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しーたさん

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二〇〇二年の夏は、まるで幽霊のように

16/08/02 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 しーた 閲覧数:552

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 二〇〇二年の夏の、ある日曜日のこと。その日は雲一つない晴れた日で、僕は駅前の広場にいた。何故そこにいたのか、何をしていたのかはあまり覚えていない。友達と待ち合わせをしていたような気もするし、散歩の途中だったような気もする。駅前の様子もぼんやりとしか覚えていないが、人はそれなりにいたと思う。
 そんな日曜日の昼下がり、唐突に僕の視界に、ある一人の女性が飛び込んできた。その女性は真っ白なサマードレスに身を包んで、大きめの麦わら帽子を被って、駅前の広場にやって来た。彼女は駅前の広場に用があったわけではなかったらしく、広場をゆっくり横切って、その先にある駅の中に姿を消した。
 それだけ。
 時間にして、数十秒の出来事だった。
 駅前の広場に入ってきた彼女を見た時、僕は彼女が理想の女性であると確信した。理由なんてない。ただ確信に至る何かが僕の胸を貫いた感覚は、今でもはっきりと覚えている。
 彼女は、二〇〇二年の夏のすべてを引き受けたような女性だった。
 顔もよく覚えていないが、おそらくとても美人だったとかとても可愛いかったとかいうわけではなかったと思う。それに、彼女が広場の真ん中あたりに到達した時、ふと吹いた風に乗って運ばれてきた彼女の香りに夏を感じたことだけは思い出せるが、具体的にどんな香りだったかと聞かれるとこれもまた言葉に詰まってしまう。
 僕はあの時、彼女に声をかけるべきだったのだろうと今更ながら思う。どんな理由を後付けしても、僕は彼女に話しかけるべきだったのだ。二〇〇二年の夏は、もう二度とやって来ないのだから。
 そうして気が付けば、二〇一六年の夏になった。今日も変わらず太陽は昇り、夜になると大きな三角形が空に輝き、世間は夏の空気に包まれている。あれから十四年が経った。思い返すと色々あって、恋愛だってそれなりに経験した。しかし、遂に理想の女性に巡り合うことはなかった。
 僕はあの日見た、バケツいっぱいの夏を頭から被った様な女性のことが未だに忘れられないでいた。言葉を交わしたわけでも、目が合ったわけでもないのに、彼女の影は僕の頭の中の深いところに住み着いていて、夏になるとふと彼女のことを思い出す。
 晴れた日曜日の昼下がり、気が向くと僕は駅前の広場に足を運ぶ。十四年前には無かったベンチに腰掛けて、煙草をふかしながら人の流れをぼんやり眺める。真っ白なサマードレスに身を包んだ、二〇〇二年の夏の背中を思い出しながら。


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