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みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

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君に贈るギフト

16/08/01 コンテスト(テーマ):第115回 時空モノガタリ文学賞 【幽霊 】 コメント:0件 みや 閲覧数:720

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なけなしの貯金を叩いて、小さなダイヤの指輪を彼は購入した。そしてその小さなダイヤの指輪を、今夜彼女に渡す為に高級レストランもリザーブしてある。彼女は喜んでくれるだろうか、指輪を?彼女は受け入れてくれるだろうか、プロポーズを?

高級レストランに先に到着した彼は予約席に若いボーイに案内された。フカフカの座り心地のとても良い椅子に座りながら彼は彼女に想いを馳せた。

彼女は現れないかもしれない…と彼は不安で胸が千々に乱れたけれど、彼女はきっと現れる、と彼は確信をしていた。自分が求める限り、彼女はきっと現れるはずー

彼の予想通りに彼女は上品なブルーのワンピースに身を包んで約束の時間に少し遅れてそのレストランに現れた。彼女の着ているブルーのワンピースは彼も大好きで、それを知っている彼女は、二人の何かしらの記念日には必ずそのワンピースを着てくれていた。

彼女が予約席に座ると彼はボーイを呼び寄せ、お勧めのコース料理を二人分注文した。ボーイは少し怪訝そうな顔をしたが、かしこまりましたと注文を伝票に書き込み、飲み物は如何なさいますか?と彼に聞いた。ワインには詳しくないので今日のお勧めのコース料理に合うワインを何か見繕ってください、彼はボーイに言う。勿論グラスは二つで、と彼は付け加えた。

ボーイが立ち去ると、彼は彼女を見た。
「来てくれて本当に、ありがとう」
「貴方が望むなら何時でも何処へでも、馳せ参じますよ」
彼女はそう言いながらコケティッシュに微笑んだ。

ワインが運ばれてきて二人は乾杯をした。彼は緊張感を解きほぐすかの様にぐびぐびとワインを飲み干した。彼女はそれを幸せそうに眺めていたけれど、自分のグラスには口を付ける事はなかった。

前菜が運ばれてきても、彼女がそれを口に運ぶ事はなかった。次にメインディッシュを運んできたボーイはまた怪訝そうな顔をしたが、一口も食べられていない前菜が乗ったままの彼女の皿を何も言わずに下げた。

デザートが運ばれてきた頃に、彼は今日のメインイベントを開始するべく、小さなダイヤの指輪が入った小さな箱を彼女に差し出した。
「結婚しよう」
彼のその言葉を聞き、彼女は戸惑った。
「ありがとう…すごく嬉しいけど、無理だよ…分かってるよね?」
「無理じゃないよ。だって僕が望むなら、何時でも何処へでも馳せ参じてくれるんだろ?僕は君とずっと一緒にいたいんだ。だから…ずっと傍にいてほしい」

彼女は黙り込んで、レストランの店内をぐるりと見渡した。店内には恋人同士や夫婦の様なカップル達が沢山いて、皆んな幸せそうね…とポツリと呟いた。
「私たち、他の人たちから見たらとても不思議に見えるんでしょうね。少なくとも幸せそうには見えない」
「そんな事はどうでも良いんだよ」
「どうでも良くない。私はあなたに幸せになって欲しい」
「君がいてくれればそれだけで僕は幸せだよ」
「…前に進まなくちゃいけない。私も、あなたも」

今度は彼が黙り込む番だった。彼女を自由にしてあげなくてはいけないという事を頭では理解していても、心が追いつかない。

「プロポーズ嬉しかった。本当にありがとう、指輪もありがとう。指にはめる事は出来ないけど…私の事を忘れて、なんて言えない。忘れて欲しくない。でも時々思い出すくらいで良いの。その小さな箱に閉じ込めてリボンを掛けて大切に持っていて。そして、時々、時々で良いから私の事を思い出してね」

若いボーイが食後のカプチーノを運んで来た。お連れの方、お見えになりませんでしたね。残念そうにそう言う若いボーイはそれでもカプチーノを二杯、運んで来てくれていた。
「彼女は来てくれたよ。三カ月前に交通事故で死んでしまったけれど、僕が望べば何時でも何処へでも馳せ参じてくれる。でも、そろそろ彼女を自由にしてあげなくてはいけないね…僕が前に進まないと、彼女も前に進めないから」

ありがとう、そう言って彼は指輪の入った小さな箱を上着のポケットに大事そうに滑り込ませた。若いボーイは彼女が座っていた椅子の前にカプチーノをそっと置いて、せつなそうに微笑んだ。


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