1. トップページ
  2. なつのひのゆめ

あきさん

現代小説を中心に書いています。 読んだ後に少しでもホッコリしていただけるような小説を目指しています。 よろしくお願いします。

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

なつのひのゆめ

16/07/19 コンテスト(テーマ):第113回 時空モノガタリ文学賞 【 ダンス 】 コメント:0件 あき 閲覧数:547

この作品を評価する

 私と幼なじみの圭吾は子どもの頃からよく遊んだ。
 鬼ごっこ、虫取り。
 いつも圭吾は泣きながら私について来た。
 鬼ごっこでは思いっきり圭吾の背中にビンタして捕まえたり、虫嫌いな圭吾の背中に樹液を塗りたくって虫の大群に襲わさせるなど、私はどちらかといえばちょっぴりおてんばさんだった。
 私が先頭でズンズン走って、後ろから情けなくついてくる圭吾。
 そう思っていたのに……。

 中学生になって圭吾はバスケ部に入り、身長も顔立ちも男らしくなった。それでも私達の距離は変わらなかった。
「ふぁぁぁーー」
「おはよう、夏帆。相変わらずだらしがないね」
 朝、欠伸をして玄関を出るといつものように圭吾が立っていた。
「アンタ私なんかにかまってるとまた後輩に焼きもち焼かれるわよ」
 私が頬を思いっきり膨らますと、圭吾がクスッと笑った。
「そんな怒り方はしないよ。それに今更、夏帆と距離を置くことも出来ないよ。だって俺がいないと夏帆は危なっかしくて見てられないからね」
「なんだと、バカ圭吾!」
 私が追いかけると圭吾は「怖い怖い」と言って微笑んだ。
 学校が近づくと、圭吾が照れくさそうに切り出してきた。
「……ねえ、夏帆。8月のお盆、夏祭りに行かない?」
 見上げればペンキのような青空と真っ白い入道雲が広がっていた。

 圭吾が死んだのは夏休みに入る前日だった。
 交通事故だった。
 子どもが飛び出したのをかばってトラックにひかれたそうだ。
 お葬式には後輩の女の子達も参列して泣きじゃくっていた。それを見て、私は泣くことができなかった。
 ばーか、圭吾。女の子泣かせてんじゃねーよ……。
 ばーか……。

 それから夏休みに入ってからも私は何もせずに過ごした。
「アンタ、少しは外に出なさい!」
 8月のある日、母に無理矢理、浴衣を着せられて夕方から外に送り出された。
 久しぶりに見た外の夕焼けに目を細めると、私と同じように浴衣を着た人達がたくさんいた。ああ、そうか今日はお祭りだったのか。
『……ねえ、夏帆。8月のお盆、夏祭りに行かない?』
 私はチクチクと痛む胸を押さえて山道の神社に向かった。
 神社の境内の真ん中ではやぐらが立てられ太鼓が景気よく鳴らされ、周りで盆踊りを踊る人々。
 ……帰ろう。
 そう思ってやぐらに背を向けると、久しぶりに外に出て疲れていたのか石につまずいてしまう。
 そのままバランスを崩し前のめりに倒れる……はずだった。でも私の身体は寸前の所で男の子に優しく支えられていた。
「あ、ありがとう……」
 その男の子は黒の浴衣を来て、白い狐の仮面を被っていた。
 恥ずかしくてうつむく私にーー。
「……見てらんないね」
 仮面の下からくぐもった声が聞こえた。
「えっ?」
 私がその声を聞いて顔を上げると、彼は背を向けて人混みにかき消された。
 私は走り出した。
 足が棒になりながらも石段を登っていき、大きな鳥居の所で盆踊り会場を見下ろすと、後ろに人の気配がした。
 振り返ると、先ほどの男の子が立っていた。
 右手には狐の仮面を持って。
「圭吾……」
 あの日と変わらず優しいまなざしの彼が立っていた。
 ただ、彼の姿は半透明になり、今にも消えてしまいそうだ。
 彼が私の名前を呼んだ。でも声すらもう私の耳には届かなかった。
 ……消えてしまう。
 そう思うと、今まで胸の中にあったものが一気にこみ上げてきた。
「バカ圭吾っ! 私がいつも先頭で歩いていたでしょう! 何で勝手に先に行ってんのよ!」
 圭吾は困ったように笑いながらこちらに近づいてくる。
「アンタのせいでいっぱいの人が泣いたんだよ! おじさんもおばさんも、後輩の子達だって!」
 目の前で圭吾は立ち止まった。
 先ほどまでの勢いのある声は消えて、弱々しい声がこぼれる。
「……わ、私だって、泣きたかったよ。でも、泣いたら、お別れしちゃうようで……。嫌だったんだ。私、わたしーー」
 とうとう私は座り込んでしまう。
「圭吾が好き。ずっと一緒にいたい……」
 絞り出した声に応えるように私の頭の上に暖かい手のひらが乗せられた。
 見上げると、圭吾がゆっくりと口を動かす。
『あ』『り』『が』『と』『う』。
 最後にそれを告げて、彼は幸せそうに微笑んで消えていった。
 その顔を見て、ぐちゃぐちゃになった感情を吐き出すかのように膝を抱えて大声で泣いた。

 祭り囃と太鼓の音を聞きながら圭吾が夏祭りに誘ってきた時の事を思い出していた。
『ーー盆踊りってさ。楽しそうだけど、亡くなった家族とかの霊を供養する意味もあるんだよ』
 盆踊りをする人達はきっと感謝の意味を込めて踊るんだろう。私はまだ踊ることはできないけど、精一杯の感謝の気持ちを込めて心の中で呟いた。
 ……想いを伝えさせてくれて、ありがとう。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン
アドセンス