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本宮晃樹さん

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性別 男性
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メタンのために鐘は鳴る

16/09/15 コンテスト(テーマ):第89回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:774

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 潜水艦(パワードユニット運搬型)の魚雷発射管から射出されるのは、何度経験しても気に食わない。まるで神話時代の非人道的兵器みたいじゃないか(例の〈回天〉とかいうしろものをご存じだろうか?)。
 ヴァイザに表示されたデータによれば、海底は三十五メートルほど下だ。俺を先頭に後続のPU部隊がピンポン玉みたいに次々と撃ち出されていく。降下するにしたがってどんどん視界が悪くなり、海底に降着したときにはもう真っ暗だ。サーチライトオン。魚群が不気味に浮かび上がる。
 海上ではメタンハイドレート採掘船団が、例の島が占拠されるのをいまかいまかと待ちわびている。実に用意のいいことに俺たちが日本国旗をぶっ刺したあとすぐに採掘できるよう、フライングで採掘用プラットフォームの建設を始めているという話だ。急ぎたい気持ちはわかるが、プレッシャーのかけかたとしては最高に陰険じゃないか?
 あとはお馴染みの海底行軍である。尖閣諸島の魚釣島目指して一路、背部スクリューを織り交ぜつつじりじりと間合いを詰める。酸素残量やら水圧やら海水の温度やらがごた混ぜになってヴァイザに表示されているが、こんなのを気にする必要はない。ほぼすべてがオートで管理されているのだ。
 二十分ものんびり散歩していると、やがて傾斜がきつくなってきた。徐々に周囲が明るくなってくる。サーチライトオフ。筋電位神経パルス増幅。グリア細胞活性、知覚速度倍化。ヒストンタンパクのアセチル化薬剤皮下注射。要するに俺たちPU部隊はいま、めちゃくちゃに強くなったわけだ。
「総員戦闘準備」海中では電波が減衰するので、通信はもっぱらアクティブソナーに依っている。そいつをパッシブソナーが雑音を除去して蝸牛へ伝達するのだ。「上陸まで残り一分」
 不揃いな「了解」。間もなくざばっと海から姿を現した。その瞬間バルカン砲が四方八方から飛んでくるなどということはなく(開戦当時はそういうこともあったそうだが、陣地構築は日中尖閣軍事条約で禁止されている)、待ち受けていたのは陸上用PUの群れ。毎度お馴染みの中国軍だ。
 背部スクリューをパージして軽量化。あとはもういつもの乱戦だ。メイドインジャパンがそれほど騒がれなくなって久しいが、やっぱり精密機械を作らせたらこの国に敵うところなんか存在しない。対する先方はしょせんメイドインチャイナ、こっちの機体が水陸両用なのにもかかわらず、彼我の性能差は歴然だった。
 増幅された筋力で次々と敵に殴りかかっていく。火器はずいぶん前に禁止されたので、派手なドンパチを期待する向きには少々泥臭いかもしれない。とはいえ通常のパンチの何十倍もの威力に耐えられるほど、PUの装甲が厚いなんてことはない。一撃もらえば致命傷。それ以上もらえばたいていモルグいきだ。
 幸い俺たちの着込んでいる〈ダイビングビートル〉には〈オラクル〉と呼ばれる有能な電子アシストがついていて、こいつが敵の不意打ちを自動的に回避――どうやってかというと、一時的に内部の人間の自由を強制的に奪って――してくれるので、死者が出ることはまれだ。
 あらかた殴り終わった。中国軍はほぼ全機が中破以上で大半が擱座。日本軍はドジな新兵が二人か三人ほど、いいのをもらったらしい(死んだのかって? 冗談はよしてほしい。幹細胞からニューロンを培養して秘伝のうなぎだれみたいに継ぎ足せる世の中だ。低温処置できる設備さえあれば突発的な死なんか起こりっこない)。いずれにせよ圧勝だ。
「さて、中国軍の部隊長どの」外部スピーカーモード。向こうのポンコツに翻訳機がついていれば、このまぎれもない日本語は中国語に聞こえるはずだ。「まだやりますか?」
「冗談じゃない」白旗を上げた証拠に、部隊長どのはPUを脱ぎ捨ててなかから這い出してきた。大声で怒鳴っている。「降参だ! やってられるかよ」
「それが賢明ですな。――副隊長!」
「はっ」ずっと死線をかいくぐってきた腹心の部下だ。過去に二回も脳死判定を下されては蘇ってきたゾンビ野郎。ちなみに俺の脳は四回ほど死んでいる。
「国旗掲揚してくれ」
 やつはそうした。PUに格納していた柄のついた日の丸を高々と掲げる。「国旗掲揚。総員、気をつけっ!」
 俺たちは――まともに立てるやつは――そうした。
「国歌斉唱」
 外部スピーカーモード。ブラスバンドを呼ぶわけにもいかないのでアカペラだ。だみ声が南海の孤島に響き渡る。金をもらってもご清聴したくないしろものである。
「国旗倒立」
 副隊長はそうした。中国の薄汚い国旗を蹴飛ばして日の丸を所定のエリア――半径一メートルほどの取るに足りない円――に突き刺す。日本領土、一丁上がり。少なくとも中国軍に奪還されるであろう数か月間は。
 彼我の戦力差を持っているはずの日本軍がなぜあっさり尖閣諸島を奪い返されるのかと、しばしば銃後のうすばかから聞かれることがある。そりゃもちろん全力で守備することはできる。でもそんなことしたら戦争が終わっちまうじゃないか。
 雇用はどうなる? もともとの用途である災害救助用に限定すれば、PUにそれほどの需要はない。研究医どもは脳細胞を秘伝のうなぎだれみたいに継ぎ足したときの、記憶や性格への影響を知りたがってる(俺たちは人体実験に供されているともいえる)。PUの修理屋たちも路頭に迷うだろうし、メタン採掘関係者だって困る。なにより俺たち職業軍人の食い扶持を誰が保障してくれるんだ?
 そうとも。これが現代の戦争なんだ。国のために戦う? もうそんなのは流行らない。
 俺たちは金のために戦うのだ。


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