1. トップページ
  2. こんな自分にもまだ変れる未来があるなら

石蕗亮さん

占師。および魔術師。 WEB幽にて怪談投稿してました。 弟子育成の経験や実体験を基にした不思議な話を中心に書いていきたいです。 沢山の方に読んで頂き、反論含めコメント頂けると幸いです。

性別 男性
将来の夢 作家、起業
座右の銘 人は言葉に置き換えれるものしか理解できない。置き換えた言葉でしか理解できない。

投稿済みの作品

11

こんな自分にもまだ変れる未来があるなら

16/09/26 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:1件 石蕗亮 閲覧数:579

この作品を評価する

 繰り返される平凡な毎日。刺激の少ない日常。
大それたことをしようという野望めいた夢も目標も無く、現状に緩やかな不満と不安を内包した時間を只惰性的に繰返し消化するような人生を過ごしていた。
休みの日といっても別段することがあるわけでもなく、引籠もる意思もなく、
居場所を求めるように街へでた。
目的も当てもなく散策をしていると見慣れない建屋が目に留まった。
それはコンクリのビルとビルの隙間に誂た様に移築された日本家屋のようであった。
樹の外輪そのままの伐り出した看板に毛筆体で彫られた<あすなろ>の文字。
店の入り口らしき所に立てかけられた『本』の看板がそこを本屋だと主張していた。
―こんなところに本屋なんてあっただろうか?―
立ち読みでもできればそれなりに時間潰しができるだろうと軒先を潜った。
 !!
店内に入るなり、明らかな異質さにそれ以上歩を進めるのを躊躇った。
外観よりも広い室内。それは大型の書店並であった。
また外観は和式建築であったのに大して内装は洋式であり、吊り下げられた照明が本棚と店内を電球色に染めていた。
恐る恐る店内へ歩を進めると再び驚愕した。
並んでいる本の作者名が全て『自分の名前』なのだ。
振返り別の本棚を見る。
慌てながら隣の本棚を見る。
更に隣の本棚、再び振返り次の本棚、次の本棚と次第に歩を早め睨む様に棚を目で追っていく。
雑誌、漫画、小説、Howto本からハードカバーまで、どの棚にも知らないタイトルの本ばかり。しかも作者、著者は全て自分の名前が記載されている。
「何だ…いったい何なんだこの本は!」
 「いらっしゃいませ」
声に振り向くと男が一人立っていた。
愕然とする自分に恭しくお辞儀をする男に叫んだ。
「ここは一体何なんだ!」
 「本屋、でございます」
「そんなわけあるか!」
 「そうお仰せになられましても」
「なんで俺の名前ばかりなんだ」
 「貴方の人生が記されておりますから」
「は?」
 「ここの本には貴方の人生が記されております」
「どういうことだ?」
その問いかけに店主を名乗る男は1冊の本を手にした。
タイトルは「宝くじ物語」
 「この本には貴方が一生のうちに買う宝くじについてのストーリーが描かれています。
何月何日にどんな宝くじを買い、外れ、当り、その一喜一憂が記され描かれております」
「なんだって?そんな莫迦な」
 「例えばですね」店主の男は徐に本を開くとぺらぺらとページを捲り
「先日駅の宝くじ売り場にてスクラッチを購入されておりますが、全部外れておりますね。しかしその場で次に購入された方が1等を当てており、もう一度買っていれば、と後悔なさっていますね」
店主の言うことに思い当りがあった。
「それが本当ならその本には未来の当選番号も載っているのか?」
 「左様でございます」
「いくらだ?」
店主が本を閉じ裏面の価格帯を見せるとそこには100万と記されていた。
「本の価格じゃないぞ!」
 「それはお客様がこの本にそれだけの価値を感じているからでございます。
ちなみに購入された本に記載されております未来の出来事は、購入された直後現実化『致しません』のでご注意ください」
「は?どういうことだ。それでは買う意味がないじゃないか」
そう言って本に目を落すと価格が0円に変わっていた。
「おい、価格が違うぞ」
 「お客様の価値観に拠ります故」
「こんな本に、本屋に意味なんてないじゃないか」
 「そんなことは御座いません。価値観は人それぞれでございますから。
例えば、冥王星を発見した天文学者が居りますが、あれは元々はその師にあたる方が提唱したものでした。しかしその師は発見することなくこの世を去り、それを引き継いだ弟子が発見しました。
その師はここで自身の天文研究の本を購入されております。
例え自身が成せずとも、その功績が後世に活かされるならと購入される方は沢山おります。特に医療や科学の分野におかれる方々には垂涎の本屋としてご評価頂いております」
「そんな大それたことは考えたこともない。今まで平凡な人生を送ってきた。これからもそんな大差の無い人生しかないはずだ」
 「それはお客様次第で御座いますよ。まだ先のある人生に何を見出すか。
人生結果が全てではございません。その過程を如何に楽しむかも人生の醍醐味だと私は思い、本屋として売らせて頂いております。
本に書いてある未来の結果が得られないのは未来を知ったが故の予定調和の修正といったところでしょうか。
まぁ、ゆっくりと店内を御覧になりながら今後の人生をお考えになられてみては如何ですか?」
店主はそう言うと店の奥へと誘った。

 私は神か悪魔か判らないような店主に促される侭、期待に背中を押され不安に足をとられながら暗闇の海に船を進めるように店の奥へと歩き始めた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/10/20 竜造寺

拝読致しました。
価値観によって価格の変わる本になるほどと思いました。

ログイン
アドセンス