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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 魁! 不労所得!
座右の銘 定時帰社特攻隊長

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ダンシングジーン

16/07/20 コンテスト(テーマ):第113回 時空モノガタリ文学賞 【 ダンス 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:524

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簡単お見積り! 二人の理想的ベビーを作っちゃおう!
 このページでは遺伝子改変にかかる諸費用を、お客さまがお望みになる形質にチェックを入れていくだけでお手軽に算出することができます。当社では改変項目を次の三グループに大別しておりますので、お見積りの際の参考にしていただければ幸いです。

@生命維持に関わる形質:嚢胞性線維症、フェニルケトン尿症、ハンティントン舞踏病などの、いわゆる重大遺伝疾患を取り除く処置。リーズナブルな価格でご提供させていただいておりますが、続くAおよびBの併用によりさらに割引特典あり。
A社会適応性を著しく害する形質:ダウン症候群、自閉症、その他精神遅滞や知的障害を取り除く処置。@と合わせてどうぞ。
B付加価値的な形質:身長、体格、運動能力、知能などのブースト処置。これで二人のベビーは将来安泰!
※この処置グループはいわば美容整形にあたり、そのため保険適用外となります。またこれらの形質はポリジーン制御されているため、作用機序がたいへん複雑です。お客さまの受精卵の状態にもよりますが、必ずしも意図した形質を増強できないことがある点をあらかじめご了承ください。

体外受精、着床前診断込みのパッケージサービスでさらにお得!
 当社では確かな実績を持つクリニックと提携し、お客さまの受精卵を強力にバックアップ! 遺伝子改変用としては体外受精卵を用いますが、自然妊娠の受精卵をご使用になりたい場合には、血中ゴナドトロピン濃度の測定により、最速で妊娠一週間めの胚盤胞を摘出することが可能です。
 その後当社提携クリニックにて受精卵を検査・凍結し、お客さまに遺伝情報をご提供いたします。凍結保存の保管料は十日までフリー! じっくり処置内容をお考えいただけます。
※その他の生殖補助医療サービスについては適宜ご相談ください。

     *     *     *

「@の遺伝病はオール処置で決まりね?」嫁さんの態度はそれ以外考えられぬといった調子だった。「見て、危なかった。テイ・サックス病の可能性があったみたいよ」
「ふうむ」わたしはうなった。「ぼくのほうの家系だったらすまん」
「どっちの遺伝かだなんて気にしないって決めたでしょ」
「そうだけどさ」
「どっちにしろこの子でその連鎖は断ち切られるの。そうでしょ?」
「そうだろうな」
 @グループの〈オールチェック〉ボタンをクリックすると、右下の〈ご予算〉の値がそれなりの金額になった。とはいえ数十万円で健康優良児が確実に生まれてくるなら安いものだろう。モニタの左上には胎児のイメージ図がゆっくりと回転しており、いまのチェックによって顔色がちょっとだけよくなった。遺伝病を克服して健康になったという意味だろう。芸が細かい。
「Aはどうする?」わたしは念のため聞いてみた。
「全部除去するに決まってるでしょ」
 そうした。例によって〈ご予算〉が跳ね上がる。モニタの胎児の顔色はいっそうよくなり、天使のような笑みさえ浮かべ始めている。しかし……たとえばXq-28遺伝子――ゲイ遺伝子と目されている――の変異を是正することや、アスペルガー症候群になる可能性を減じることが、天使の笑みと果たして等号で結ばれるのかどうか、少なくともわたしには判断できなそうもない。
「ねえ、あたし思うんだけど」
「なんだい」
「あたしたちの世代ってさ、境界線に立ってるって、そう思わない?」
「境界線?」漫然と〈遺伝子の相互作用早見表〉とやらを眺めてみる。これはひどい。東京の地下鉄網のほうがまだましだ。
「生まれは〈ナチュラル〉、産むのは〈カスタム〉」
「うーん、見事に韻を踏んでる」
「まじめな話なんだけど」
「ごめん」
「あたしたちの世代はどうやっても遺伝子からは逃れられなかったでしょ」
「全部が全部遺伝子で決まるわけじゃないぜ。使い古された言い回しで恐縮だけど」
「メンデル遺伝で決まる形質もあるじゃない。それって遺伝子を支配したことにならないかな? 部分的にせよね」
「どうかなあ」早見表を閉じて、試みにBグループの〈知能〉項目の数値をいじってみた。〈ご予算〉が天文学的な金額になったので、そっと戻す。「どうもそうは思えないな」
「いままであたしたちは遺伝子に踊らされてたけど」嫁さんはもうわたしと会話していないようだ。「今度はこっちがあいつらを操ってやるの。その勝利の結果があたしたちのベビー」
 彼女の台詞でわたしは突如、確信した。われわれはぜんぜん連中に勝ってなんかいない。だってそうだろう? 最良の遺伝子を選別したところで結局のところ、子どもを持ちたいという衝動は依然として存在する。
 そしてそれはまぎれもなく、遺伝子たちが不死性を継承していくための乗り物を供給する手段にすぎないなのだから。


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