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アシタバさん

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宇宙への旅

16/09/11 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:540

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 平凡な一般人が自分で宇宙へ行く。

 スペースシャトルが現役だった時代ならいざ知らず。太陽光で発電した電気エネルギーを使う宇宙船が主流になった現代なら不可能なことでもない。小型の宇宙船を購入して宇宙へ飛び出した旅行者の前例はいくつもある。が、『今度の夏季休暇に行ってみよう』と言えるほど、まだ簡単なことでもない。

 人生の楽しみはあきらめてひたすら働き資金を貯める覚悟が必要だ。さらに国家が用意した難解な試験もクリアしなければならない。『乗用小型宇宙船所有管理者資格』や『大気圏外飛行特殊操縦免許』などが代表的なそれだ。
 個人用宇宙船は製造しているメーカーは少ないし値段が高いが、中古の機体ならば購入の現実味は十分にある。
 離発着のために軍事基地の利用許可も必要だが一筋縄ではないともっぱらの噂だ。審査が厳しいらしい。許可が下りても高度800kmの熱圏より上へは行くなと厳しいお達しがある。軍が許可しない宇宙航行は重罪にあたるのだ。

 惜しみなく時間と労力の投資を続ける。そして、医師から健康状態良好と言われれば、晴れて宇宙へと飛び立てるのだ。
 もちろん全てが自己責任で宇宙での命の保証もない。

 スリルが欲しい金持ちの道楽だと思っていた。金のないオレには関係ないとも。

 アイツと出会うまでの話だ。

 軍の戦闘用ロボットを組み立てる期間工で知り合った男は自分の夢を嬉しそうにへらへら語るアホな男だった。ある日、お前には無理だと言ってやったら、「なら二人で宇宙へ行かないか」と誘われたのだ。アホらしいと言ったのだが差し伸べられたその手には抗えない魅力があった。同じことを繰り返すばかりのつまらない日々にウンザリし、その夢に縋りたかったのだ。

 宇宙へ行きたい。そう願った日から二人で必死に金を貯めた。寝る間も惜しみ、身体を壊しても、生活をギリギリまで切り詰めた。さらに今までにない程机に噛り付いて必要な勉強もした。くじけそうになっても、無数の星空を想えば不思議な力が腹から湧いた。

 十数年かけて中古の小型宇宙船がやっと購入出来た。雪のように白い流線型の機体に触れて胸が震えた。アイツと抱き合って喜んだ。必ず宇宙へ行こう。その時、柄にもなく固く約束を交わしたのだ。

 働きながら宇宙への備えをする日々を送っていると、前触れなく唐突に戦争が始まった。星と星との星間戦争によって、宇宙旅行の全面禁止という現実を叩きつけられた。オレたちは飛ぶことを許されない宇宙船をただぼうっと眺めることしか出来なかった。

 アイツは徐々におかしくなった。街なかでも、家でも、どこでも、「ここじゃない、ここじゃない」とブツブツ独り言を呟くのだ。オレはそれを止めなかった。オレも同じ気持ちだったからだ。二人で耐えていこうと諭した。

 なのに

 アイツは死のうとした。狭い宇宙船のコックピットで薬を大量に飲んで死にかけていた。気がついたオレが病院に知らせて一命を取り留めることは出来た。

 たった一つの夢を打ち砕かれて我慢ならなかったのだろう。その気持ちはよくわかる。だが、病院でアイツに約束しろと言った。夢を押し殺しても自分の生をとれ、夢のために全てを投げ出すなと。それを自分自身にも言い聞かせ、オレは手塩にかけて育てた自分の夢を殺した。アイツはただただ黙っていた。
 そして、数日後に宇宙船とともにアイツは姿を消した。

 年月がたった。顔にハッキリとした皺、頭には白髪が出来た。戦争は終わる気配はない。老いるためだけに日々を送る。ただ、いつも考えていた。アイツはどうしているだろうかと。

 そんな折、あるニュースを目にした。放棄された古い航空基地から無許可で小型宇宙船を飛ばし、敵味方の宇宙艦隊を上手いことくぐり抜け、宇宙の何処かへ消えてしまった人がいたらしい。ニュース映像には見覚えのある白い色の宇宙船が映っていた。オレはそいつを知っていた。

 あきらめろと言ったのに……。

 一緒に宇宙へ行こうという約束も、夢はあきらめろという約束も、結局、全部破られてしまった。

 だが、怒りも悲しみもなかった。なぜか、誇らしい、愛おしい、懐かしい、という感情が胸に溢れて液体のように混ざりあい綺麗な色をなした。唯一、置いてけぼりの寂しさだけはいつまでも溶けずに色濃く残っている。

 そんな胸の内で想うのだ。何処までも行くといい。何処までも。アイツが望んだここじゃない何処かへ。

 空を見上げる。彼方にある星空、白い宇宙船、アイツの顔を思い浮かべると涙がこぼれた。

 神様に願った。

 どうか

 アイツの出会う宇宙がオレたちの望んだとおりの場所でありますようにと。


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