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勿忘草さん

どうか貴方のお心にとまりますように。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 泣いて、泣いて、泣きつかれたらまた一人ぼっちの朝が来る。

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残像と残り香

16/07/06 コンテスト(テーマ):第84回 【 自由投稿スペース 】 コメント:0件 勿忘草 閲覧数:616

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夜中の2時頃僕は、聞き慣れない携帯の機械音で目を覚ました。真っ暗な世界に、ただひたすら鳴く生き物の声、この携帯電話の灯りがどこか遠い場所にあるようにさえ思えた。そして僕は、眠い目をこすってまだ光になれないおぼろげな目でそっと画面をのぞくと、君からの着信だった。
「ん?なに?」
僕は気持ちよく寝ていたのに、睡眠を邪魔されて心底期限が悪かった。
「あはは!なにその眠そうな声!もしかして寝てた?」
耳が痛くなるくらいの笑い声が響き、自然に小馬鹿にしたような君の笑い方が頭の中でループされた。
「何時だと思ってるの?普通寝てるから、それでなに?」
「もうそんなに怒らないでよ。ごめんって。あのね、今すぐ外に来て欲しいの。」
睡眠を邪魔しておいてその上、今から外に来て欲しいと頼むなどつくづく勝手だと思いながらもしょうがなく僕は薄いカーディガンを羽織りながら玄関を出た。
外に出ろとは言われても、君の姿が見当たらず、そして僕は肝心の場所を聞いてないことを思い出し、携帯電話を取り出した。すると、携帯電話ではない方なら聞き慣れた声が聞こえた。
「こっちだよ!ほんとに来てくれたんだね。」
君は起きたばっかりのパジャマに薄いカーディガンを羽織っただけの僕と違って、私服を着ていて、僕は誰にも見せたことのない自分の姿に少し恥ずかしくなった。
ふと赤くなっている君の耳に目がいった。
「ねぇ、ここでずっと待ってたの?もし僕が電話に出なかったら?来なかったらどうするつもりだったの?」
僕と彼女の家はものすごく離れていて、電車でないとこれないくらいの距離だった。こんな夜中に電車は走っていないし、終電に乗ったとしても軽く3時間は過ぎている。それに、タクシーを呼ぶにしたらもう相当な金額になるだろうし、そんなお金を高校生が払えるはずもなかった。
「だって、来ると思ってたもの。」
もう何も聞くなとでも言いたそうな目を向けると、すたすた歩き出した。しばらく歩いただろうか。ここは僕の家の付近なのに途中から来たこともない道を歩き出して、今更引き返すことも出来ず僕は彼女の後ろをそっとついていくことにした。
辺りが森林に囲まれた中に1つ小さな池がある公園だった。初めて見た風景なのに、どこか懐かしいような気持ちになった。月明かりに照らされて、水面が透けるように綺麗だった。ざわざわと木の葉が揺れる音がより一層寂しさを増すような気がして、僕はこの静寂に耐えることが出来なかった。
君がブランコに座り、自然と僕もその隣に座ると、君が近くにいるのにどこか遠くにいるように思えて、僕は不安気に言葉を投げかけた。
「あのさ、夜中にこんなところに連れ出してなにがしたかったの?」
君がブランコをこぐのをやめて、すっと僕の顔をのぞき見るようにして
「今日は七夕だよ。それにものすごく星が綺麗でしょ。君はどうせ星なんて眺めてないと思ったから星空を見せてあげたいって思ったの。」
冗談を言っているような口調ではなく、至って真面目な答えというか、彼女の本心だったのだろう。僕は別の意味があるように聞こえてそれを知りたかったのに、どうやらうまく波長が合わない。いや、彼女との波長の合わなさは元からだ。不意に僕は薄い笑みをこぼした。
君もつられて少し笑うと、どこかに行ってしまいそうなほど、儚げな顔で空を仰いだ。
「ねぇ、1年に1度しか会えないのにどうして気持ちは変わらないまま愛していられるのかな。私ならきっと無理だよ。1年のいろんな出来事を共有するのはただの1日だけなんて、悲しすぎるよね。でも、愛していたら距離なんて関係ないのかな?何も考えないでひたすら思えるのかな?」
「それはただのおとぎ話だからだよ」
「やっぱり夢がないこと言うね。君って。」
彼女が屈託なく笑うから僕は安心して、君の言葉をなんとなく聞いていたのかもしれない。
「でも、さよならという言葉をお互いに交わして明日からまた隣にいない日々を送るんだもんね。さよならを言い合うことがせめての救いなのかな?」
わかっていたと思う。彼女は冗談交じりにしか本心を言うことが出来ず、本当は繊細な人であることを。普通の人が気にもとめないことを彼女は誰よりも気にしてしまうことを。
「さよならが支えなんてそれは違うんじゃない?別れの言葉は大好きだとか、愛してるとかじゃないのかな?」
「やっぱりまだまだ子供だね!!」
君が笑いながらそういうと、僕達は元の場所へとゆっくりと歩き出した。
零れ落ちるような綺麗な星空の下で僕達はいろいろな話をした。まだ揺れるブランコを見送ってしばらく時間が経つと、僕達に別れの時間が訪れた。家の途中まで送ると言ったのに君はいいの一点張りで、寄りたいところもあると言われて僕はしぶしぶ君に手を振った。
そして次の日いつも通りに学校に行くと、君が引っ越したことを知った。みずくさいのが嫌だから言わないで欲しいと言った彼女の意思を尊重したという。担任はそう言ったが、いくらなんでも心の準備というものがあるだろうと思いながら僕は、君のいないこの教室に音がなくなった気がして悲しくなった。
僕はやっと彼女の言いたかった真実がわかった気がした。本当の別れとは唐突でさよならなんて言えないまま、もう二度と会えなくなることなんだと思い知った。さよならを交わすことはまた次に会うための約束のようなものなのだろう。もし、僕が君の話をしっかり聞いていたら。もし僕がさよならを口にしたら、天の川を渡ってでも彦星と織姫のように一年に一度だけでもいいから、君にまた会えたのだろうか。せめてありがとうと言いたかった。さよならを口にしたかった。意地でも彼女を送るべきだった。きっと彼女は僕と別れてから泣いていたのだろう。君の震える肩を抱きしめてあげたかった。星が綺麗とかそんなことじゃなくて、本当の意味を教えて欲しいと問いたかった。君に行かないで欲しいと言いたかった。君の残り香を求めるように、やりきれない思いを抱えたまま僕は、ただただ唖然と昨日の出来事が頭の中で思い出された。昨日君と繋いだ僕の左手をそっと包み込むようにして、ここにあるはずのない体温を感じられるように、頭に何度も何度も君の残像を思い浮かべては、僕は崩れ落ちるように溢れるばかりの涙を流した。


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