1. トップページ
  2. ステップは、鼓動を刻む

天野ゆうりさん

ジャンルはファンタジー、日常、時々恋愛やバトルも書きます!! 友人の影響を受けて登録しました☆未熟者ですが、よろしくお願いいたしますm__m

性別 女性
将来の夢 ささやかな夢からか叶えていくこと!!
座右の銘 いつでも、ここが原点!!

投稿済みの作品

2

ステップは、鼓動を刻む

16/07/20 コンテスト(テーマ):第113回 時空モノガタリ文学賞 【 ダンス 】 コメント:2件 天野ゆうり 閲覧数:458

この作品を評価する


今日、俺は、とある舞台に来ている。
専門学校時代に、お世話になった講師が主催の、ジャズダンスライブだ。

元々、俳優になりたくて入った専門学校。
まさかのバレエやジャズダンスの授業に、悪戦苦闘の日々を送っていたのは、もう、十年も前の話。


十年前の俺は……、鏡に向かい合う毎日だった。
芝居だけではなく、ダンスも必須なこの学校。

今までにダンスなんて、体育の授業でしかしたことがない。
先ずは、体を柔らかくすることからだった。
同じような仲間と、授業前に集まって柔軟体操。
音楽に合わせて、振り付けを復習する。

少しでも、完璧にこなせるように。
指摘された箇所が、間違いないように。
軽やかに、ステップが踏めるように……

授業が終わったあとも、空き時間に復習。
仲間と、学校近くの公園で音楽を流しながら振り付けを練習した。



勿論、授業に含まれている科目だから、テストもあるわけで。
ダンスが好き!!という人とは違って、単位のために踊っている。目標は別のところにあるから。

テスト当日……
正面にあるガラスは、全てを見透かしているような気がした。
講師の先生やクラスメイトが見ている中、音楽が流れた。
今まで練習したこと、身に付けた触れ付けを全身で表現する。
だが……

(ヤバイ、間違えた!!)

一つ移動する方向を間違えた。

そこから、一気に崩れる。
止まったら、得点が下がる。
やめるわけにはいかない。
続けないと……

終わったときには、記憶が飛んでいた。
悔しくて、たまらなかった。
この授業でのトレーニングがベースで、年に一度のミュージカルへの配役が決まる。
元々女子が多い学校だったから、配役も女子が多い。
男子の枠は、ただでさえ少ないのだ。

舞台に立ちたい。

その一心で、前にも増して、鏡の前で練習を試みる。
キレは?
しなやかさは?
表現は?
自分の存在感を出せているか?!

とにかく、必死に打ち込んだ、ある日……

悲劇は起きたのだ。

「痛っ!!」

ストレッチ中に、体内で聞こえたバキッ!!という音。
痛みで動けない。
歩くのも辛い。

なんとか、授業を受けたあと、接骨院での診断は……

「これは、骨盤がずれたね。恐らく、筋肉の付け根も炎症を起こしているから……しばらくは安静だよ」

あまりにもショックな発言。

俺が、続けてきた、この数ヵ月間は、一体何たったんだ。

診断を終えてから、腰骨の痛みを堪えつつ家に帰る。
それから二、三日動けなかった。


本格的にミュージカルの練習が始まった。
痛みをこらえながら踊る姿は、鏡が物語っている。

ーー全く楽しそうではない。
ただ、辛いだけで、何も伝わらないダンスは、ただの動き出しかない。
伸び伸びとした、明るくて、軽やかで、楽しいダンスは、俺には踊れなくなっていた。

当然、配役が決まるわけもなく、なんとか、周りで踊るガヤのなれた程度だった。

大人数の中で踊るにも、足手まといになってはいけない。
そんなプレッシャーから、体の動きはどんどん小さくなっていった。

ーーこんなことなら、いっそ、ダンスを辞めよう……

そう思ったとき、練習として使っていたスタジオの鏡が頭をよぎった。
俺を写す鏡。
全てを見透かしているソレは、俺と……履いているジャズシューズが目に入る。

続けてきた分、逃げたくなかった。
せめて、今年だけでも……



結果、炎症を薬で押さえて、病院に通いつつ、本番に。
踊りきった姿は、お客さんにどう写ったのだろうか……
精一杯の笑顔で、今までで一番大きな動きで……最後まで、踊りきった心は、痛みを越して、爽快感で満ち溢れていた。
照明の下。
最後のポーズで拳を上に振り上げたあと、袖にはける。



そのミュージカルのあと、ドクターストップからダンスは踊っていない。

黒い、くたびれたジャズシューズも一年しか履かなかった。
それでも、俺にとっては、……戦友。
そんな気がした。


それから十年後の今に至る。
花束を受け付けに預け、あの頃お世話になった講師が舞台に現れた。
その姿は、勇ましくかっこよくもあり、ジャズやバレエ、タップダンスを取り入れた物語。

知らず知らずのうちに引き込まれ、気づけば……

(……俺)

足が、勝手にリズムを刻む。
こんなに年月がたっていても、体はステップを忘れていない。
体が疼き出す。

講演終了後、帰宅時の足は軽やかだった。
決して、順風満帆じゃなかった時間だったけれど、あの時間は無駄じゃない。

それは、体に染み込んだリズムを、心の中でステップを踏んでいたからなのだろう。


俺の鼓動は、確かに、あの頃も今も躍り続けている。



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

16/07/23 あずみの白馬

拝読させていただきました。
残念ながら夢を果たせなかった彼ですが、そのステップと鼓動は息づいている……、主人公の未来に幸あれと思いました。

16/07/23 天野ゆうり

あずみの白馬様>
ありがとうございます!
夢を見ることと叶えることが必ずしもイコールではないのだけど、それでもその時間はきっと、無駄じゃないと思うので……今回は、こんな形にしてみました。
読んでいただき、コメントまで、ありがとうございます!!

ログイン
アドセンス