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吉岡 幸一さん

性別 男性
将来の夢
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桜の花びらのあと

16/09/15 コンテスト(テーマ):第89回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:849

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ランドセルを背負った三人の一年生が私の前を歩いている

黄色いカバーをかぶせた真新しいランドセルと黄色い帽子

たよりない足取りで並んで進んでいる

この日私はいつもとは違う道を選んで職場へと向かっていた

私にもあんな時代があったのかしら

うたがいもなく、憂いもなく、孤独でもなく、

頭上では、桜の花は散り青葉が芽生えている

彼と別れたのも、そう、桜の散った頃だった

今はどこでなにをしているんだろう

あなたと過ごした時間はもうもどらない

学校の門が見え始めると三人の小学生は走りだした

「せんせいがいるよ、せんせいがいるよ」

門の前に立つ背の高い男性が先生なんだろう

「おはようございます、ございます」

一人ずつ帽子のうえから頭をなでられながら、どこか嬉しそうに子供らは門の中に消えていく

門の前を通り過ぎるとき、無意識に私は頭をさげた

真新しい白い運動靴と紺色のしわがひとつもないジャージが目に入ってくる

ほんの少し白い運動靴が前にうごく

「あの、肩についていますよ」

見上げるとはにかんだような若者の視線

瞳の色はライトブラウン、長いまつげがどこか愛らしい

「ほら、肩に、」

桜の花びらが三枚、肩の上にならんでいた

「取りましょうか」

私の返事を待つまえに若い先生は手をのばして、一枚一枚丁寧に花びらをつまんでいく

そして、手のひらに取った花びらを並べてみせた

やさしいハートの形をした三枚の花びら

顔を近づけようとしたとき、ふいに風が吹いて花びらは空高く飛ばされていった

 あまい桃色の香りが身体を通りぬけていく

「もう桜の季節も終わりましたね」

若い先生は桜の花びらを目で追うように空を見上げていった

「毎朝ぼくはここで子供らが来るのを待っているんですよ」

自然な微笑みがまぶしい

 無意識に私も微笑み返したような気がする

 十人以上の子供らが教室の窓から手を振っているのがみえる

「せんせい、せんせい、」「せんせいが遅刻するよう」

 若い先生は頭をかくと、軽く私に向かって頭をさげた

「毎朝、ぼくはここで子供らが来るのを待っていますから」

 そう言い残すと手を振る子供らのもとへ駆けだした

 白い運動靴の裏底がまだしろい

    明日もこの道を通っていこうかな、と淡く想いながら私はほそい道を歩きだす

「せんせい、せんせい」子供らの声が背中から響いてきた


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