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黒猫千鶴さん

初めまして、黒猫千鶴です。 ラノベ作家を目指してます。 時間がある時は覗いてみてください、よろしくお願いします!

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生ける本屋へようこそ

16/09/18 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:0件 黒猫千鶴 閲覧数:700

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「返してよ!」

 妹の悲痛な叫びが、書店に響く。私は手を伸ばす妹を止めることしか出来ない。

「貴様、この状況下でこんな物を読もうとは……恥を知れ!」

 制服を纏った男性が、怒鳴り声を上げた。もう一人がニヤニヤと笑ったまま、何もしない。声を張り上げている男性の手には、小さな子どもが好むお姫様の絵本がある。

「返してよ!」
「おい、ここの店主を連れてこい!」
「返して……」
「ここ、先月も注意を受けてるぞ」
「ふんっ、罰金どころじゃなくなるな……バカな奴め」
「返してったら!」
「うるさい!」

 とうとう痺れを切らしたのか、警官は本棚を殴る。鈍い音と共に棚はへこみ、何冊もの本が落ちた。
 足元に広がる物は全て、戦争や政治のエッセイ、またはモチーフにした小説、絵本。妹が欲しがっているお姫様が出てくるような、ファンタジーなものはない。

「ごめんね……」

 泣き出す妹に、私は謝ることしか出来ない。何て不甲斐ない姉なんだろう。

「貴様、姉なら指導してやれ。こんな時に……」
「こんな時だから……」
「何か言ったか?」

 警官の眉がピクリと動く。ここで反論しちゃいけないのに、でも、言わないといけない気がする。

「こんな時だから、夢を与えてあげたいんです! この状況にしたのはあなた達大人のせいでしょ!」
「貴様――っ!」
「お姉ちゃん!」

 男性は私の胸倉を掴んで、持ち上げた。足が床から離れて、首が絞まる。息が詰まって、頭がボーっとするけど、警官を睨むのをやめない。

「国のお巡りさん、その辺にしてあげないか」

 横から現れた男が男性の手に、そっと触れた。次の瞬間、警官の腕はだらんと垂れる。私は床に落とされる! と思ったけど、いつまで経っても痛みがこない。
 強く閉じていた目を開けると、男性がしっかりと私を抱いていた。

「大丈夫かい?」
「は、はい……」

 男性は優しく微笑むと、静かに床に下してくれた。私はジッと彼の顔を見つめる。

「小さな子どもに……それもレディに暴力を振るうのは、関心しないな」
「なんだ貴様は!」
「僕は生ける本屋さ」
「……ちっ!」
「……行くぞ」

 舌打ちをした警官をもう一人のお巡りさんが、宥(なだ)めて入口に連れて行く。納得がいかない、という眼差しで、こちらを見ていた。まるで、睨みだけで人を殺せそうな、憎悪が込められていた。

「あの……」
「取り敢えず、出ようか」

 助けてくれた男性は、微笑んで先に店を出る。私と妹は顔を見合わせて、しばらく考えた。周りの様子を窺(うかが)うと、複雑そうな表情をしている。子どもは目を輝かせているが、大人は困っているみたい。

(あの人は一体、誰なんだろ?)

 私が首を傾げていると、妹が手を引く。

「お姉ちゃん、行ってみよう」

 急かすように走る妹に引っ張られるように、私は本屋を飛び出した。

★☆

「やあ、待っていたよ」

 ベンチに座っていた彼は、手招きをする。

「ねえ、お兄ちゃんはどうして本屋って名前なの?」
「僕の名前は本屋じゃないけど……まあ、いいや」

 優しく微笑む彼――本屋さんは、両手を大きく広げた。

「僕が『本屋』と呼ばれるのは……たくさんの物語を知っているからさ」
「物語……?」
「自伝ではないよ、きちんとしたお話――例えば、さっき取り上げられた絵本は僕の中にある」
「本当!?」
「ああ、訊くかい?」

 妹は目を輝かせて、本屋さんを見上げる。
 彼は目を閉じて、空を仰いだ。静かに口を開くと、物語が訊こえてくる。それは姫が道に迷った男性と出逢い、恋をするもの。絵本の内容、そのものだった。
(凄い、どうして……)
 妹だけじゃなく、私も目を輝かせる。彼の物語に心を奪われ、圧倒された。そして、絵本はこんなにも夢を与えてくれる内容なのかと、嬉しくなる。

「……めでたし、めでたし」

 私達は大きな拍手を送った。

「じゃあ、七〇〇円ね」
「……え?」

 突然、お金の要求をされる。私は困惑して、妹は首を傾げた。

「言ったろ、僕は生ける本屋。今は一冊の本を提供したんだ。その分の代金だよ。これをタダで提供してちゃ図書館になってしまう」

 笑みを浮かべたまま、妹に顔を近付けた。元からあの絵本を買おうとしていたので、お金は持っている。だから、妹はゆっくりと覚束ない手つきで、ポシェットからお金を出した。

「まいど」

 お金を握り締めると、静かにベンチから立ち上がる。

「また、何か読みたくなったら、ここにおいで。僕はたまにここにいるから」

 そう言って、本屋さんはいなくなる。
 しばらくして、彼は本当にここでよく子ども達に夢を与えていた。ヒーローや王子様、お姫様と皆に笑顔を届けてくれる。
 そんなよく晴れた日の出来事だった――


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