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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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「あの人」が伝えてくれた

16/09/20 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:3件 あずみの白馬 閲覧数:649

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「お付き合いするって難しいな……」
 2020年の松の内も過ぎた頃、20代後半にして彼氏いない歴=年齢となってしまった黒川そらは、出会いを求めて合コンに行ったが、一次会が終わってそのまま帰って来てしまった。
 何より自分に自信が持てなかった。化粧しても地味で、どこに行っても目立たないしと、ネガティヴばかり考えてしまう。
「あの人、どうしているかな……」
 そらは数年前の出会いを思い出していた。

 ***
 
 2016年冬のセントレアでは、毎年恒例の音楽祭が行われていた。ここの名物イベントだ。
「これを聞かなくちゃ、年が明けた気がしないわ」
 たっぷり演奏を楽しんだ後、そらはスカイデッキに移動した。ちょうどメテオフライヤーの旅客機が福岡に向けて出発する時間だ。
 そらはこの旅客機が特に好きだ。黒一色の他にない渋いデザインは、執事のような頼れる男性を思い出させる。
「かっこいいなぁ……」
 見とれながらスマホを取り出して写真に収める。この後しばらく一人で飛行機を眺めて帰るのがいつものことだった。

 ところが、この日はいつもと少し違っていた。
「きれいですね。この景色」
 ナンパかと思って声の主を見ると、黒のスタジャンに帽子を目深にかぶった中性的な人物がいた。
「そうですね」
 とりあえず相槌を打って相手の出方をうかがう。
「メテオが好きなんですか?」
「あ、はい、かっこいいし、セントレアによく似合うし」
「ですよね。私もメテオ好きですよ」
 そう言いながら彼も写真を撮り始めた。そらはナンパではないとわかって少し安心した。それが目的ならターゲットを前にして写真など撮らないからだ。
 旅客機はスポットを離れて滑走路へと向かって行く。夕暮れの海が綺麗だ。
「あ、そうそう今日は政府専用機が来るんですよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ、回送だから入場規制もかかっていないし、撮れるかも知れませんよ」
「それは楽しみ!」
 政府専用機は普段、航空自衛隊千歳基地に格納されている。他の空港に来るのは珍しいことだった。
 メテオは誘導路を移動して滑走路を目指す。ほぼ同時に降下してくる白い機体の政府専用機が見え、二人とも夢中でシャッターを切りはじめた。
 程なくメテオが滑走路前で待機したその時、政府専用機が着陸態勢で入り、二機が同じフレームに収まる貴重な風景を収めることに成功した。
「いい写真撮れた!」
「僕もです!」
 二人が喜びの声をあげると、黒い機体は無事に離陸し、名古屋の空に消えていった。
 その後、飛行機の話で盛り上がりながら、二人は一時間ほどシャッターを切り続け、セントレアの駅で別れた。1時間ほどだったが、とても楽しいひとときだった。

 ***

 合コンの数日後、そらはセントレアで今年も演奏会に耳を傾けていた。
「(あの人は今年もいないか……)」
 そらはいつのに間にか数年前にひとときを過ごした「彼」を探すのが日課になっていた。
 夕方ごろに演奏も終わり、飛行機を見て帰ろうかと思って展望デッキに向かったその時、一人の老婆がそらに話しかけてきた。
「お主、何かに悩んでおるようじゃの」
 そらは無視して通り過ぎようとした、しかし……
「お主、会いたい人がおるのじゃろ? わしが会わせてしんぜよう」
 その言葉を聞いてそらは歩みを止めた。あの人のことがよぎったのだ。
「そんなこと、本当に出来るの?」
「ああ、この力を使えばの!」
 老婆が杖を一振りすると、そらの目の前がパッと明るく光って見えなくなった。

 ***

 気がついてスマホの時計を見ると、あの人に会った年の演奏会の日になっていた。
「まさか、タイムスリップ!?」
「そうじゃ、わしは駅の方で待っておる。気をつけて行って来なさい」
 そらは、過去の自分を探して空港内を歩いた。万が一見つかっても大丈夫なように、黒のスタジャンと帽子を買って目深にかぶる。ちょうど演奏会も終わって過去のそらがスカイデッキに向かい、今のそらもついていく、途中、窓に自分の姿が映った。

「え……!?」

 そこにいたのは、探し求めていたあの人だった。
 あとはあの日と同じ。過去の自分と話して政府専用機を撮って……、駅で別れた。

 そこに、件の老婆が待っていた。まさか未来の自分自身に想いを寄せていたとは思わなかったそらは、涙ながらに礼を述べた。
「真実は残酷なものですね。でもありがとうございました」
「何が残酷なものかね。自分を好きになれるなら、認めることも出来るはずじゃ。そうすれば明るい世界が開けるじゃろう」
 老婆はそう言い残すと姿を消した。
 そらはその言葉を胸に刻み、もっと自分を認めて前に進んで行こうと思った。

 そらに素敵な出会いがあったのは、それからすぐのことだったと、老婆は知っていた。


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このストーリーに関するコメント

16/09/20 あずみの白馬

原案協力:空筆さん
多大なるご協力をいただきました。改めて御礼申し上げます。

16/09/21 黒谷丹鵺

とても素敵なストーリーでした!

16/10/04 あずみの白馬

> 黒谷丹鵺 さん
ありがとうございます!
今後も精進してまいります。

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