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吉岡 幸一さん

性別 男性
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【宇宙のサラリーマン侵略者】

16/07/15 コンテスト(テーマ):第85回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:800

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 残業を終え、アパートに帰ると宇宙人が待っていた。
 ここは都会の片隅にある二階建ての小さなアパート。間取りは一Kしかない、築三十五年の老朽化したトタン屋根のアパートだ。
「ここを地球侵略の基地にすることにしました」
 スーツにネクタイと、まるでクールヴィズには関係のないような恰好をした宇宙人は、正座をすると三つ指をついて丁寧に頭をさげた。
 アニメではよくあるパターンだと俺は思った。ドジなイカやカエルのキャラクターが地球侵略を叫びつつ、周りの人間と仲良く過ごす日常を描いたアニメだ。たいていの大人はアニメなんてものは見ないから知らないのだろうが、俺はこれでもけっこうなアニメオタクだ。だれの差し金かわからないが、くだらない悪戯をするものだ。
「悪いが俺は仕事で疲れてるんだ。地球侵略の手伝いなんかできないぞ」
「いいえ、手伝いは不要です。この場所だけお貸しくださればそれで充分です。後はこちらで勝手に地球を侵略しますから」
「家賃を払ってくれるんなら、ここを基地にしてもいいぞ。ただし家賃は前払いだからな」
 俺は靴下を脱いでベッドに身体を横たえるとひとつ大きな欠伸をした。
「わかりました」宇宙人は諭吉の札束を十個重ねると枕元に置いた。そして両手をパンッと叩くと跡形もなく消えてしまった。札束だけが残っていた。
 札束は本物だった。こんな大金を悪戯で置いていくものだろうか。それにどうやって鍵のかかった部屋に入って、一瞬にして消えることができたのだ。俺に宇宙人の知り合いはいないし、あんなのっぺりした顔の友人もいない。
 まあ、いいや。どうせ考えたってわからないんだ。金が返してほしけりゃ、そのうち取にくるだろう。
 考えることが面倒な俺はそのまま眠った。正直、宇宙人のことよりも明日の営業会議で成績の悪いことを責められはしないかと、そのことのほうが気になっていた。
 朝、目が覚めると宇宙人が枕元に立っていた。今朝もスーツを着ている。昨夜は気づかなかったが、宇宙人は背が低かった。百三十センチくらいであろうか。痩せていて肌は青白く、髪は若葉のような緑色だった。男にもみえるし女にもみえるが、外見は普通の人間と同じだ。
「あなたの協力のおかげで地球の侵略は無事終わりました」
 宇宙人は日本式に深々と九十度のお辞儀した。
「からかうのもいい加減にしてくれ。お前はどこの誰だ、誰に頼まれてこんな手の込んだ悪戯をしてるんだ。金はそこに置いたままだから、さっさと持って帰ってくれ」
「からかうとは何のことですか。私の星にはそのような言葉は存在しませんが」
「じゃあ、地球を侵略したっていう証拠をみせてみろよ」
 俺は起き上がるとカーテンを開けて窓を開いた。湿った風が勢いよく窓から流れ込んできた。曇ってはいたが、特に普段の街並みとかわったところはない。遠くには化学工場の煙突からいつも通りに煙が出ていて、手前の古いビルの群れも車の騒音もいつもと同じだ。手前のアパートの住人も普段と同じようにベランダに出て、下着姿のまま煙草をふかしている。
「ほら、何も変わってないじゃないか」
 宇宙人は黙ってテレビをつけた。臨時ニュースが流れていた。どのチャンネルを回しても同じ太ったアナウンサーが話している。
「繰り返し臨時ニュースをお伝えします。日本政府は今朝、消費税を二百パーセントにすると発表しました。与党のみならず野党もこの決定に全面的に賛成を表明しています。早ければ今日の午後に国会を通過し・・・。また世界中のありとあらゆる国が大幅に増税を行うことを発表しています。なぜ、突然今朝になってこのようなことになったのか、いっさい発表はありません。またアメリカや中国では今朝から富裕層の財産の差し押さえが強制的に行われているようです・・・詳しくはまだわかってはいませんが・・・」
「いったい、これはどういうことだ」
 俺は宇宙人の胸ぐらをつかむと激しく揺さぶった。
「ですから、あなた方は今後、我々の為に貢ぎ物をしなければならなくなったのです。それがこの増税ということです。我々の幸福のためにもいっぱい働いて、いっぱい納税してください。税をきちんと納めてくれる限り我々はあなた方の良き友人ですから」
「おまえ一人でやったことなのか?」
「ええ、このくらい小さな星ひとつなら私一人でも十分ですから。ほかの仲間はさまざまな星で活躍中ですよ」
「地球にはおまえ一人なんだな」
俺は引き出しからナイフを取り出すと、宇宙人の胸の真ん中をめがけて突き刺した。たしかに突き刺した手ごたえがあったのだが、ナイフは宇宙人の胸にあたって折れ曲がっていた。
「あらあら、なんてかわいい子なんでしょう。惚れただけのことはあるわ」
 俺は拳で宇宙人の顔に殴りかかったが、どういうわけか拳は顔を避けてしまう。足で蹴ってみても結果はかわらない。
「今日からあなたはペットで奴隷、わたしに尽くしなさい。いい子でいたらうんと可愛がってあげるから」
 その後、俺がどうしたかっていうと、何もしていない。俺は無駄な抵抗はしないし、諦めだって良い方だ。長いものにはまかれ、強いものには頭をたれる。宇宙人の侵略のことは俺しか知らない。ほかの奴に話したって気が狂ったと思われるだけだ。
 それで侵略者はどうしているかっていうと、ただこの一Kの部屋にいるだけだ。贅沢をするわけでもない、ペットで奴隷の俺を辱めることもしない。俺が仕事に行っている間は寝そべってテレビを見て過ごし、夜は俺と食事をしたり、昔話をしたり、あいつの星の話を聞いたりして過ごしている。まるで女と同棲しているみたいだな。さすがに一緒に寝ることはないが・・・。もともとこのぼろいアパートを基地に選んだのは金がかかりそうにないからだそうだ。基地の家賃は奴の自腹なんだそうだ。
 この星の奴らから搾り取った税金はどうしているかっていうと、全部、母星に送っているらしいんだ。あいつは母星からほんのわずかな給料をもらっているみたいだ。あいつはサラリーマン侵略者ってわけなんだな。あいつも給与から所得税や社会保険料なんていうのも天引きされているらしい。つまりこつこつと貯金に励む良き納税者だよ。
 来月には宇宙人は転勤になって、次の星の侵略を上から命じられたそうだ。代わりに新人の侵略者がこの基地にやってくるという。
 次はどんな奴が来るか楽しみにしている。気前のいい奴だと嬉しいのだがね。




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