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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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僕の瞳で灼きつくしたい背中

16/08/29 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:7件 浅月庵 閲覧数:1589

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「日々屋のやつ、マジでぼっち」
「あれ完全に中二病引きずってんぞ。この前話しかけたら、オグロ星人がどうとか、意味わかんねーこと言ってたし」
 棚橋と山崎が、日々屋を馬鹿にする。日々屋は窓際に両腕を置き、空の様子を伺う。見つめ続ければ吸い込まれてしまいそうな青空が、日々屋の瞳に映る。
「てかさ、藤宮って日々屋と同じ中学だったんだろ? あいつ、中学のときはどんな感じだったんだよ」
 僕は強くなる心臓の鼓動をなんとか抑えつけながら、平静を装って答える。
「中学のときから変わってないね。ちっとも」
「アハハ!だと思った」棚橋と山崎が腹を抱えて爆笑するので、僕もつられて笑う。
 笑うけど、棚橋と山崎より一呼吸早く僕は冷静になる。

 ーー僕は日々屋と中学のとき、仲が良かった。
 二人ともアニメや声優のオタクで、休み時間はずっと趣味の話をしていた。
 僕は残念なことに学校で一番背が高かったので、ことあるごとに同級生からネタにされる。
 ハシゴがないなら藤宮を立てかけたらいいんじゃねとか、背がデカいからアソコもデカいんじゃねとか、くだらないことでしょっちゅう僕の名前が飛び出すので、気が気じゃなかった。
 根暗で、女子から気持ち悪がられる趣味を持っていて、できれば放っておいてほしいのに、僕の体格は誰よりも目立つ。そんなとき、僕は日々屋のことを羨ましく感じた。
「藤宮は馬鹿だな。背高い方が格好良いに決まってんじゃんか。大人になったらそのメリットがわかるよ」と日々屋は自分のことじゃないのに、自慢げに鼻息を荒くした。
 なんだかよくわからないけど、日々屋が自信満々な顔をしていると、その通りなのかもって気分になって、少しだけ胸のなかがスッとする。オタク仲間だけでなく、僕は友達として日々屋のことが好きだったのだ。

 ……だけど、次第に僕のなかの価値観、優先順位がずれていく。
 中学生ともなると、周りにカップルができ始める。学校帰り、手を繋いで歩く男女の後ろ姿を眺めるたび、僕のなかに羨ましいという感情が生まれるようになった。
 今まではアニメや声優のラジオの感想を話しているだけで楽しく、幸せだったのにーー僕もやはり、なんだかんだで男なのだ。

「日々屋はさ、彼女とかほしくないの?」休み時間、何気なく僕が質問すると、日々屋は無言でアニメ雑誌を開き、一人のキャラクターを指差すので僕は笑う。「二次元じゃなくて、三次元での話」
「ん、藤宮は彼女ほしいの。色気づいちゃうお年頃?」
「いやー、まぁちょっとね。でも僕たちもう中三だし、受験もあるからそんな場合じゃないけどさ」
 日々屋は雑誌を閉じると、少し考え込むような表情をした後に口を開く。
「藤宮ならいけるさ。応援するよ」
 真剣に考えてんだか、なにを応援するんだかわからないけど、日々屋の真っ直ぐな瞳を見ていると、どうにも僕は勇気づけられてしまう。一丁、やってみるかって気分になる。

 僕はその日からお洒落な美容室で髪を切ることにする。ワックスだってつけてみる。外履き用のダサい靴を格好良いスニーカーにしてみる。通学用のカバンだって汚いエナメルバッグから小洒落たバックパックに変えてみる。ファッション面ばかりだけど、まずは形から入ってみる。藤宮、なんか格好良くなったねとか言われる。元々背が高くてスタイル良いんだよね、藤宮は。今までなんで日々屋なんかとツルんでたのかわかんなーい。今度一緒に遊ぼうぜ、藤宮。藤宮、藤宮、藤宮、藤宮、藤宮。

 僕の名前が、色んな人の口から放たれる。

 ーー僕は一人ぼっち、窓際に立つ日々屋を見つめる。日々屋の手には、キャンパスノートが握られている。表紙が色あせ、汚くなってしまったノート。
 僕たちは中学のとき、二人でオリジナルアニメの設定やストーリーを考えていた。オグロ星人は、僕が考えた敵キャラだ。

 あぁ、また好きなアニメの話をしたい。僕の好きだった声優が、まだ結婚していないのか知りたい。今どんなアニメが放送されてるのか全然わからないけど、オススメを教えてほしい。
「おーい、藤宮。話聞いてる?」
「あぁ、ゴメンゴメン。なんだっけ?」
 今の自分が心の底から笑っているのか、楽しんでいるのかわからないけど。

 大人になるって、この世界は自分だけのものじゃないって自覚することだと思う。

 僕がこんなこと、直接日々屋に言える立場じゃないし、日々屋だって急に離れていった僕のことなんて嫌いだろう。

 だから僕は、もう日々屋の元へは戻れない人間になってしまったから、日々屋がこっち側に来てほしいと願う。

 願うから、僕は必死に日々屋の背中を見つめる。僕は日々屋の背中を灼きつくすほど、食い入るように見つめるけど、彼はそれに気づかない。

 彼はそれに気づかないし、彼の瞳に僕はもう、多分映らない。


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このストーリーに関するコメント

16/09/04 日向 葵

浅月庵様

拝読させていただきました。
思春期特有の裏切りをうまく表現されていて素敵だと思います。

藤宮は自分は日々屋を裏切ったと思っているようでしたが、日々屋の思いとしては「藤宮ならいけるさ。応援するよ」などの会話から、あまり裏切られたという気持ちは感じていないような気が致しました。

また、日々屋の友人が離れて行ってしまうという悲しい気持ちが描写から伝わってきて、秀逸な作品だと感じました。

16/09/05 浅月庵

向日 葵様

コメントありがとうございます。
思春期ってどうも些細なことですれ違ったり、単純に話してみれば分かり合えそうなのにそれができずもどかしかったり......そういう複雑な感情を表現してみました。
ご感想いただけてとても嬉しいです。

16/09/10 クナリ

はたから見ればもしかしたら大したことじゃなかったり、そんなのどうなもなることだよと言われたりしそうなことでも、当人たちにとっては人生のかかったものに思えたりするというのは、身に覚えのある人は多いのではないかと思います。
特に、オタク関係はナィーブなことも多いので、深刻に悩ましい感覚がありますよね。
「オタクはちっとも恥ずかしいことじゃないよ」と言ってくれても、二次元を愛する当の本人たちは「いや、恥ずかしいものだよ」と感じてたりして。
切なくもリアルな感情がありました。

16/09/27 浅月庵

クナリ様

コメントありがとうございます。
学校内というコミュニティが中心で生活していると、そこが自分にとっての全てだと思いがちですよね。
リアルだと言っていただき、とても嬉しいです。

16/09/28 光石七

拝読しました。
思春期の意識の変化や友達との関係のずれ、微妙な心情など、リアルに巧みに描かれていて凄いと思いました。
大人になるということは、裏切りや痛みを伴うものなのかもしれませんね。
素晴らしかったです!

16/09/28 浅月庵

海月漂様
コメントありがとうございます。
自身に重ね合わせるという読み方をしていただけてとても光栄です。
誰にでも訪れる思春期のなかで、二度と戻れないからこそ今となって貴重な時間だったなと改めて感じます。

光石七様
コメントありがとうございます。
子供が大人になっていく成長過程を書くのが好きだったりするので、今回の掌編に落とし込むことができて満足です。なおかつ感想までいただけてとても嬉しいです。

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