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黒谷丹鵺さん

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横取りされるぐらいなら……

16/08/06 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:7件 黒谷丹鵺 閲覧数:1079

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すぐうしろにいることはわかっていた。

――絶対にふりむいてはいけない。

美弥子の言葉を思い出し、私はうしろを見ないように気をつけて出窓を離れた。
もらった粗塩はキッチンのシンク下に仕舞ってある。

落ち着かなきゃ。

体の奥から恐怖が、尽きぬ泉のように湧きだしてくる。

ふらついて床に手をつき、立とうとしたが膝に力が入らなかった。
なんとか這ってシンクのところにたどり着き、震える手で扉をあけた。
粗塩の袋を破り、手を突っ込む。
「どうか立ち去って下さい!」
背後に向かって、肩越しに塩をかける。
「私は何もできません!」
言葉を繰り返し、狂ったように粗塩をふった。

気が付けば、袋は空っぽになっていた。

私はスマホに飛びつき、美弥子に電話をかけた。
「やっぱり出たよ!塩かけたけど大丈夫かな?」
「すぐ出た方がいい。迎えに行くから大通りで待ってて」
「わかった」
「ふり返ったらだめだからね」
ゾワッと皮膚が粟立つのを感じ、スマホだけを握りしめて部屋を飛び出した。


アパートの階段をおりようとした時、線路が視界に入る。
駅から徒歩5分の近さが気に入って入居した物件は、住んでみると早朝から深夜まで列車の音と振動がひどく、安い家賃の理由がわかった。
その路線は、人身事故が多いことでも有名だった。
ブルッと身震いし目をそらす。
小走りで階段を下りると、線路とは逆方向に走った。

美弥子とは大学の入学式で知り合った。
私と違って東京育ちの彼女は、エスカレーター式で上がってきた附属高校組だ。
『美弥ちゃんって子、たしか霊感強かったんだよね』
ほどなく学内でそんな噂を聞いた。
私は幽霊なんて見たことがなく、半信半疑だった。

彼女の自宅は私と同じ沿線にあり、よく一緒に帰るのだが、寄らないかと誘っても断られてしまう。
「あの駅、ちょっと怖くて」
ポツリと言われた言葉に気を悪くしたのは、それが単なるいい訳だととらえ、そんな言い訳を作ってまで私の部屋に来たくないのかと思ったからだ。


まさか本当だったなんて……。


一週間ほど前、飲み会で遅くなり終電で帰宅した夜のことだ。
いつものように跨線橋を渡って帰ろうと歩いていると、少し先をピンクのワンピースを着た女性が歩いていた。
ハイヒールのカツカツカツという足音を響かせ、女性は階段を昇って行った。
私も何気なく続いたのだが、跨線橋の上に女性の姿はなかった。

――すぐ目の前にいたのに、どこ行ったの?

4本の線路をまたぐこの橋は、けっして短くはない。
変だなと思った瞬間、キキーっと耳をつんざくような電車のブレーキ音がした。
思わず耳をふさぎ、下の線路を見た。
だがどこを見渡しても列車など見えず、私は自分が乗ってきたのが終電だったことを思い出した。
どういうことかと戸惑う私の耳に、ハイヒールの足音が聞こえてきた。

昇ってきたばかりの階段の方からだ。

――え?え?

おそるおそる階段の方をふり返ると、ピンク色が見えた。

――あ、これ、やばい!

私は全力でアパートまで走ったが、急ブレーキをかけたようなあの音は何度も聞こえた。
恐くて眠れなかった。
そして翌朝、外へ出て鍵をしめようとした時、気が付いた。


ドアに赤黒い手形がひとつ。


パニックに陥った私は泣きながら美弥子に電話した。
きっと支離滅裂だったはずなのに、彼女はわかってくれて
「心配いらないと思うけど、対処法を教えてあげる」
そう言って粗塩をくれたのだ。

びくびく過ごしたものの何ごともなく、恐さも薄れてきていたのだが……

大きな急ブレーキの音が聞こえて、うっかりカーテンをあけて見てしまったのだ。
窓ガラスに映る私と、うしろに立つピンクのワンピースを着た女性を。




美弥子と友だちで良かった。
もし彼女がいなかったら、今ごろ私はどうなっていたことか……想像もしたくない。


幹線道路にたどり着いた私は、明るい街灯と交通量の多さにホッとした。
乱れた呼吸を整えていると、ポンと肩を叩かれて飛び上がった。

ふりむくと美弥子が笑っていた。
「あ、ふりむいちゃった。だめって言ったのに」
「なんだ、びっくりさせないでよ」
笑いながら抗議すると、彼女はふわっと抱きついてきた。
「良かった、取られなくて」
「え?」
私を抱く腕に力がこもる。
「あの駅いっぱいいるから心配だったんだよね」


美弥子の声が、回転数を遅くした音声のように低くくぐもっていく。

「一 緒 に 行 コ ウ ネ 」


私の脳裏に、学内で聞いた噂がよみがえる。

『入学式にさ、事故死した子の幽霊いたんだって』
『美弥ちゃんって子?たしか霊感強かったんだよね』


激しく鳴らされるクラクションと眩しいヘッドライト。


そして私も、幽 霊 に な ッ タ ……



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このストーリーに関するコメント

16/08/06 霜月秋介

黒谷丹鶴さま、拝読しました。

まさかのどんでん返しにびっくりしました。
夏にピッタリのホラーですね。振り返ってはいけない、踏切、人身事故…。怖いですよ。後ろ振り向けなくなっちゃったじゃないですか!(笑)面白かったです。

16/08/07 あずみの白馬

これは怖かった……まさかまさかの……ですね。
読み終わった後ゾクゾクしました。これは面白いです。

16/08/07 黒谷丹鵺

霜月秋介さま、コメントありがとうございます。
お楽しみいただけてよかったです( *´艸`)


あずみの白馬さま、コメントありがとうございます。
書いていると自分で怖いかどうかわからなくなるので、怖かったと言って頂けて嬉しいですm(__)m

16/08/07 クナリ

すばらしい掌編ホラーですね!
ストーリーラインだけでなく構成にも緩急があって、読みごたえがありました。

16/08/08 黒谷丹鵺

クナリさま、コメントありがとうございます。
いつも御作拝読させていただいておりました(*ノωノ)お褒めに預かり光栄です!

16/09/19 光石七

拝読しました。
どんでん返しに見事にやられました。
文句なく面白かったです!

16/09/21 黒谷丹鵺

光石七さま、コメントありがとうございます!
助かったと思ったら実は……という構成は書いていて楽しかったです。お楽しみいただけて嬉しく思います(^^*)

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