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黒猫千鶴さん

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鬼灯セラピスト

16/08/10 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:1件 黒猫千鶴 閲覧数:2057

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 チリン、と鈴の音が訊こえてくる。
 目をゆっくりと開けると、いつの間にか十字路に立っていた。辺りを見回しても誰もいない。
「ここは……」
 思い出そうと考えると、頭が痛む。何もない、誰もいない。考えるのをやめて、帰ろうとした、その時。
「おや?」
 突然の人の声に驚きつつも、勢いよく振り返る。そこには、一人の男性がいた。
「どうしたんですか、お嬢さん」
 彼は優しく微笑みかけてくれる。
 痩せ型で色白。切れ長の瞳が静かに細められる。風が吹くと男性の黒髪ショートが、揺れた。私の茶髪のセミロングも一緒になびくと、またチリンと鈴の音が訊こえた。
「まただ……」
 ふわりと広がるスカートを押さえて、視線を巡らせる。いくら見ても、寂しい路地が続いているだけ。
「ああ、迷子ですか?」
「ち、違います!」
「ここはどこだろう? と言った顔をしていますよ」
「う……っ!」
 この人は心が読めるのだろうか。確かに、そう思った。でも、私は今年で二五になるのに、迷子だなんて……。
「ち、違います!」
「ふふっ」
 彼は口元に軽く拳を宛がい、笑う。一つ一つの動作が美しくて、つい見とれてしまった。そんな私に、彼は手を差し伸べてくれる。
「良ければ、僕のお店にきませんか?」
「えっ!?」
 突然の申し出に戸惑う。
「僕はツキと申します。ちょっとした診療所を営んでいます」
「ツキ……さん?」
 確認するように名前を呼んでみると、彼は優しく微笑む。
(いい人みたい……)
 だからって、ついて行っていい訳じゃない。
「あ、私……」
 名前を名乗ろうとした、その時だ。
(あれ、何だっけ?)
 頭の中が空っぽ。何も思い出せない。不安が押し寄せてくる。歳は覚えていたのに……変に現実を突きつけられた感じがする。
「うぅ……」
「どこか痛みますか?」
「いえ、何でもないです!」
 心配そうな表情で覗き込んでくる。そんなツキさんに名前は覚えてないけど、年齢はわかります。……なんて言えない。
 また鈴の音が訊こえた、気がする。でも、さっきより大きく、ハッキリとしていた。
「着きましたよ」
「え?」
 ツキさんの声に反応して、顔を上げる。彼は建物のドアを開けて、中へと促された。
「ようこそ、鬼灯セラピーへ」
「ホオズキ、セラピー?」
 恐る恐る店に足を踏み入れる――
 中は変哲のない、病院の診療所に似ていた。薄暗い室内を照らしているのは、オレンジ色した鬼灯型のランプ。ほんのりと光るそれは、温かく心を包む。
「さあ、こちらへ」
 手を引かれて、奥へと進む。診察室には、ベッドと椅子がそれぞれ一つあるだけ。
 私はベッドの上に座る。ツキさんは椅子に腰かけると、ずっと持っていたランプを膝に置く。すると、煙が出てきた!
「ちょっと、燃えて――」
「大丈夫です」
 立とうとする私を制して、彼は微笑む。
「これは【導くもの】なんです」
「導く、もの……?」
「明かりで、香りで、迷い人を導きます」
「迷い人……」
「さあ、ゆっくりと【思い出して】みてください」
 瞬きをする瞼が、重くなる。次の瞬間、視界が歪む。深呼吸をすると、気持ちが楽になっていく。さっきまで何も思い出せなくて、憂鬱だったのがウソのよう――
『もう、大っ嫌い!』
 ああ、そうだ。
「私、家族とケンカして――」
 家を飛び出したんだ。
 久し振りに、帰省した日のこと。仕事が落ち着いたから、そんな軽い気持ちだった。今はまだ結婚なんて考えられない。お父さんの会社の息子さんと逢ってみたら、と言われた。
 私の意見も聞かないで、勝手に決められた。それが悲しくて、苦しくて。
『もう、大っ嫌い!』
 その言葉を吐き捨てて、私は家を飛び出した。
 しばらく走り続けて、交差点に差しかかった、その時――
「思い出されましたか?」
 そう、私は【思い出した】。信号ムシをしたトラックと車が衝突。横転してきた車に押し潰された。
「私は、もう……」
 ツキさんに視線を向けると、ツキさんは悲しい表情をする。
「どうして、あなたが悲しむんですか?」
「僕にはこれくらいしか……」
「……あなたの御蔭で、思い出すことが出来ました」
 ありがとうございます。
 その言葉を口にすると、私は心から笑える。チリン、と鈴の音が訊こえた。再び目を閉じると、一粒の涙が頬を流れる――

「……また、救えたみたいですね」
 誰もいなくなったベッドを見つめて、静かに立ち上がる。鬼灯に顔を近付けて、息を吹きかけた。火が揺れて、明かりも香りも消える。
「おや?」
 僕は顔を上げると、鈴の音がした。
「……次のお客さんですね」
 白衣を翻して、歩き出す。室内が暗くなり、靴音が響く。
「さて、逝きますか」
 口角を上げて、次の方へと赴く。
 また、迷える霊(ひと)を探しに――


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このストーリーに関するコメント

16/08/11 あずみの白馬

死神とは違う「鬼灯セラピスト」不思議と素敵な仕事だと思ってしまいました。死の世界の送り人のような存在でしょうか。
切ない話なのに読後感は不思議とよかったです。これもセラピストの力なのでしょうか……?

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