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手紙

16/09/11 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:0件 天沈 閲覧数:589

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 お久しぶりです、お元気ですか?届くことのないと知りつつ、今あなたにこの手紙を書いています。あなたにお別れを告げられてから、実に五年もの月日が過ぎました。早いものですね。十九歳だったあの頃の私はまだ子どもで、社会人のあなたから見ればひどく不安定に映ったかも知れません。ごめんなさいね。あなたが初恋だったから、ひとつひとつ覚えていくのに必死だったの。一生懸命だった事だけは、どうか分かって貰えると嬉しいです。
 初めて二人が出会った夜を、あなたはまだ覚えていますか?画面を介して、文字のやり取りしかした事がなかったあなたと食事をするのは、ひどく緊張しました。待ち合わせに来たあなた、随分と想像と違ったのは、私の勘違いだったのかしら。二十四だと聞いていたのに、本当は三十二歳だったわね。どうして八つも歳を誤魔化したりしたの?どんなあなたでも、私はきっとあなたに会いに行ったんだと思うわ。
 待ち合わせ場所から、二人並んで歩く通りには小雨が降って、あなたの肩を少し濡らしていました。一本だけの傘の下、お互いの手が触れるか触れないかのもどかしい距離に、胸がうるさく震えたのを覚えています。赤信号の交差点で、あなた言ったわね。「もう少し、傍に寄ってもいいかな」って。優しい声と柔らかな瞳に、心が揺れたのは本当。恋に落ちるって、理由は単純なのかも知れません。
 落ち着いた照明の店内には、静かなバラードが流れてた。慣れないお酒を飲んで、あなたと他愛ないお喋りをして、とうに日付は越えていたんでしょう?テーブルの下で、そっと腕時計を外したあなた。そんな小細工しなくったって、私は一緒に朝を迎える覚悟くらいしていたわ。二人手を繋いで降り立った夜は、街のネオンが青く滲んでとても綺麗だった。あの時の言葉、まだ覚えていますか。「何も聞かないで」って、あなたは言ったの。だから私、疑問は全部呑み込んで、あなたの部屋まで行きました。
 肌を重ねるのは、正直すこし怖かったけど、大丈夫って言い聞かせて目を瞑った。「優しくする」なんて言って、あの日のあなたは嘘つきでしたね。だってちっとも、優しくなんてなかったじゃない。二人で果てた後に開け放った窓からは、おぼろに輝く三日月が見えた。それはとても美しい光景で、なぜか少しだけ寂しかったわ。私、三日月を見る度に、あの日の事を思い出してしまうの。あなたはどうかしら。私と同じだと嬉しいです。
 付き合い始めて、二週間目の事でした。あなたにもう一人、恋人が居るって知ったのは。「別れるまで待っててくれ」って、あなたは言いましたね。「向こうから振ってもらう、円満に別れるにはそれが一番いいから」って。お陰様で、私半年も待たされたのよ?その間に、あなたは何度私を抱いたでしょう。「大人には、いろいろ都合があるんだよ」って、それは言い訳にしかなりません。それでもやっぱり、「お前だけだよ」と言って貰えた日は嬉しかった。
 本当は、あなたが昔の恋人と会っていたことや、会社の女性と過ちを交わしたことには目を瞑りました。今度から、酔っぱらって間違い電話を掛けては駄目よ。あれって結構、女は傷つくんだから。それからね、携帯電話のパスコードは、せめて私の誕生日にしませんか。昔の恋人の語呂合わせ、3103(サトミ)って酷いじゃないですか。昔のことを愚痴グチ言うのは悪い趣味なんだろうけど、あれはサトミさんにも失礼です。だからね、金輪際やめましょう。
 そうだ、大事なことを言い忘れていました。あなたが私にお別れを言った時のこと。仕事が忙しくて、イライラしていたのよね?加えてまともに連絡を寄越さない私に、気持ちが冷めてしまったのでしょう。ごめんね折角、「君が卒業したら結婚しよう」とまで言ってくれていたのに。私のために心を入れ替えて、他の女性達とも縁を切り始めていたのにね。ごめんなさい、でも仕方がないじゃないの。『円満に別れるには、相手から振ってもらうのが一番』なんだもの。
 不思議に思わなかった?時間を持て余した大学生の私が、月に二回のデートで満足していることを。不思議だと感じなかった?約束を破られたって、一度たりとも怒ったことの無い私を。本当に、不思議だと疑わなかったの?就職活動に託けて、二か月以上あなたからの連絡を無視し続けた私のことを。やあね、教えて呉れたのはあなたじゃないの。『大人にはいろいろ都合がある』んでしょ。
 突然だけど、私はこのたび結婚することになりました。相手は二つ年下の会社員です。私の大学の後輩なの。交際?うーん確か、五年前からだったかな。素敵なお店で食事して、そのまま私の部屋に誘ったの。口説き文句?そうね、「何も聞かないで」ってひとこと。ふふ、とっても魅力的でしょう?今ね、私はすごく幸せです。あなたは今、幸せかしら?この、遠い空の下。大切な人は見つかった?


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