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あずみの白馬さん

成人済 アイコンは天乃ゆうりさん作成(無断転載を禁じます) 自分なりの優しい世界観を出せるように頑張ります。 好きな作家は飯田雪子先生です。若輩者ですが、よろしくお願いします。 Twitter:@Hakuba_Azumino

性別 男性
将来の夢 旅立つときには、ひとりでも多くの人に見送られたい。
座右の銘 「これでいいのだ」

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蕎麦触れ合うも他生の縁

16/06/27 コンテスト(テーマ):第111回 時空モノガタリ文学賞 【 蕎麦 】 コメント:6件 あずみの白馬 閲覧数:1007

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 青森駅は、北海道への玄関口の座を新幹線の駅に譲り、三内丸山遺跡、白神山地への玄関口として大規模なリニューアルが施され、青森白神(あおもりしらかみ)駅として新たなスタートを切っていた。
 ホームにはかつて駅そばがあったが、その場所にはコンクリートの土台だけが残されていた。それを見ていると、あの日の想い出が蘇る……

――15年前

 貧乏旅行を終えた北海道への帰り道、ぼくは乗り換えのために、夜8時、青森駅に降り立った。もうすぐ帰ると思うと寂しいが、機会を見てまた旅したいと思う。

 到着のアナウンスを聞きながら、津軽海峡線、函館行きの快速列車が待つホームに向かった。
 赤い機関車に連なったブルートレインのような車両が、北へ向かう旅人を出迎えている。

 既にドアが開いていたので、列車に入って席を確保すると、発車まであと20分ぐらいある。ちょうど小腹が空いてきたので、ホームにある蕎麦屋に向かうことにした。
 そこはいかにもどこにでもありそうな駅そばと言った風情。しかし店の中に入ると、
「いらっしゃいませ!」
 若い女性の明るい声に出迎えられた。こういう店はおばちゃんと相場が決まっている感じがするので、珍しいと思いながら顔を見ると、30歳手前くらいのスレンダーなお姉さんがにこやかな顔を見せている。
 店内に他にお客さんは無い。綺麗なお姉さんと二人きり……、こういうシチュエーションは、なぜか嬉しくなってしまう。

 メニューを見ると、駅そば定番の中に「縄文そば」なる珍しいメニューを見つけた。面白そうだなとそれを注文する。
 お姉さんは手際よくそばを作り、3分くらいで「お待たせいたしました」の声とともに、クルミなどの木の実や山菜などがたくさん入ったそばが出て来た。
 食べてみると、ダシが意外と効いていて、木の実のしっかりとした歯ごたえと、添えられた山菜はなかなかのもの。駅そばにあまり期待していなかったが、意外といける。
 あっと言う間につるっと食べてしまった。美味しかったので、好奇心もあって、お姉さんに話しかけてみることにした。

「美味しかったですよ」
「あら、ありがとうございます」
「いえいえ。なかなかのものでしたよ」
「そうですか?」
 笑顔がとても可愛い。他に客は無く、発車まで15分ほどあったので少し世間話をしてみたくなってきた。
「ええ。貧乏旅行の帰り道で、いくつかの駅かそばを食べたんだけど、ここのは特に美味しいですよ」
「あら、うれしいです」
「このそばのダシはお姉さんが作ったんですか?」
「ええ。父に教えてもらいまして……」
 なるほど、若い娘が作ったにしては通りでおいしいと思った。

 そこに美少女、というには大人びた女の子がやってきた。
「亜紀お姉ちゃん、縄文そばちょうだい」
「はい。ちょっと待ってて」
 どうやら二人は知り合いっぽい感じだ。
「あなた、最近養成所のほうはどうなの?」
「順調よ。目をかけてくれる先生もいるし」
「本当? 去年もそんなこと言ってなかった?」
「順調って言ったら順調なの! 絶対声優になって見せる! お姉ちゃんが果たせなかった夢をかなえるんだから」
 声優か。ぼくも東京に出て養成所に通ったことがある。だが、デビューは叶わず、泣く泣く北海道に帰ったことを思い出した。
「うん。あ、おそばできたよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「あ、ちゃんとお金は払ってね」
「えー!」
 はたから見ていると姉妹に見える二人がうらやましかった。彼女たちは「これから」を見ているのだから。

『快速海峡13号、函館行きをご利用のお客様はご乗車になってお待ち下さい』

 もうそろそろ出発の時間だ。僕は二人に一礼して店を後にする。店員のお姉さんも笑顔を返してくれた。

 席に戻って外を見ると、発車メロディが鳴り響き、ガタンと列車が動き出した。ホームを見ると先程の店員さんと妹さんが店を出て、こちらに向かって一礼してくれた。ぼくも思わず礼を返す。二人の姿が遠くなる中、彼女たちの成功を願った。

――現在

 青森白神駅の改札外にはそば屋があった。そこを訪ねてみると、おばちゃんがひとり。15年前に会った彼女とは似ても似つかなかった。

 普通の味になってしまった天ぷらそばをすすりつつ、ぼくは彼女たちに思いを馳せた。今頃どうしているんだろう。お姉さんは、そして妹さんは……。

 食べ終わって店の外に出ると、構内の一部が即席のステージになっており、人だかりが出来ていた。なんでもこれから、地元出身の声優がイベントを開くらしい。

 司会者に呼ばれ、声優さんが出てきて会場が盛り上がる。その様子とまわりにいる人を見て、ぼくは思わず笑顔を浮かべてしまった。

 折に触れて食べられている蕎麦、それは人の縁を結ぶものなのかも知れない。


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このストーリーに関するコメント

16/06/28 にぽっくめいきんぐ

拝読しました。
オチが好きです。そこまでは丁寧に、具体的に描写していて、最後だけ、敢えてボカされて終わっている。でも、主人公が何を言いたいかが伝わる。
なんかほっこりしました。

16/06/29 あずみの白馬

>にぽっくめいきんぐ さん
ありがとうございます。
最後だけぼかした方が、読後感が良くなるとよいかなと思いました。
ほっこりしたとのことで、こちらとしても嬉しいです。

> 海月漂 さん
ありがとうございます。縄文そばにはモデルがありますが、本物より美味しく!? 描きました。
旅ってやっぱりいいですよね。ちょっとした出逢いがより旅を楽しくすると思います。
蕎麦は、日常にあって、特別な食べ物でもある縁を結ぶ食べ物。そういう気がします。

16/07/02 冬垣ひなた

あずみの白馬さん、拝読しました。

旅の思い出が詰まった蕎麦、いいですね。縄文そばが食べたくなりました、そばにも土地ごとの味があるのでしょうね。主人公だけでなく、きっと彼女たちにとっても思い出のそばだったんだなと思わせるラストがふんわりした印象で良かったです。

16/07/15 天野ゆうり

いろんな意味で、グッと来るお話でした。
蕎麦……いい意味で読めて嬉しかったです。
そして、夢……叶えてくれていたらいいな……諦めざる終えない人もいるなかで、ひと摘まみの成功者がいる。
お蕎麦で繋がった縁……うん、その頃の子がイベントに出ててくれたらいいな!!

16/07/18 あずみの白馬

> 冬垣ひなた さん
 ありがとうございます。縄文そばのモデルは現在ではもう味わえなくなってしまったのが残念ですが……、駅そばも土地ごとの味が復活してくれるといいですね。
 ラストの方も評価していただきましてありがとうございました。

>天野ゆうり さん
 ありがとうございます。ひとつまみの成功者の中に入れるかどうかは努力と運次第ですが、ゆうりさんも入れることを願っています!

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