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上村夏樹さん

はじめまして、上村と申します。 公募に挑戦するワナビです。突発的にショートショートを書きたくなる面倒くさい生き物。 最近、初めて買って読んだ詩集で泣きそうになるという、やはり面倒くさい生き物。 物書き、そして読者のみなさん、よろしくお願いします!

性別 男性
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墓前の誓い

16/08/10 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:2件 上村夏樹 閲覧数:801

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 うだるような暑さが猛威を振るう夏の日。
 蝉しぐれが降り注ぐ中、私は墓前に立っていた。
 墓に彫られた「松田家」の文字を見ながら、たった一言。

「亡くなってから、どれくらいの時間が経ったんだろう……」

 墓前で漏らした声は、夏の空に溶けて消えた。



 不運な交通事故だった。
 事故の原因は相手の飲酒運転。青信号だったにもかかわらず、横断歩道にトラックが突っ込んできたのだ。
 当時、まだ十六歳だった。高校生活をそれなりに謳歌していたと思う。
 所属していたバスケ部はけっして強くなかったけど、楽しみながら活動していた。
 将来の夢は獣医だったから、勉強にも一生懸命だった。
 友達もたくさんいたし、もしかしたら、恋人だってできたかもしれない。
 でも、死んじゃった。
 そんな輝かしい未来は、もうやってくることはない。

「優香ぁ……優香に、会いたいよぉ……」

 私の涙声が蝉の合唱にかき消される。
 優香は幼稚園から付き合いのある幼なじみだ。
 どこに行くにも、私たちは一緒だった。学校帰りに買い食いしたり、テスト前には勉強会を開いたり、帰り道に恋バナとかしたり。部活も同じバスケ部だったから、私の隣には常に優香がいた。
 優香は明るくて笑顔の似合う女の子だった。
 彼女の笑顔は、私にたくさんの元気をくれた。落ち込みやすい私を、いつもそばで励ましてくれた。好きな男の子に告白してフラれたときも、友人と喧嘩して疎遠になっちゃったときも、中学生の頃、いじめられちゃったときも……優香はいつだって優しい言葉をかけてくれた。

 優香はよく、

「美月はかわいいし、努力家なの、私は知ってるよ。だから自信もちなって!」

 肩をバシバシと叩きながら、私を励ましてくれた。
 その言葉にどれだけ勇気づけられただろう。
 優香がいたから、部活も勉強も頑張れた。辛いことを乗り越えられた。
 感謝してもしきれないくらい、優香は優しく私を包み込んでくれたんだ。
 もう会えないなんて……嫌だ。
 私を一人にしないで。私は優香がいないと駄目なの。
 会いたい……会いたいよ、優香。
 遠くの空に願いを込めたそのとき、人の気配を感じた。

「……誰?」

 振り返り、遠くを見る。
 陽炎が揺らめく中、誰かがこちらに向かって歩いてきた。
 夏の温かい風に吹かれた黒髪が、宙で波打っている。

「ゆう……か……?」

 短かった髪の毛は長くなっていて、ちょっぴり大人びている。でも、大きくてくりくりした目は当時のまま。見間違えるはずもなく、あれは優香だ。
 どうして。なんで優香がここに?
 脳裏に浮かんだ疑問は、再会の喜びによって打ち消される。
 ゆっくりと、でも確実に、優香は近づいてきている。
 優香が手のひらを返し、夏の陽射しをさえぎった。

「ふぅー。あついなぁ」

 久しく聞いていない優しい声に、心が震えた。

「優香ぁ!」

 私は弾けたように駆けだし、優香に抱きつこうとした。
 しかし。

「あっ……」

 私の体は優香の体をすり抜けてしまった。
 目標を失った両手が虚しく空を切る。
 振り返ると、優香は墓前に立っていた。よく見ると、彼女の足元には手桶が置かれている。
 慌てて優香の隣に並ぶ。彼女の横顔は笑顔だった。

「松田家……間違いない。美月のお墓だ」

 そう言って、彼女は私の墓前で手を合わせた。

「今日で三回忌だってさ。うはは。月日が経つのは早いもんだねぇ」

 優香、おじさんくさい。
 私が生きていれば、そんなふうに冗談を言って笑い合えたのだろうか。
 不意に目の奥がつんとして、視界がぼやける。

「美月。あっちでは元気ですか?」
 元気じゃない。優香がいないから。

「私は心配です。優香はよく落ち込む女の子だったから」
 うん。現在進行形で落ち込んでる。

「優香。聞こえてますか?」
 ちゃんと聞こえてる。隣見てよ。

「毎年、会いに来るからさ。元気出してね?」
 ……うん。約束だよ。絶対だよ?

「じゃあ、頭洗ってあげるね」
 そう言って、優香はひしゃくで水を汲み、墓石にそれをかけた。続いて、たわしで墓石をわしゃわしゃと磨き始めた。

「ふふっ。私の頭をなんだと思ってるのよ」

 自然と笑みが込み上げてくる。
 あはっ……なんだかひさしぶりに笑えた気がする。
 私が死んでも、優香は私に元気をくれるんだね。
 離れ離れは寂しいけど……でも、優香に心配かけてばかりもいられないな。
 いきなりは無理かもしれない。私はすぐに落ち込んじゃうような、心の弱い人間だから。
 でも、優香を安心させたい。
 だから、少しずつ前を向こう。
 私の頭を洗う優香の背中を見ながら、密かに決意した。


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このストーリーに関するコメント

16/09/09 泉 鳴巳

拝読致しました。
夏という季節の、明るさの裏にある哀しさのようなものが丁寧に描かれていると感じました。
再会のシーンでは特に想い合っているのに触れ合えない切なさが出ていたと思います。

16/09/12 上村夏樹

>泉 鳴己さん

お読みいただき、ありがとうございます!

切ない感じが出ていたようでほっとしております。
再会のシーンでは触れられない、会話もできないけど、二人の仲の良さが伝われば幸いです。

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