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本宮晃樹さん

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言葉には気をつけろ

16/07/29 コンテスト(テーマ):第114回 時空モノガタリ文学賞 【 パピプペポ 】 コメント:2件 本宮晃樹 閲覧数:634

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「見てくださいよ」部下が首の凝りをほぐしながらモニタを指差した。「えらく急いでますぜ、お偉方」
 俺はでっかいあくびをひとつかまして、「なんだってんだよ、いったい」
 眠い目をこすりながら牢獄もかくやといった作戦室内で大きく伸びをする。どうせ〈アンノウン〉がまたぞろ海王星ラインを越えてきたとか、そういうのだろう。心配ご無用。われらが優秀なる無人艦隊の〈マシーナリー・ナイツ〉たちががんばってくれる。
 ところでエウロパ海底基地ほどひどい派遣先はない。基地はおそろしく狭く、不用意に外へ出れば強大な水圧に押しつぶされ、衛星画像から見られるのは巨大な木星のごく一部だけ。おまけに仕事と言えそうな仕事なんかないときた。
 当節はなんでもかんでも無人機がやってくれる。この基地だってフォン・ノイマンマシンがたったの数か月でこしらえちまった。ガニメデから炭素を失敬してプラスチックを合成し、あとはエウロパの氷をボーリングして内部へ侵入、はいできあがり、てな具合だ。
 なぜ地球から無人機を遠隔操作して〈アンノウン〉を迎撃しないのかって? 人間は疑り深い生きものなのを忘れちゃいけない。やっぱり最終的には各惑星に一人か二人、常駐させておきたいのが人情ってもんだろう。たとえそいつらが機械よりはるかに劣るとしてもだ。
「で、ばか高いタキオン回線を使ってまで、お偉方はなんて言ってるんだ?」
「こ、これは……」部下は真顔だった。ここにきて数年経つが、やつの真顔を初めて拝んだと思う。「すぐに〈マシーナリー・ナイツ〉を停止してください」
「お望みとあらばそうするがね、えらく操作が混み入っててなあ」
「冗談じゃないんです。こいつを見てください」

     *     *     *

停戦協定通知書(速報のため一部抜粋) 木星方面軍指揮官 殿
 このたび地球連邦政府と〈アンノウン〉は休戦することで合意した。ジャスパー・マーチスン率いるアルファ・ケンタウリへの有人飛行から数えること三世紀、われわれはついに彼らと和睦することに成功したのだ。
 われわれの慎重を期した友好的接触にもかかわらず、〈アンノウン〉は突如としてこちらの宇宙船を攻撃し、偉大なる冒険家たちは地球から四光年の暗黒で没した。こうした許されざる蛮行に対し、われわれはこんにちまで断固たる態度で臨んできた。
 ところが先ごろ、〈アンノウン〉の平和使節と名乗る者が単身で火星基地に着陸し、火星方面軍による総攻撃にさらされながら、完璧な英語で次のように告げたのである。
「もしや〈ぱぴぷぺぽ〉は、侮辱の意味で発せられたのではなかったのか?」
 着陸艇の残骸から復元したメッセージによれば、失敗に終わった唾棄すべきファースト・コンタクトの際、彼らはわれわれが送ったメッセージ(あいさつ文のほかに、主要国家の言語一覧表を載せていた)のなかに、例の言葉を見つけた。それは日本語の五十音のひとつであり、呪わしい〈ぱぴぷぺぽ〉だったのである。
 単なる音の羅列が、アルファ・ケンタウリを母星として進化した異質な生物に対する、これ以上ないほどの侮辱の言葉だったなんてことがありうるだろうか? それはありえた。このどちらかといえば間の抜けた五文字によって、三世紀にもわたる星間戦争が勃発したのだ。
 われわれは辺境の島国の言語なんかを――文化の多様性を誇示するという些細な目的で――提示するべきでなかったと、猛烈に後悔することはできる。しかしあえて提案したい。そうする代わりに彼らとわれわれが手と手を携え、ともに歩んでゆく道を選ぶことを。

 連邦政府総司令部

     *     *     *

 俺たちがここにいるあいだは起動しないと高を括っていた停止コードをマニュアル片手に入力すること一時間強、ようやく無人艦隊〈マシーナリー・ナイツ〉は機能を停止した。骨の折れる作業だった。
「なあ」俺は大きく伸びをした。「これで国に帰れるな」
「そうですね」
「浮かない顔だが、まさかここが気に入っちまったのか?」
「冗談じゃない」部下は横柄に言い捨てた。「ただね、あんまりひどすぎますよ、こんなの。たったの五文字で三世紀ですよ」
「されど五文字さ。うちは代々軍人の家系でね、伝説によれば曾曾曾曾曾じいさんもこの戦争に関わってたらしいぜ」
「避けられた誤解だったと思いますがね、ぼくは」
「かもしれん」モニタを見ると、早くも迎えの巡洋艦がエウロパの周回軌道に進入してきている。ここともおさらばだ。
「ぱぴぷぺぽ」つぶやかずにはいられない。
「どうしたんです?」
「お前も言ってみろ」
 部下はそうした。「ぱぴぷぺぽ」
 やつが吹き出し、俺もつられる。それから腹がよじれるほど爆笑した。
「ひでえ響きだな。え?」
「こりゃ戦争になるわけです」


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このストーリーに関するコメント

16/07/29 日向 葵

本宮 晃樹様

拝読させていただきました。
SFチックな独特の世界観に、「パピプペポ」という、どこか宇宙的な響きを感じる言語と相まって秀逸な作品だと感じました。

16/07/30 本宮晃樹

向日 葵さま
ご感想いただきまことにありがとうございます。
気を遣ったつもりですが突っ込みどころが満載であります。まあ気にしない方向で!
それではお手すきのときにでも、またのぞいてやってください。

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