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ヨルツキさん

宇宙が大好きな物書きです☆ 書いていないと具合が悪くなります。文庫本を片手に空を見上げていたら、それはワタクシです☆ ※画像はレフカダさんの作品です(無断転用禁止)

性別 女性
将来の夢 ガツガツしないで穏やかに生きる人間になるコト
座右の銘 人事を尽くして天命を待つ

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スノーシューズ

12/09/25 コンテスト(テーマ):第十五回 時空モノガタリ文学賞【 北海道 】 コメント:0件 ヨルツキ 閲覧数:1670

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 バスから降りるなり、おれは派手に転倒した。路面が凍っていたのだ。恥ずかしさからすぐに立ち上がる。そんなおれを見て問題なしと判断したのか、背後でバスは発車していった。
 おれも痛む尻を堪えつつ歩き出そうとした。
 動けなかった。
 足をくじいたわけではない。ただ眼前に広がるのは一面の凍った路面。しかも斜面。あたかもスケートリンクのごとくだ。
 これが冬の北海道――。おれは息を飲む。駅周辺はアスファルトの路面が見えていたので気づかなかったが、なんということだ。見渡す限り日向の歩道はスケートリンク状態に凍っているではないか。雪が解けて夜中の冷気で凍ったらしい。
 とはいえ、ここで立ち尽くしているわけにもいかない。おれは顔を上げる。交差点脇にコンビニが見えた。よし。あそこまで行こう。
 顔を引き締め足を出す。両手をペンギンのごとく突き出してバランスを取る。それでもなかなか進めない。
「くつくつ」不意に背後から声が聞こえた。散歩と思しき老人だった。老人はおれの足元を指差してうなずくと、すたすたと歩いていった。
 おれは目を疑う。すたすた? すたすたと歩けるだと? 地元民だからスケートリンクを歩く技術を身につけているのか?
「くつくつ」また声がした。今度は老婆だ。老婆もスキーのステックのようなものを突きつつ、すたすたと歩いていく。ひとり歩道にたたずむおれが馬鹿みたいだ。
「くつくつ」「くつくつ」「くつくつ」親切なのか呪文なのか、おれがコンビニにたどりつくまで、何人もの老人がおれに声をかけた。
 必死の思いでコンビニにたどり着き、入り口のマットの上で一息つく。そして店内に足を踏み出したところでおれはまた派手に転倒した。塩化ビニールの床の脇には「転倒注意」と立て札があった。油断をしたためとっさに起き上がれない。店員が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか? ん? お客さん、内地のひと?」
「内地? まあ。本州からですが」
「もしかして、夏靴?」
 なつくつ。その聞きなれない響きにおれは目をしばたたく。靴に夏とか冬とかあるのか? 店員は棚にあったグッズをおれに差し出した。
「『スノーストッパー』? 『これで冬道も安心』?」
「夏靴にこうやってつけてね。本当は冬靴をはくのが一番だけど」
 怪訝顔をするおれに、店員は靴を脱いで底をおれに見せてくれた。
「おお」思わず声が出る。底がギザギザになっている。
「これがストッパーになって凍った道でも歩けると?」だから老人や老婆もすたすたと凍った歩道を歩いていたのか。おれがはいていたのはスニーカーだ。なるほど。無茶というものだ。
 老人たちがつぶやいていた「くつくつ」の正体もこれだったのだ。
 おれは店員が差し出す『スノーストッパー』を受け取る。よし。これで万全だ。
 意気揚々とレジに進もうとして、おれは床に転がっていた雪氷のかけらに足を取られてまた転倒した。そこに女子高生の集団が入ってきた。うっわ、ぜったい笑われる! 奥歯を噛みしめ覚悟をする。
 ところが――女子高生の集団はおれを一瞥しただけで菓子コーナーへと進んで行った。転んだまま呆然としているおれに店員が手を差し出した。
「見慣れているからね。ま。お客さんが受験生じゃなくてよかったね。縁起が悪いっしょ? 『すべる』ってね」店員はおれを起しながらケタケタ笑う。
 おれは無言で今度こそレジへと向かった。
 これだけ転倒すればどうでもいいさ。投げやりになる。
 ――実はおれ、会場を下見に来た受験生なのだった。


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