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吉岡 幸一さん

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性別 男性
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運動会、お弁当の花が咲いて

16/06/29 コンテスト(テーマ):第112回 時空モノガタリ文学賞 【 弁当 】 コメント:1件 吉岡 幸一 閲覧数:744

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小学校の校庭に千の旗がゆれている
白いテントは濃い影をつくり子供らを日差しから守っている
甲高い応援の声は風にのって空を舞う
がんばれ、がんばれ、追い越せ、追い抜け
保護者の群れのなかで私はひとり何をみる


背中の丸まった老女が杖をついて運動場を見つめている
孫の姿を必死になって探している
見つけた瞬間、老女は笑顔になって手を振りはじめる
おおきくなったね、大きくなったね、ころばないで
老女のつぶやきが背中越しに私の胸におちていく


参加する競技の合間の子供がふたりテントの裏で話している
ゼッケンにはわずかに泥がついて汗の匂い
白い運動靴は黒くなり、赤と白の鉢巻は生地が少し傷んでいる
お弁当なにかな、お昼はまだかな、お腹すいたね
私のお弁当を食べてくれる子はどこに、どこにいる


保護者参加の綱引きにまじり綱を引く私は砂埃を浴びる
力を入れようとしても力は滑るように抜けていく
前へ前へと引きずられ、後ろへ後ろへと向かう意思は空回り
せえのう、せえのう、えいやあ、えいさあ
私は何のために綱をひく、誰のために綱をひく


休み時間、校庭の端々でお弁当の花が咲きはじめる
子供らは花に引きつけられた蜜蜂のように集まってくる
賑やかな笑い声、お握りを頬張る子供たち、減っていくお弁当
あのね、あのね、走るの見てくれた、一番になったんだよ
私はひとり弁当をひろげ、じっと卵焼きを見つめる


もしあの子が生きていたら、この子供らの中で笑っているかしら
もしあの子がここにいたら、私のお弁当を食べてくれるかしら
もしあの子がお弁当を食べておいしいと言ってくれたなら
おにぎり、卵焼き、ウインナー、から揚げ、メロン、お菓子
あの子はどこに、私の子供はどこに、もういちど会いたい


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このストーリーに関するコメント

16/07/13 あずみの白馬

拝読させていただきました。風景の切り取り方が良いだけに、
「私の子供はどこに、もういちど会いたい」
この言葉がとても切なく感じました。全体的にも好仕上がりだと思います。

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