汐月夜空さん

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映画

12/10/02 コンテスト(テーマ):第十六回 時空モノガタリ文学賞【 テレビ 】 コメント:0件 汐月夜空 閲覧数:1336

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 窓ガラスには黒いごみ袋とガムテープが貼られて遮光処理が施されている。
 外へのドアは鍵がかけられており、そのドアノブには針金が酷く乱雑に巻きつけられていた。
 六畳ほどの狭い部屋の中はジメジメと湿っており、室温も本来の季節は冬なのに初夏を思わせるほどに高い。部屋の天井にぶら下がっている蛍光灯に明りが灯ることはなく、部屋を照らすのは液晶テレビの明りだけ。
 そんな部屋の中に男が一人。名はテツと言った。
 テツは孤独だった。その孤独を埋めるように、どこかしがみ付くように映画を見ることが好きだった。好きにならざるを得なかった。
 大きめのヘッドフォンを深くかぶり、鼓膜が破れるような爆音を聞きながら、壁に寄りかかるように体育座りをし、自ら眠ることをせず、ただただかじりつくように自然と意識を失うまで画面を追う日々。
 この日々に入ってからどれだけの時間が経過しただろう、テツは次々に画面を流れていく映画の合間にそう思うことがある。
 けれど、もうテツは忘れてしまった。部屋の外のことなど、もう、何も覚えてはいなかった。覚えていてはこの世界で生きていけなかったから。
 ここにあるのは一つのテレビ、外へのドアに向かって左手にあるトイレ、そして山のように積んである保存食だけだ。しかし、主に即席麺だった保存食は既にテツ自身の手によって食され、辺りに残骸が散らばり残りはわずかとなっている。もちろん熱源が無いため、食べるためにお湯を使うことも出来ない。
 今もテツは映画を見ながら即席麺を地獄に生きる餓鬼のようにバリバリと食しているところだ。長い日々の中で粉末スープを四分の一だけ振りかけると美味しく食べれることが分かった。無論、もう飽き飽きではあったが。
 その目線の先、日々を彩る、テレビの専用チャンネルには恋愛、友情、青春、アクション、韓流、洋画、邦画、など、さまざまなジャンルの映画が流れていた。
 飽きることはなかった。一度として同じ内容の映画が放送されることはなかったから。
 テツは目の前の画面を流れる映画が好きだ。だが、この専用チャンネル以外のチャンネルを見ることは嫌いだった。
 テレビのチャンネルを跋扈している気が滅入るようなニュース、様々な国籍を持つ見知らぬアイドルやタレントを交えた笑えないバラエティ、一度見逃しただけですべてがおしゃかになるようなドラマにはうんざりしていた。
 だから、今の映画を見続ける生活は好きだった。好きにならざるを得なかった。

 現在画面を流れているのは、友情と恋愛をテーマに据えたもののようだった。
 唐突に大地震に襲われた都市、襲い来る壁のような津波、火山は噴火し、血のように赤く炎のように熱いマグマと、空を灰色に染める火山灰が降り注いだ。まさに絶対絶命の状態だ。
 そんな中、主人公の男の子が避難地区に取り残された彼女を助けるために、街中を決死の勢いで走るお話だ。作風はその主人公の友達が持つビデオカメラによって撮られているという、アマチュアビデオスタイルで、手振れや音飛びが酷い。
 津波が迫っている。彼女の家が見える。主人公の疲労も限界だ。ビデオカメラのバッテリーも減ってきている。そろそろクライマックスシーンのようだ。
 ここまでのクオリティは正直酷い。安っぽいカメラで撮った映像だということを強調したいのか、津波や溶岩に焦点が合わずリアリティがないし、音声が割れすぎていて聞き取れない。主人公が駆け抜けていく街並みの破壊具合も、逃げ惑う人々の叫び声もどこかわざとらしさを感じる。
 どれもこれも、『実際の災害』にあっているというリアリティを伴わない演出ばかりだ。これならこの状態に陥る前に映画館で見た映画の方が『本物』らしさがあった。

 すべてが、『冗談』としか思えない。
 
 クライマックスシーンは拍子抜けだった。
 かっこよく駆け出した主人公は間に合わなかった。
 目の前で津波によって砕ける彼女の家。その破片が圧倒的な水の壁とともに主人公に突き刺さり、水の矢がカメラを一瞬で破壊して終わり。
 奇跡は、当然のように起きなかった。
 彼らは一体何がしたかったのだろう。本物の映画みたいに、三人とも助かるとでも思ったのだろうか。甘すぎる。
 テツには、もうその程度の悲劇に動く感情がなかった。
 例えその『映画』の結末が終わることのない砂嵐であり、この専用チャンネルが画面右上に『生放送』のテロップの流れるニュースであったとしても、それは変わらない。
 世界を同時に襲った様々な大災害は、人類を平等に破滅へと導いているのだから。
 いくらドアと窓の先を消したって、いくらすべての音を消し去ったって、この部屋にも終りが迫っているのだから。

 すべてが『映画』であれば。
 テツは一つ『映画』を見終えるたびにそう思わずにはいられない。


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