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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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バックミラーがデビュー戦

16/08/30 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:827

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「バックミラー?」
薄暗い曇天、
小雨が眼鏡人だけに感づかれる分量で降っている夕方。
市民病院のタクシー乗り場は閑散としている。
お母さんと男の子。
「今日はバスで帰るのよ!!」
と、駆けてる子の背中に倹約の矢を刺すのだけど、
男の子はまだ六歳でバスとタクシーの区別が不完全。
開かれてしまったタクシーのドアにバツの悪そうなお母さん。

「うふふふ、ねぇねぇ先輩先輩、可愛いじゃありませんか」
「何を言ってんだいあんたは、緊張感ってもののない娘っ子だこと。
あんたのデビュー戦の場所、わかってんのかい?」
亡くなって間もない新米の幽霊チトセくんと、
百戦錬磨の先輩幽霊、新米の指導役も少慣れて板付きのオヨネさん。
本日はチトセくんの幽霊初日。
「え?だからその、タクシーですよね?運転手のおっちゃんを、ギャアッと一声泣かせてやるんですわね?」
はぁっと、アクションも昭和初期なオヨネさん。
「何を言ってるんだい、いいかね、最初っから人間様に見つけてもらおうって腹が太いじゃないか」
「先輩、私拒食こじらせて死んでるんで、体重は四十キロありませんので、腹はこのとおりです」
「これ、あんた年頃の娘っ子が簡単に肌をさらすんじゃないよ、恥じらいってやつはどうしたい
ってねぇ、そんなこと言ってんじゃないんだよ、まったく今は飽食の時代ってわかっていてもわかりゃしないね。
喰うものがあるのに飢えてるなんざ、ってあんたの死にざまなんか興味がないんだよ。
いいかい、あんたはまだ幽霊のひよこなんだから、人間様のお目々直接見てもらえやしないんだよ、だからバックミラーさ」

そうなんです、
新米の幽霊はまずはタクシーのバックミラーに出現し、
人間様に発見してもらわないといけません。
気づいてもらえればしめたもの、続けてドロンとシートを濡らしましょう。

「ほら、いいかねそこの男が乗り込むそのタクシーだ、同乗するよ」
「はぁい、先輩」
運の悪い男だ。
奥さんの見舞いでなく浮気相手だったせいです。

「ホラ、駅までだから、すぐに降りるよ、そしたらこの車はまた病院へ引き返すからね
男が降りたら出番だよ、ちゃんと聴いてるのかい?」
オヨネさんは後輩の指導に熱心だが、
新米のチトセくんにとっては初めての幽体タクシー。
なんだかウキウキ楽しい様子。
「足がなくっても、車に乗ると楽ちんって感じちゃうもんですね」
なんてホクホク顔。
「ったりまえさね、胃を切除したって胃もたれはあるんだよ」
「はい?」
「わかんなくていいよ、いいかいホラ男が降りるよ」
「ああああ、せんぱぁい」
「なんだね、もう時間がないんだよ」
「このタクシーやめにしましょうよー」
「ああん、なんだってんだい」
「だってホラこの交通安全の御守り、キティちゃんのやつですよ、
きっとお孫さんにもらったんですよ、バックミラーの幽霊にびっくりして事故にでもあったら・・・」
「バカお言いじゃないよ、あんたも幽霊になって化けてんだから、恨みってものを抱えてんだろう。
何をお涙頂戴なこと言ってんだい、こんなこっちゃ幽霊家業が務まるかってんだよ」
「だって先輩、私の恨みは一人だけのものですもん、そんな他の人で目減りさせちゃぁ、勿体ないよう」
と言った瞬間のチトセのソラ恐ろしい狂気な顔が瞬間バックミラーに映りこんでいたが、
運のいい運転手、佐々木康平さん六十四歳は、
前の車のナンバーで語呂合わせ遊びの最中。

「すいませんでしたねぇ、先輩」
再び病院の前、
「あぁ、しっかしうぶなおねんねかと思ってたら、中々すごむじゃないか。ちょっくらゾクっと来たよ」
「うふふ、恨みのパワーは凄いもんですね」
先輩幽霊オヨネさん、先ほどのチトセくんの狂気の顔に、
ちょびっと興味をそそられた様子で、
懐から小銭。
三角の垂らしを外して袂。
「甘いコーヒーでいいかい?」
「えぇおごってくれるのですかぁ?」
「決まってるんだよ、先輩が新米に缶コーヒーっちゃ決めのシーンだよ」
「嬉しい私、食べ物は喉通らなかったけど、飲み物は、えへへ、ちょっと泣いちゃいますね」

騒がしいと邪魔が入ると、
二人は病院の屋上、雨が強くなっていて誰も来ない。

「ちょっと話そうじゃないか」

先輩幽霊オヨネさん、幽霊になって云十年語りたい過去は山とある。
新米幽霊チトセくん、この世に残した恨みは一つ、憑り殺したい相手はただ一人。
二人の話は病院の屋上で聞くものはない。
しんみりと雨は降り続けるが、
「あれぇ、先輩プルタブに指ひっかからぁん」
「なんだいお前は、言ってるだろまだ誰にも幽霊と認めてもらってないんだよ、わかりの悪い娘だよ、お貸し」
「せんぱぁい、やさしいですねぇ」
「幽霊にやさしいもへったくれもないんだよ」
ムードはなぜかしんみりでもない様子。


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