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ケイジロウさん

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煙の音

16/08/14 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:623

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「まず結論を先に述べなくてはなりませんね。
 えーと。あっ、その前にですね、先日新幹線を待つ間に、喫煙所に行ったんですね。中ではみんな一生懸命、煙を吸ったり吐いたりしていたわけなんですが、そこで、ある法則を私は見つけ出したんです。あまり本論と関係ないようにも思われますが、実は絡み合っている部分もあり、本質的には同じことなので、結論を述べる前に少し脱線させていただきます。
 私が注目したのは、煙の吐くときの音なんですね。これを専門用語で『煙の音』と呼ばれているわけなんですが、これが面白い。なぜなら、みんな『ぱー』か『ぴー』か『ぷー』か『ぺー』か『ぽー』か、なんですよ。例外は、ないです。『かー』って人はいません。『んー』って人もいません。『ぢー』って人もいません。
 キザな小説なんかで、煙の音を『フ―』なんて表現されていることがよくありますが、その作者はあまり取材をされていないと言わざるを得ません。なんせ煙の音に『フー』なんてのはないのですから。」
 と、そこまで一気にパソコンに入力した私は、「保存」ボタンをクリックしてから、背もたれにもたれかかった。結論なんてないんだけどな、天から降ってくることを期待するしかないか、そんなことを考えながら、煙草に火をつけた。一口呑んでから、煙を吐いた。「フー」。おかしい、書き始めるまでは「ぷー」だったのに。それでは困る。全部削除しなくてはならないじゃないか。何度か吸っては吐いてを繰り返していると、「ぷー」と煙を吐き出せるようになった。それから、ゆっくりと「ぱー」から「ぽー」までを丁寧に復習した。
 その人の外見から煙の音を予測できた、というくだりは危険な気がしてきた。煙の音から、その人の心理状況がわかった、というのもまずい気がしてきた。育ってきた環境があてられた、というのもいかがなものか。
「『フー』だ、と言う人も中にはいらっしゃることでしょう。そうおっしゃりたい気持ちもわかります。ただ、『フー』はないのです。ありません。」
 私は煙草に火をつけた。
「ご存知の通り、ぱ行は一度口を閉じないと、その音を出すことができません。『フー』という煙の音は、吸い込んだ後、口を一度も閉じなかった時に発生しますが、これは厳密には『ぷー』のでき損ないなのです。
 正しい煙草の吸い方をご存知の方はもうお分かりですね。<煙を吸う→口を閉じる→煙を吐く>という行程を丁寧に踏んでいれば、煙の音は必ずぱ行になるのです。『フー』になってしまうのは、行程A『口を閉じる』を飛ばしてしまっています。それで、煙草を吸っているとは定義できないのです。口を閉じた後に、息を止めた状態で口を開けて、それから『フー』としたあなた、発想はユニークですが、不自然ですね。あまりやりすぎると脳内が酸欠になりますので、ご注意ください。
 話を新幹線ホームの喫煙所にもどします。私がそこで発見した法則と言うのは、そうなのです、煙の音は必ずぱ行であるということなのです。そして、その事実が意味するものとは……」
 出勤の時間がきた。朝っぱらから蝉がギャーギャー騒いでいる。結論は見つかるのか。今日会社で考えよう。私は「保存」ボタンを3回クリックしてから、文書を閉じた。
 私はいつも早めに会社に行って、出勤時間まで喫煙所で過ごすことにしている。6畳ほどの喫煙所に入ると、煙の中に元女子の事務員が二人いた。花火がどうのこうのとか、プールがどうのこうのとか、どうでもいいことを朝からギャーギャー騒いでいる。
 私が聞きたいのはそんな俗っぽい話ではないのだ。君たちの煙の音なのだ。黙って煙を吐け。しゃべりながら吐くな。笑いながら吐くな。私は結論を発見しなければならないのだ。しかもその結論は、真実と絡み合っていなくてはならないんだ。もっと真面目に煙を吐け。まったく。
 窓から浅間山がぼんやりと見えた。山のてっぺんから、うっすらと煙が出ているのがわかる。どういう音を発しいているか、ここからでは確認できない。今週末登りに行くか、もしかしたら何らかのヒントが得られるかもしれない。
「フー」
 私は浅間山を眺めながら煙を吐いた。

「そして、その事実が意味するものとは……、パピプペポ、だということです。」
 浅間山を下山した私は、登山口に駐車していた車に乗り込むとすぐにパソコンを開き、そう結論付けた。浅間山の火口はすさまじかった。魔女が薬を鍋でぐつぐつと煮ているイメージを思い浮かべた。そして、その鍋があまりにもでかすぎて、なんだか吸い込まれそうになった。そのうち平衡感覚もなくなり、このままでは鍋に本当に吸い込まれてしまう、とあわてて火口から離れた。地球は生きている。地球が生きていることを見せつけられた。
「そうなのです。私がこれから語ろうとしている話の結論は、パピプペポ、なのです。」


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