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時空を超え出会った老人と男

16/09/15 コンテスト(テーマ):第118回 時空モノガタリ文学賞 【タイムスリップ 】 コメント:4件 ポテトチップス 閲覧数:917

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 村井は腕時計で時間を確認した。午後5時30分ちょうど。ポケットからタバコを1本取り出し、火をつけて吸うと大きくむせた。
 赤く染まったタバコの先を見ながら、なんて粗悪品だとこの時代のタバコに雑言を浴びせる。もう一度煙を肺に吸い込むと、幾分体は抵抗力を持ったのかむせずにすんだ。
 村井は短くなったタバコを側溝に放り捨て、新しい1本にライターで火をつけた。煙を吸い込みながら空を見上げる。カラスが数羽、近くの木の枝にとまって喧しく鳴いている。村井は煙をカラスがいる方に向かって吐きながら、35年前の東京はこんなんだったかと懐かしく思うと同時に、どう説得したらいいのだろうかと考えた。
 2051年からこの時代にやって来る時、タイムトラベル会社から厳守するように言われたのは3つ。歴史を変えるようなことはしてはいけない・未来人であることを人に言わない・3時間の制限時間を守ることの3つ。
 喧しい爆音を鳴らしたバイクが横を通り過ぎると、カラスが数羽、飛び去って行った。 村井は夕日に向かって飛んで行くカラスを見ていると、ふと遠くから逆光で顔がボヤけて見える体格が良い男が、道路の真ん中を肩を怒らせてこちらに向かって来ていることに気づいた。
 腕時計で時刻を確認する。タイムトラベル会社で検索してもらった時刻とちょうどだった。
 夕日の一部に雲がかかり、男の顔がハッキリと見えた。村井は35年前の50歳の自分を不思議な気持ちで見つめた。気が短そうな男に見えた。
 男が前を通り過ぎる手前、村井は声をかけた。
「すいません。この辺に映画館があったと思うのですが、案内して頂けないでしょうか?」
「用があるんで」男は、小さく言った。
「そうですか。これからどちらに行かれるんですか?」
 男は苛立たしいように唇の端を痙攣させながら
「爺さん、俺は今から忙しんだよ」
 村井は、血の気の多かった若かりし日の自分を恥じた。
 男はいっそう肩を怒らせながら歩き始めると、村井は男の作業服の腰辺りを触った。
「あれ? あなた、作業服の下に隠してあるのオノじゃないですか? こんな物騒な物、こんな所で何に使用するんですか?」
「おい、爺さん! 殺されてえーのか?」
 男は作業服の腰の下に手をあてながら、血走った目を村井に向けた。
 村井は遠くを指さし
「あそこのソロバン塾でも、そのオノで襲おうと思ってるんですか?」
 男は意表を突かれたように驚いた。
「長年、占い師をしておりましてね、よく当たるんですよ私の勘は」
 男は不思議な年寄りを見るように一瞥した後、またソロバン塾に向かって歩きかけようとした。村井はそんな男の左腕を強く握って引き留めた。
「よしなさいって。この時間帯は子供達がソロバン習ってるから、邪魔しちゃいけないですよ」
「邪魔なんかしねー! 皆殺しするだけだ!」
「あなた、35年間刑務所に服役することになりますよ。出所できる年齢は私と同じ85歳ですよ」
「何で、年が分かるんだよ」
 男は訳が分からないといった風に足踏みをし、
「とにかく俺は、もう何もかもが嫌になったんだ!」と怒鳴った。
「あなたの怒りの矛先を、何の罪もない子供達に向けるのは間違ってませんか? 人生は犯罪に手を染めなければ、何度でもやり直しがききますよ。そうだ私、占い師をやってると先ほど言いましたが、あなたの手相を占ってあげますよ。さあ、両手を見せてください」
「爺さん、俺は子供を殺して刑務所に入りてえーんだ。俺の邪魔をするなよ」
「じゃあ、私を殺しなさいよ。どうせ先が短い人生ですからかまわないですよ。私をそのオノで殺せば、間違いなく希望通りに刑務所に入れます。さあ、どうぞ!」
 男は一瞬、鋭い眼光を村井に見せたがすぐに背中を向けた。
「世間をあっと言わせたいんだ。爺さん1人を殺しても、ニュースにもならないだろ」
「世間をあっと言わせたいなら、一生懸命に働くなりして周りの人達をあっと言わせればいいんじゃないですか?」
「とにかく俺はムシャクシャしてて、ガキを殺したいんだ!」
 男はオノを右手で握って、子供達の自転車が多く止まっているソロバン塾に向かって歩き始めた。
 村井はそんな男に走って近づき、背中に小刀を突き刺した。
 タイムトラベル会社の約束事項である、歴史を変えるようなことはしてはいけないを、守ることができなかった。
 でもこれで良かったのだと村井は思った。罪の無い子供の命が失われるくらいなら、未来の自分が過去の自分を殺した方がマシだ。現にタイムスリップができるようになってから、同じようなことが2051年の新聞の紙面で多く見られた。タイムスリップがもっと早くに実現できていたなら、35年前にソロバン塾の子供達をオノで襲撃する前に、未来の自分に殺されていたかったと、村井は哀しく思った。


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このストーリーに関するコメント

16/09/17 クナリ

超科学を手に入れてなお、人は自分の無力さに打ちひしがれるのかもしれませんね…。
まだまだ実現しそうに無い時間移動。悲しいお話ですが、犯人がこれくらい後悔してくれるのなら、懲役刑というものに本来的な意味が見出されるのかもしれませんね…。

16/09/17 ポテトチップス

クナリさまへ

コメントありがとうございます。
村井は35年間の刑務所生活で、きっと自分が犯した罪を悔いたのだと思います。だから過去にタイムスリップして、歴史を変えてしまったのかもしれませんね。

16/10/28 光石七

拝読しました。
村井は刑務所の中で本当に後悔したのでしょうね。
読後、哀しさの余韻に浸る一方で、タイムパラドックスのことを考えました。

16/10/29 ポテトチップス

光石七さまへ

コメントありがとうございます。
村井はなぜ、35年前に子供達をオノで襲撃してしまったのでしょうか。
村井の口から聞いてみたい欲求を、私は感じてしまいます。

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