢れる涙が枕を濡らすと、俺はそのまま目を閉じた。

 ◇
 俺はカーテンから漏れる陽光に鬱陶しさを感じながら薄目を開ける。朝からドタバタとリビングの方がうるさい。
「あんた! いつまで寝てんのさ。入学式なんだからさっさと着替えて朝ごはん食べなさい」
 俺の自室のドアが、母親によって乱暴に開かれる。

 高校の入学式? なに言ってんだよ。今日は真鍋ちゃんに振られた次の日、10月13日のはずだろう。
 携帯に目を向けると、4月8日と表示されている。はっ? なんで半年前に戻ってんだよ。もしかして、俺の今までの高校生活は全部夢だった?なんて突飛な発想が一瞬頭をよぎったけど、そんなはずはない。

 母親と学校に行き、入学式を終え、教室の自分の席に座って、辺りを見回す。
 やっぱりそこには真鍋ちゃんがいた。他のクラスメイトも、誰一人変わることなく、知ってる奴らだった。それが俺に起こった不思議な出来事が、夢で片付けられるはずのないなによりの証拠だろう。頭がおかしくなっていると言われれば反論の余地はないが、確かに俺は高校の入学式まで巻き戻ってしまったのだ。
 
 昨日、寝る前に考えていたことが現実となってしまった。俺はまた、真鍋ちゃんに告白する10月12日まで同じ日々を過ごさなければいけないのか。

 ……いや、違う。せっかくの機会なんだ。俺は真鍋ちゃんと付き合える男になる、そんな自分に変わらなければならない。

 ◇
「ごめん。綾瀬といると楽しいんだけどさ、やっぱり友達としか見れないんだよね」
 俺は2度目の10月12日まで努力した……つもりだった。男友達と話すときのノリで、真鍋ちゃんに接触を試みた。毎日会話を交わすことができるようになった。でも、その接し方が反対に、自分自身の首を絞めてしまったのだ。

 ただノリのいい奴ーー。これが根本的な俺自身なんだ。他の女子と同じような態度で、真鍋ちゃんに近づいた。
 だからそれは、真鍋ちゃんに好きになってもらえる俺ではなかったのだ。

 俺はまたしても枕を濡らす。やっぱり俺は、真鍋ちゃんのことが諦めきれない。何度撃沈したって、俺は告白が成功するまでやめる気はない。今の俺が駄目だっていうのなら、もっと過去に戻ろう。どうか、俺にもう一度チャンスをーー。

 ◇
「ごめんね。貴久のこと、本当に良い人だと思うんだけどさ、私背が高くて中性的な顔の人がタイプなんだよね。こればっかりは譲れないんだ」

 俺は小学生時代からやり直した。運動や勉強に過剰なほど集中し、他人には常に優しくした。誰からも好かれる自分になったつもりだ。
 単なるお調子者を脱却したので、以前より遥かにモテるようになった。これなら真鍋ちゃんとも付き合えるーーそう思っていたのに。

 ここが俺の諦めどころなのか。何度フラれても真鍋ちゃんにアタックするつもりでいたのに、変えることのできない容姿について言われてしまうと、さすがに人生を何度かやり直した俺でもーー。

 ◇
 目が覚めると俺は、海を泳いでいた。たった一つの光を目指し、突き進んでいた。他にも俺みたいな奴らがいっぱいいて、みんな前だけを見て突き進んでいた。

 俺は高校の入学式に一度戻り、フラれ、その次に小学生時代に戻り、フラれた。俺は自分を一から変えるために過去へ戻り続けた。そして今は……。

 俺は自分の想いを反芻する。
「何度撃沈したって、俺は告白が成功するまでやめる気はない」
 
 なにもここまで戻すことはないだろう……。

 俺がこの過酷な生存競争を勝ち抜けるのかわからないし、仮に一着になったとしても、真鍋ちゃんにとっての一番になれるのか不安しかない。果たして今度の俺は、以前より格好良くなっているのか、背が高くなっているのか、遺伝子レベルで変異が起こるなんてありえるのだろうか。

 ーー今となっては、恐怖だけが俺を急かし、泳がせ続けるのだったのだ。


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このストーリーに関するコメント

16/10/01 空蝉

やり直してやり直して。
最後は生存競争のところまで巻き戻って、恐怖の中を泳がなくてはいけなくなる。
とても読みやすく、展開が気になり、最後まで夢中になって読んでしまいました!
執筆、お疲れ様です。

16/10/01 浅月庵

空蝉様

コメントありがとうございます。
オチまでの流れを意識して書きましたので、そう言っていただけるととても嬉しいです!

16/10/01 奈尚

作品、拝見しました。
段々と巻き戻す時間が長くなっていくので、嫌な予感がしていたらやはり……!
タイムスリップしてやり直すという行為は魅力的なようで、いつも不安になるのが「全て思い通りにやり直せるのか」という事。
それはやはり、やり直す時間が長ければ長くなるほど深刻な問題になるわけで、その恐怖を的確に描かれていると感じました。
素晴らしい作品を、ありがとうございました。

16/10/01 浅月庵

奈尚様

短い時間巻き戻すのだったらまだいいですけど、もう一度人生やり直すくらい戻って、その結果ダメだとかなり残酷だよなぁ、なんて考えながら書いてみました。
ご感想ありがとうございました。

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