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南野モリコさん

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性別 女性
将来の夢 一生文章を書き続けること。
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木村家の幽霊

16/08/29 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 南野モリコ 閲覧数:1049

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私は木村家の幽霊。2階の勉強部屋に10年も棲みついている。私が出るようになってから、誰もこの部屋に入った人はいない。
「あ、幽霊、起きてる」
真下にあるダイニングで、弟が私の部屋を見上げている。「ヒロシ、やめなさい」。母がヒステリックな口調でたしなめている。
私は、21歳で幽霊になった。このババアに復讐するために。
霞という名前通り、私はどこにいても存在感の薄い暗い子供だった。仕事を辞めて暇だった母は、表向きは
「いろんな経験をすれば、友達が増えて明るい子になる」と言い、実はママカーストで上位に君臨するべく、私を英語、ピアノ、学習塾に通わせる教育ババアに変身したのだ。
弟のヒロシは甘やかされているのに、私はおもちゃもマンガも禁止。髪型も学則通りのダサダサで浮きまくり、友達もいなかった。
そんな中学高校生活にも耐え、私は見事、地元の国立大学に合格した。片思いしていたタカシ君と同じ大学に行きたい一心で勉強したから。その上、入学後、
「君のこと、ずっと好きだったんだ」
タカシ君から告白され、いわゆる「大学デビュー」を果たした。チャラサーに飲みサー。ババアが何を言っても平気。私にはタカシ君がいるんだもん。

しかし、別れは突然、やってきた。
「どうして?悪いところがあるなら、直すから言って」
理由を聞いたが、タカシ君はごめんと謝るだけだった。私は絶望のどん底に落ちた。タカシ君がいたから頑張れたのだ。ああ、もう立ち直れない。
私は大学を辞めた。ババアは泣いた。「お母さんが苦労していい大学に入れてあげたのに」
ババアの一言で、何かがプチンと切れた。もう生きていても仕方がない。死んで復讐してやる。こうして私は、木村家の幽霊となったのだった。
木村家の噂は町中に広がった。2階の窓に死んだ娘の頭が見えるとか、夜中、蛍光灯が点いたり消えたりしているとか。
「あの家は、親が厳しすぎたから、死んでも受験勉強しているのよ」というのが、町の人の共通した意見だった。

「霞、もうやめてちょうだい!」
母は、子供たち二人が独立したら、この家を売ってマンションに住み替える計画だったらしいが、幽霊が出ると噂されては売れる家も売れない。両親は、怪しげな祈祷師に「庭に木があるのがよろしくないですな」と言われ、毎年、楽しみにしていた柿の木を抜いたりと涙ぐましい努力をした。しかし、それで収まる訳がない。

「自殺の原因は母親らしいよ」「不倫だって」「父親にもバレて大変だったのよ」

木村家の噂はネットにも広がった。某巨大掲示板には「○○町木村家の真実」というスレが出来上がり、いつ撮ったのか分からない木村家の写真や「娘と同級生でお母さんもよく知っている」という匿名ユーザーの書き込みが投稿されていた。

「ギャアアアアアーーー」
掲示板を見た母親はショックで倒れ、そのまま寝込んでしまった。
「霞、もう許して。お願い」
母親は、呻くように呟いた。まだまだよ、ババア、私は一生かけて、あんたに復讐するんだからね。一生かけて!



その時、携帯電話が鳴った。「どうして私の携帯が?」着信番号には見覚えがあった。池田ヒロミだ。
高校時代、霞をバカにしていたグループの1人、ヒロミだ。なぜ私に?

「生きてたのね」
ヒロミは、陰で女王様と呼ばれるハデな女だった。30歳になって年相応の落ち着きは得たものの、その口調は変わらなかった。

「あんた、タカシにフラれて10年も経つのに、まだ引き篭ってるんだって?」
「関係ないでしょ」
そう言って驚いた。自分の声がババアにそっくりだったから。
霞は体を起こし伸びをした。何年ぶりかで全身ミラーの前に立つと、鏡に映ったのは、嫌がる私を無理やり塾に連れて行ったババアだった。タカシにフラれ、泣いていた21歳の私はもういないのだ。引き篭っていた間、霞の人生は止まっていたが、DNAは生き続けていたのだ。

「突然だけど、私、結婚するの。相手、誰だと思う?」
「ちょ、ちょっと待って」

タカシ君がこんなバカでわがままなヒロミと結婚するなんて。

私は、10年分の体の重さを感じながら、ドアを開けた。
「霞!出てきたの?」
ババアだった。私は胸が締め付けられそうになった。そこにいたのは、一回り小さくなった力のなさそうな「お母さん」だったから。

「言うこと聞きなさい」が口癖で、塾に通わせ、ピアノの練習をさせ、ちゃんと勉強しているか見張っていた、あの力が有り余ったババアは、今はこの私の中にいるのだ。

「出かけてくる」
「出かけるって、あんた、そんな格好で」「格好を気にするなって言ったのは、お母さんでしょ?」

タカシ君に会って確かめよう。
幽霊だった私は、スーパー・ババアになっていた。私には何だって出来る。だって、私にはお母さんの血が流れているんだから。


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