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しーたさん

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それはありふれたラプソディのように

16/08/28 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:0件 しーた 閲覧数:670

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 耳元で無線機がザザ、と音を立てて、
「作戦は失敗した、A隊離脱せよ。繰り返す。作戦は失敗した、A隊離脱せよ」
 エリはガスマスクの下で一瞬驚いた表情を浮かべた後、人目につかないルートを通って基地に戻る途中のA隊の仲間と合流した。

「特攻役だったD隊が全滅したらしいよ」
 基地に戻ると、B隊のユンがそう教えてくれた。そのために作戦は失敗したのだと。
 それを聞いて、エリは内心青ざめた。作戦の成功などどうでも良い。D隊には友人が数人所属していたのだ。
「そっか……」
「なんかさ、最近多くない?」
 ユンが声を小さくして、エリは小さく頷いた。
「明らかに出動の数が増えてる。上の人は何考えてるんだろう」
「兵士も当初の半分近くまで減ってるし、そんなにしてまでこの辺りの地図を書き換える意味ってなんなんだろう」
 エリは少し考えてみるが、よくわからない。この場所から退けばもう誰も死なないという保証もないし、指示を出している人たちの考えは下っ端にはわからないことだらけだった。
「私たちの命より、作戦の成功の方が大事なのかな」
 ユンの言葉だけが、印象的に脳裏に残った。

 次の日、再び出動命令が下された。
「いくらなんでも早すぎる」
 兵士たちからはそんな声がちらほらと聞こえる。
「まだ足の傷が癒えていない者も多いというのに、這ってでも戦場に行けと言われたらしいぞ」
「死んでこいと言っているようなものだ.、ふざけるな」
 兵士たちの不満は絶頂に達していた。そんな空気の中、しかしエリの目に光はない。
 今日が命日なのだ、とエリは何となく悟っていた。今日、戦場で撃ち殺されるのだ。今まで自分がそうしてきたように、今度は自分がそうされる。それは何というか、目を瞑ってきた自分の罪に対する罰そのものだとさえ思えた。
「ねえ、エリ」
 ユンが、震えた声で呼びかけてきた。
「なに?」
 対して、エリの声は落ち着いている。
 ユンはガスマスク越しに笑顔を浮かべて、
「また……、会えたらいい、ね」
 何の冗談だ、と思った。
 あなたもわたしも、本日をもって殉職する。もう会うことなんてない。
 そこで、A隊の仲間の一人が近づいてきて、
「なあ、エリ、ユン。もううんざりだと思わないか?」
「うんざり?」
「ああ。捨て駒みたいに良いように使われて、このまま死んでいくのはあんまりすぎるだろ。……だから、指揮官サマ共に一泡吹かせてやろうって今みんなに声かけてるところだ」



 私は、キーボードを叩く手を止めた。
 エリとユンがこの後どうなるのか、その構想は頭の中にある。おそらくそれを書き切れば、読者の皆様はその驚くべき展開に目を丸くし、感嘆の溜息を吐き、心を震わせることだろう。
 しかし、だ。
 それには二千字というのはあまりにも短いと、書いていて思ってしまった。
 それに、今はこれ以上書きたい気分でもない。
 だからここは、一旦筆を置こうと思う。

 続きが気になる?
 それはもう、諦めてくれ、としか言えない。


 私はあなたたちを裏切ったのだ。



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