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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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本屋が消えた故郷にて

16/09/08 コンテスト(テーマ):第117回 時空モノガタリ文学賞 【 本屋 】 コメント:8件 あずみの白馬 閲覧数:1984

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「この街にはもう本屋は無くなってしまったんだな……」
 俺は誰に聞かせるでも無く、つぶやくように言った。

 高校の頃から作家デビューを夢見て、小説を書き続け、気が付けば30代になっていた。
 それでもあきらめずに仕事をしながら持ち込みを続けた結果、小さな出版社から声がかかり、夢にまで見たデビューがついに決まった。それを聞いた当時の文芸部の仲間が出版記念パーティーを開いてくれたので、久しぶりに東京から電車で4時間の地元に帰って来た。
 ここに来る前、せっかくなら地元の本屋に置いてもらおうと何軒かあったはずの本屋をチェックしたが、過疎化のせいか、思い出深い『白神書店』を含めてみんな無くなってしまっていた。

 パーティーでは、懐かしいみんなが口々に祝福の言葉をかけてくれた。ただ一人を除いて……

 ***

 15年前のある春の日、文芸部のいつものメンバーが、この街にある『白神書店』に集まっていた。
「ついにこの日が来たか……」
 俺は感慨深げに目の前に山積みにされた作品集を見つめている。
 当時の文芸部の伝統で、卒業する部員の作品集は、白神書店に並べられることになっていた。
「ほんと、終わりって感じがするわね」
 同じ文芸部で俺の彼女、小夜子も感慨深く作品集を見つめていた。
「今年もみなさん、お疲れさまじゃの」
 俺たちの大先輩にあたる書店の店長がねぎらいの言葉をかけてくれたところで、全員揃って打ち上げへ向かった。

 打ち上げは盛り上がりのうちに終わり、俺と小夜子はこの街がよく見える高台に来ていた。
「もう明日には、お別れなんだね」
 小夜子は寂しそうに俺を見て言った。

 彼女は明日、家の都合でこの街を去り、外国へと旅立つ。まだ若い僕達にはどうすることも出来なかった。

「大丈夫、きっとまた会えるよ。ちゃんと連絡するから……」
 小夜子は黙ってうなづくと、星空の下で俺たちは熱いくちづけを交わした。

 しかし、時間と距離は残酷なもので、二人は時間が経つにつれてだんだんと疎遠になってしまった。

 卒業して何年かは年に何度か小夜子に連絡していた俺も、就職して東京に出ると、それもほぼ途絶えてしまった。
 そして、数年前、人数合わせに連れて行かれた合コンで知り合った今の妻と結ばれてしまった。
 小夜子に結婚の報告をしたが、返事は無かった。

 ***

 幸いにして小夜子はここにはいない。ある意味残念で、ある意味救われた。

「今の後輩たちはどうしているのかねぇ? 白神書店も無くなってしまったし」
 仲間たちにそれとなく聞いてみた。すると地元でサラリーマンをしているタケシが、
「ああ、そのことなら……」
 そこまで聞いたところで、居酒屋のドアが開いた。

 赤ん坊を連れたお母さん……、間違いない、小夜子だった。
「こんばんわ。お久しぶり! ごめんね、遅くなっちゃって!」
「さ、さよこ……」
 俺はしばらく絶句してしまった。あの日の思い出が走馬灯のように蘇る。
「あ、聖、お久しぶり。ついにデビュー出来たんだね! おめでとう!」
「あ、ああ」
 呆然とする俺を見て小夜子は続けてこう言ってくれた。
「本ができたら、うちの店に山積みにしてあげるからね」
「うちの店って? この街には本屋はもう無いはずだぞ?」
「ふふ、旦那は本屋をやるのが夢だったのね。都合でこの街に帰ることになった時、夢を叶えるチャンスだよって言って、白神書店を買い取ってもらったの。建物は古くなって解体しちゃったけど、ショッピングセンターの中で今もやってるわ。文芸部の作品集も置いてるわよ」
 そうか、あの店は小夜子の旦那さんが継いだのか……。
 感慨にふけったあと、みんなで馬鹿騒ぎ、気がつけば夜も更け、解散ということになった。

 どちらから言い出すともなく、俺と小夜子はあの高台に向かった。
「俺たち、ハッピーエンドとは行かなかったな」
「うん。あのね……、実は私、聖が結婚した時、もう婚約してたんだ。だから返事も書けなくて……」
 すっかりお母さんになった小夜子が申し訳なさそうに事実を告げた。俺は過去を吹っ切るように彼女に言った。
「そうか……、すまないな。でももう、すべて済んだことだ。それよりさっきの約束、頼んだぞ。地元には君の店しかないんだから」
「もちろんよ。それから二十冊ぐらいサイン本送って。うちの店で限定販売するから」
「え? いいのかい?」
「もちろん。そのぐらいさせてよ」
 小夜子は笑顔で販促の約束をしてくれた。

 ***

 発売日、白神書店の店頭には聖の本がたくさん並べられていた。

 本の中の世界では、あの日の二人が幸せそうな笑顔を見せている。小夜子は一冊手に取り、寂しげな笑顔を見せながらレジを打つと、その本を大事そうにカバンの中にしまった。


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このストーリーに関するコメント

16/09/08 黒谷丹鵺

過ぎ去った青春の日々と違う形で始まる未来への道、あずみのさんらしい優しい物語ですね。少し切ない余韻が残るのが素敵です。

16/09/08 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

青春の終わりと新しい始まりが、本屋を軸に瑞々しく描かれていてさすがだなと思いました。二人の間はハッピーエンドではなかったけれど、明るい未来が開けているなと暖かくなるラストで、良かったです。

16/09/08 あずみの白馬

> 黒谷丹鵺 さま
感想ありがとうございます。
切ない余韻……、必ずしも願った相手と結ばれるとは限らないけど、それでも人は生きていく。そういったところを感じていただければ幸いです。

> 冬垣ひなた さま
青春の終わり。それは切ないけれど、きっと未来の糧になると私は思っています。感想ありがとうございます。

16/09/09 葵 ひとみ

あずみの白馬さま

拝読させて頂きました(*^^*)

>時間と距離は残酷なもの
私も高校卒業直前に仲良しになってお互いに電話か手紙しか連絡手段のない時代に離ればなれになった人をあずみさまの作品で思い出しました。
幸せになっていることを心から願っています。
私の感性では「しっくり」ときました。
2000字以内でこれだけの時の流れやストーリー性を損なわず見事に完成された作品だと思います(*^^*)
心が暖かくなる作品を心からありがとうございます。

16/09/11 泡沫恋歌

あずみの白馬 様、拝読しました。

うちの近所にあった書店も2軒なくなってしまいました。
最近は大型書店しか生き残れない時代のようです。

ちなみに私が初めて出版した小説は、近所の書店に置いてもらいました。
知り合いが2〜3冊買っていってくれました。

そういう感慨に耽りながら、この作品を読ませて貰ったらリアルに感じました。
ちょっと切ない話だけど、最後はハッピーエンドということで良かったです。
スラスラと読みやすくいいお話でした。

16/09/12 あずみの白馬

> 葵 ひとみ さま
離れ離れになってしまった人、やはり幸せでいて欲しいと思います。
「しっくり」と来たという評価と、もったいないお言葉をいただきましてありがとうございます。
感想ありがとうございました。

> 泡沫恋歌 さま
本当に大型書店(チェーン店系)じゃないとなかなか生き残れない時代ですね。
紙の本は利益率が薄い(書店価格の20%前後が書店の取り分と聞いたことがあります)ので個人経営は厳しいのかもしれません。
出版経験もあるとのことで、流石と思います。
私はやったことがないもので……。

いいお話との評価もありがとうございます。
感想ありがとうございました。

16/10/09 あずみの白馬

> 海月漂 さま
共感していただきまして、誠にありがとうございます。
そうですね……。本を通じた再会。新しい関係が築けるといいなと作者ながらに思いました。

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