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Rook さん

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ねえ、泣かないで

16/08/03 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 Rook  閲覧数:512

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 毎年のように八月のこの時期になると妻を泣かせてしまう自分は、いったいどうしたらいいのだろうか。悔しくて、堪らない。
 「ねえ、泣かないでよ」
 そっと後ろから呟いてみても、彼女には聞こえないのか知らんぷりだ。
 この日になると、愛娘に隠れるようにそっと涙を流す彼女を見ていられなかった。

 我が家は3年前のあの日からすっかり変わってしまった。
 やっとハイハイを始めたばかりの娘がもう今になって走り回っているというのに、僕の時間は止まったままだ。
 楽しみにしていた旅行もキャンセルして、僕が居なくなった日からもう3年。
 自分がそのことに気が付いたのは、自分の体が火葬場で焼かれている時だった。
 あぁ、これが自分の葬式なのだと気が付いた時にはもう何もかもが遅かった。
 「おい、こんなところで寝てると焼かれるぞ!」
 「起きろって!」
 「冗談きついよ!」
 自分の体を揺さぶるように起こしてみても、ちっとも起きやしない。
 その時になってやっと自分が死んだのだと実感した。妻が涙をこらえてる。
 これから出世して、偉くなって、娘が大きくなったらいろんな場所に行こうって約束してたのに。
 おいおい、なんで死んでるんだよ!
 叫んでみても、足掻いてみても、何にもできやしなかった。
 
 それから3年間、僕は妻と娘をこうして見守り続けている。
 所謂【幽霊】ってやつだ。
 きっと成仏できなかったのは、未練ばかりが残っているせいだろう。
 残してしまった妻と娘のことが気になって、気になって仕方ないのだ。
 成仏できなくていいから、ずっと見守っていたい。そんな思いが僕を幽霊にしたのだろう。
 
 もっとたくさん君を抱きしめればよかった。もっと愛してるって伝えたい。
 もう何もかもが遅いのに、やりたいことばかりが頭に浮かんで消えていった。

 もう君が疲れて凹んでいるときに励ましてやる事も出来ない。
 体の調子が悪いときに君に代わって、そんなに上手くもないチャーハンを作るのだってもうできない。
 抱きしめることも、愛をささやくことも、愛娘の成長を見守ることも、一緒に公園にいくことも、大好きだった旅行も何もできない自分が悔しくて情けなかった。
 ただ見守る事しかできない【幽霊】がこんなにも辛いだなんて思ってもいなかった。
 

 ひっそりと泣きはらした妻に、何かを悟ったのか愛娘が声をかけた。
 「ねぇ、ママ パパってどこに行ったの?」
 妻よりも僕に似ている娘をぎゅっと抱きしめながら彼女は小さな声でこういった。
 「お空のずっとずっと高いところに行っちゃったのかな」
 「そっか、パパしんじゃったんだよね」
 「そうね」
 「でもね、パパならきっとママの近くにずっといる気がするよ!」
 「そうかもね」
 泣きはらした妻を励ますように、愛娘がよしよしと妻の頭を撫でながらそう言った。
 
 ふと、娘と目が合う。
 気のせいかもしれない、でも娘は僕のほうを見ながらこう言った。
 「だいじょうぶ!」
 いつの間にか保育園で覚えてきた言葉を自慢げにそういうと、嬉しそうににっこり笑った。
 
 「ずっとそばで見守ってるから!」
 娘と妻に向けて言った僕の声は2人は届かないだろう。だって幽霊だから。
 そして、また来年も凝りもせずに彼女を泣かしてしまうだろう。
 
 何にもできない僕だけど、君たちの幸せを心から祈ってる。
 抱きしめることも、励ますこともできないけれど、ずっと見守ってるよ!
 
 娘ちゃんが結婚して幸せになるまで見守ってる!
 君がおばあちゃんになって、こっちに来るまで見守ってる! 

 どうやら僕が成仏できる日はずっとずっと先のことになるらしい。

 


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