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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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裏切り、裏切られる覚悟

16/08/21 コンテスト(テーマ):第116回 時空モノガタリ文学賞 【 裏切り 】 コメント:6件 あずみの白馬 閲覧数:1420

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「私に話があるって?」
 2017年3月、卒業式を終えて司書室にいた私のところに、一人の男子生徒がやって来た。まだあどけなさが残るが、部活焼けした若い肌が印象的に見えた。
「はい、あの……」
 テーブルの上に私の名前が書かれた手紙が置かれた。何が書いてあるかは察しがついた。

 私は彼を試してみたくなった。
「あとで見させてもらうわね。ところで、先生、思い出話がしたいの。聞いてもらってもいいかしら?」
 彼はお預けを食らったような顔を見せながらも黙ってうなずいてくれたので、10年前の思い出話を始めた。

 ***

 2007年初春、ある日の関西国際空港は、怪しげな曇が立ち込め、空港内のテレビは、近畿地方に強い低気圧が近づいていることを告げていた。
「(飛行機ちゃんと飛んでくれないと困るんだけどな……)」
 しかし私は大学で知り合った、東南アジア某国出身の彼氏に会いにいくところで、気持ちはとても晴れやかだった。
 彼はとても情熱的、熱い国を思わせる健康的な身体、それでいて私を包み込む優しさを持ち合わせ、女子大生だった私にはとても素敵に思えた。
 そして、私を両親に紹介したいと事実上のプロポーズを受けたのだ。
 国際結婚に不安があった。けれど私には彼しか見えなかった。だからその申し出を受けた。

 まず航空会社の窓口に向かう。しかしそこには人だかりがあった。
「天候調査を行っておりますので、現在チェックイン手続きを見合わせております」
 係員の声が響く中、まだ私は余裕を見せていた。彼に飛行機が遅れるとメールすると「わかった。待ってるよ」と返ってきた。
 30分後、飛行機は飛ぶことになり、私は安堵の表情でチェックインから出国手続きまで無事に済ませた。彼から「いよいよだね、楽しみにしてるよ」とメールが来たのでますます私も楽しみになってきた。ラウンジから機内に入ればあとは彼の国まで一直線だ。

 しかし、飛行機のドアが閉まろうとする、その時だった。
「他社便が滑走路上で車輪がパンクしたため停止中との情報が入りました。当機はその処理が終わるまで出発出来ません。恐れ入りますが、お客様は一旦ラウンジ戻ってお待ち下さい」
(作者注:関西国際空港B滑走路は2007年8月供用開始)

 機内からざわめきが起きるがどうにもならず、私たちはラウンジに戻された。
 彼にメールすると、待ってるよと優しい言葉。しかし今度は雨が降り出してきた。
 旅客機の救出作業が進められて行くのが見える。早くしてと祈るばかり、しかし手間取っているように見える。30分以上かけてようやく機体を滑走路外に出した頃には天候はますます悪化。
 係員が搭乗ゲート前に来た。やっと出発かと思ったら、

「当機は悪天候のため、本日の離陸は出来なくなりました。申し訳ありませんが、明朝の出発となります……」

 私は絶望のあまり床にへたり込んでしまった。彼にそのことをメールすると「大丈夫だよ。待ってるから」と返してくれた。
 しかし運の悪いことに強風のために電車とバスも止まってしまい、家にも戻れず空港で一泊を余儀無くされた。
 椅子で仮眠を取り、夜があけると彼からのメールが来ていた。

「ごめん、しばらく会えなくなった。こっちに来るのは延期してくれ」

 私はなんのことかわからずパニックになり、何度も何度もメールし、電話もしたが返事は無かった。飛行機をキャンセルして家に帰りエアメールを送ったが、宛先不明で返ってきてしまった。

 何年かして、彼が麻薬密売組織の一員で、私を運び屋にするつもりだったと、警官をしている友人に聞いた。

 ***

 信じられないという顔を浮かべる彼に私は、
「私は裏切られたのよね、結局……」
 こう言って話を結んだ。すると、彼は私に訴えかけるように言った。
「大変だったんですね、でも僕は本気で好きなんです! 先生を支えてみせます!」
 若いなって思いながら、私は続けた。
「でもね、キミはまだ若い。若さだけじゃ、支えきれないよ。こんなことがあったあとでもね、優しかったあの人の幻を追って、他の男の人と元彼を比べてしまうの。情けないでしょう? 私」
 実際、どうしても比べてしまった。だから他の男の人と付き合ってもうまくいかなかった。しかし彼はさらに訴えかけてきた。
「そんなことないです。俺、元彼を超えてみせます。だから……」
「ありがとう。私にここまで本気になってくれて。でも、さっき言ったように、キミは私を支えきれないし、元彼は超えられない」
「が、頑張りますから!」

 その言葉に期待してしまった。でも付き合ったとしたら、期待はきっと裏切られる。でも……

 一呼吸おいて、私は彼と歩き出す覚悟をしてから尋ねた。


「私に裏切られても、愛し続けられる覚悟はある?」


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このストーリーに関するコメント

16/08/22 葵 ひとみ

あずみの白馬さま
拝読させていただきました。
恋愛ってスタートは本当に盛り上がり夢のような約束をしてしまいがちですよね……
ラストの裏切り、裏切られる覚悟もなければ人を本当に愛すことは相当に難しいと、
改めて考えさせられました!

16/08/23 あずみの白馬

> 葵 ひとみ さま
コメントありがとうございます。
まだまだあどけなさが残る生徒に、先生が恋愛の現実を語り、それでもいいかと問う場面を切り取りました。
恋は裏切られることもあり、そこをどうするかが二人の将来を決めていく……、そう思いました。

16/08/24 泡沫恋歌

あずみの白馬 様、拝読しました。

なるほど、そういう辛い過去を背負っていてはなかなか人を信じられませんね。
でも、この女性は裏切られても元彼が好きだったのでしょう?
なかなかハードル高いねぇー。

裏切られても赦すくらい、相手が好きだったら、きっと二人で新しい恋を始められそうですね。
若い彼に「頑張れ!」と言いたい。

16/09/08 あずみの白馬

> 泡沫恋歌 さま
コメントありがとうございます。

ハードルは確かに高そうです。突破口は彼がどれだけ先生をゆるしてあげられるか。
新しい恋を求めつつも、元カレの幻影に縛られている先生。
彼がこれからどう向き合うか。思案していただきましてありがとうございました。

16/09/12 あずみの白馬

> 海月漂 さん
彼には重いかもしれませんが、先生と生徒ではなく、一人の人間同士として向き合わなければならない……
ここを乗りきれるかどうかがこの二人の最大のポイントだと思います。
(もちろん先生にとっても)
感想をいただきましてありがとうございました。

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