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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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じゃあ、死んでみますか?

16/08/15 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:4件 あずみの白馬 閲覧数:1369

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 3年付き合っていた彼と、連絡を取らなくなって1か月が過ぎた。
 私は30歳、26歳になる彼は大学の研究室にいて忙しく、1か月に一度ぐらいしか会えなかった。その不満をぶちまけたら、その日から連絡が途絶えた。
 
 私は今日も会社に行くために、いつも使っている小さな私鉄の駅にいた。
 彼と連絡が取れないのは辛い。お互い嫌いじゃ無い。縁りを戻そうかと何度も考えた。けれどまた同じことを繰り返してしまうようで怖かった。思考がぐるぐる回る私の目の前を急行電車が轟音をたてて通過していく。

「(あれに飛び込めば、簡単に死ねるのよね、もういっそ死のうかしら……)」
 死の誘惑が私を誘いかけたとき、
「じゃあ、死んでみますか?」
 いきなりの声に振り向くと、ブレザーを若干着崩した女子高生が、不気味な笑みを浮かべて私の後ろにいる。
「は?」
 何のことかわからず反応に困っていると、後続の列車がホームに入ると同時に私の体は彼女に押されて宙に浮き、意識はそこで消えた。

 ***

 気が付いた時は病院の霊安室にいた。今まで私だった身体は無残に引きちぎられ、せめてもの死に装束が施されていた。
「嘘!? 私……、本当に死んじゃったの?」
 両親が悲痛な面持ちで私だった身体を迎えに来ている。
「未亜……、なんで、どうして……」
「……」
 母は泣き崩れ、父は無言で涙をこらえている。
「お父さん、お母さん、私はここよ!」
 声を出しても反応が無い。私は本当に幽霊になってしまったようだ。
 その後、警官から引き渡された遺体は、私の家に運ばれ、葬儀屋さんが持って来たドライアイスで保護された。

 私は自分の部屋に行ってみる。服も小物もそのままなのに、当然触ることは出来ない。虚しさばかりが心にひびく。
「こんな、こんなことって……」
 その夜、自宅近くの葬儀場で通夜が行われた。そこには友人たちと職場の同僚、そして……彼氏の青弥(せいや)の姿があった。
 僧侶の読経の間、青弥は泣き通しだった。
「どうして……、どうして……」彼の言葉がかすかに聴こえる。それに私は耳を傾けた。
「こんなことになるなら、仲直りの話をすれば良かった。少しでも時間を作ろうと思っていたのに……」
「青弥! 私はここにいるの!」
 叫べど叫べど彼には聞こえない。友達や同僚の名を呼んでもそして通夜が終わり、彼が他の参列者とともに彼が去ろうとした時だ。

――あの女子高生が、青弥のことを見ている――

 青弥は彼女と一緒に、あの私鉄の駅に着いた。
「未亜……」
 私の名をつぶやき、青弥は無念そうにしている。そこに急行電車が近づいて来る。ホームに電車が入ると同時に彼女が青弥の身体を押そうとしていた。
「やめてぇぇぇぇぇ!!」
 その声は響かない。もうダメだと思った……。




――気が付きましたか?

 女の子の声で目を覚ますと、私は病院の一室にいた。
「ごめんなさいね。驚かせて。私、あなたに幻覚を見せていたんです」
 さっき電車に突き落としたはずの女子高生が、すまなそうな顔をして私を見ている。手帳のようなものを取り出して何かを読んでいるようだ。彼女が続ける。
「許してください、信じてください、とは言いませんが、少しだけ、私の言葉に耳を傾けてくれませんか?」
 まだぼんやりする意識の中、私はうなずいて彼女の言葉を聞いた。
「私は、紫亜といいます。正体は死神です……」
「死神? じゃあ、私を殺しに来たの?」
 紫亜は首を横に振る。
「貴女は死ぬ時期では無いのに、ホームで気を失って、人身事故で命を落とすところだったのです。そこを助けて、病院までお連れしました」
「死神が助ける!?」
「はい。予定外の死を止めるのも任務なのです」
 廊下から足音が聞こえてきた。私の名前を必死に叫ぶ、青弥の声だ。
「王子様が来たようですね。私はこれで」
 紫亜は手帳を閉じ、静かに病室を去って行った。入れ替わりに青弥がやって来て、泣きながら強く抱きしめられた……

――20年後

「ただいま。無事終わったわよ」
 青弥が作った装置から紫亜が出て来た。
「おかえり、紫亜」
「よし、作戦成功!」
 青弥は研究を続け、タイムリープ装置と幽霊になった幻覚を見せることで自殺を抑制する装置を開発した。
「これでお父さんは科学賞もらえるぞ!」
「まあまあ、貴方ってば、ところで私の書いたシナリオも文学賞もらえるかしらね」
 あの手帳に書いてあったのは、私が作ったシナリオだった。それを紫亜が過去に行って私の前で演技してくれたのだ。

「全く、これだけお気楽なのに、あんな危機があったなんて信じられない」
 はしゃぐ私たちを横目に紫亜は冷静につぶやく。それを聞いて私は紫亜に礼をした。
 あなたのおかげで幽霊にならずにすんだのだから。


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このストーリーに関するコメント

16/08/18 クナリ

まさかのラスト……。
というか、死神の名前が伏線だったとは。。。
まったく気づかず、やられてしまいました!

16/08/20 天野ゆうり

出だし焦りました!うをぉおおおっ!!と……
でも、本当にハッピーエンドで良かったです(T-T)
それにしても……やっぱり、いつも暖かくなるお話!ありがとうございます⭐

16/08/21 あずみの白馬

> クナリ さん
「まさかのラスト」との、もったいないコメントをいただきましてありがとうございます。

> 海月漂 さん
タイトルの付け方……、意外に単純だったりもしますが、お褒めいただきましてありがとうございます。

> 天野ゆうり さん
暖かくなるお話を中心にこれからも書いていきたいと思います。ありがとうございます。

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