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にぽっくめいきんぐさん

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アメーロンダリング

16/06/19 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:8件 にぽっくめいきんぐ 閲覧数:1220

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 私達は、地球の引力に引かれている。
 それを脱する人もいる。宇宙飛行士さんとか?

 引力は、物と物との間に、必ず存在する……らしい。
 私と、旦那と、息子の間にも。

 かつて私が惹かれた、あの人との間にも?

 私は今、小さな公園にいる。
 3人暮らしの2LDKのアパートから、歩いて5分ぐらい。
 でも今は8分位かかる。子供連れだからだ。

 息子は生後4ヶ月で、首も少しすわってきた。
 高校の友達が共同でくれたベビーカーに乗せて、旦那と一緒に、外へ連れ出した。
 微妙にカラッとした空気と、やや強めの日差し。
 梅雨の最中に、こんな日は貴重だ。

 旦那は、育児にもそれなりに参加してくれている。
 草がまばらに飛び出した公園の土の上で、息子を抱え、あまり見たことのないタイプの「高い高い」をやっている。
「エグザイル風ー!」
 公園の隅の丸椅子に座った私の目の前に、太陽に照らされた、息子の丸顔と、旦那の丸顔とが、反時計回りに交互に現れる。輪郭は旦那似かな?
 周りに人が居ないから放置しているけれど、誰かがこの公園に来る気配があったら、止めさせないと。恥ずかしいから家でお願いします。

 汗っかきの赤ん坊と、赤ん坊じゃないのに汗っかきの旦那を、帰宅後にまとめてお風呂に叩き込まないといけない。
 その間に、夕食を準備して、キッチンの掃除を軽くやって。その手順を考える。

 昔の私は、料理なんてしなかった。
 下手だったし。
 1Kのアパートで、あの人が作る、リゾットやら、なんか洋風の、オシャレな食べ物達が美味しかったし。
 私が美味しいと告げた時のあの人の笑顔も、ちょっとしたごちそうだったし。

 汗っかきのエグザイル達を見ながら、そんな事も考える。
 私は純粋ではない。


 あの時、私は泣いていた。あの人も、後から少しだけ泣いていた。
「資格を取りたいんだ、将来の為に」
 とある大きな公園の長ベンチで、あの人は、唐突にそう言い出した。
「だから、勉強しなきゃ。会う時間が、あまり取れなくなるかも、しれないんだけど」
 私は大泣きした。
「今のままで良いじゃない!」と。
 その後が、まずかった。
「なんで勝手に、そういうこと始めるの?」
 その瞬間から、あの人は少しずつ、斥力を発するようになっていった。
 異なる物同士を、離すように作用する力。
 私の言葉も、斥力だったのかもしれない。今はそう思う。
 
 理由なんて他にも考えられるけど、たぶん、お互いを惹く引力が、足りなくなったんだ。
 斥力が、引力よりも強くなった。単純な事。
 それが、あの人と、私との選択だった。


 さっきまでエグザイルだった2人は、今度は機械式時計のテンプよろしく、右、左、右、左と交互に旋回している。
 カチッ、カチッ、カチッ、カチッ、という音が聞こえてきそうな動き。

 ポツリ。
 私の腕に、水滴。

 ポツリ。
 私の鼻先に。
 青空もまだ残っているのに。

 考え事をやめた私は、丸椅子から立ち上がった。

「雨だぜ?」

 旦那は何故か疑問形を使い、息子を連れて水場に向かい、サンダルを脱ぎ、足を洗い始めた。
 足についた、土が乾いて固まったやつを、水で洗い流すんだ。

 ポツリ。

 ポツリ。

「ンアー、ンフー」と、息子は、私達にはまだ認識できない言葉を発した。そして、ぐずり始めた。

 ポツリ。

 ポツ、ポツ、ポツ。
 
「ンンアー! ンンアー! ンンアー!」

 晴れ間は消えた。

 2LDKの引力に、ひかれる時が来た。


 息子の涙が蒸発するのは、しばし後だろう。
 エグザイル達の、さっきまでの汗は、一部はとっくに蒸発しただろう。
 旦那の足についた土が混じった、公園の水は、水管を伝い、川に出て、いずれ海へと流れるかもしれない。
 どこかのタイミングで、いずれも、やっぱり蒸発するだろう。
 
 付着していた思い出やら何やらを、一旦リセットしつつ、水は蒸発する。

 蒸発した水は、空を上って水蒸気になる。

 チリやホコリを核として結集し、最終的には氷になる。
 そう。純水の氷じゃない。
 
 大きく育った氷は、地球の引力で、落ちてくる。

 氷が解けて、雨になる。
 
 純粋じゃない水滴は、降り注ぐ。

 山に。
 平野に。
 川や海に。
 ビルの上に。
 小さな公園に。

 私の上に降り注ぐ、この純水ではないものは、さて、どこから来たのだろうか?

「あの時の、あの人の涙が、何周ぐらいか流転した、結果のものである」という命題を、

 完全に否定し切ることは、人類には出来ない。

「やばい。ズボンの裾、汚したー」と、旦那が言う。

 私は、この人に、文句をたれる。

「お風呂ついでに洗濯ね。洗剤で。水だけじゃ、キレイにならないよ?」


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このストーリーに関するコメント

16/06/19 クナリ

命題と文体が歌詞のようで、独特の読み味がありました。
ラストのセリフで終わるのも良かったです。

16/06/21 にぽっくめいきんぐ

クナリさん ありがとうございますm(_ _)m

最近、書く時の「テーマ」を意識するようになってきました。
自分の中のテーマにとって不要なものを削ったら、こうなりました。
歌詞っぽいのは、多分、カラオケが好きだからだと思います。意識せずそうなっちゃいます(苦笑)

最後のセリフは、結構何回も弄りました。必要な要素のみを残したつもりですが、まだまだ冗長なのかも? もっと洗練させていく必要があるのかも? と思っています。 今後の話にはなりますが。

16/06/26 冬垣ひなた

にぽっくめいきんぐさん、拝読しました。

日常の一コマから生じる引力と斥力、絶え間ない水の循環。私たちが地球とつながっているという事を素直に感じました。言葉の一つ一つが丁寧に選ばれていて詩的ですね。『私の上に降り注ぐ、この純水ではないものは、さて、どこから来たのだろうか?』とはっとさせられ、さりげなく日常に戻るラストが心に残りました。

16/06/27 にぽっくめいきんぐ

冬垣ひなた様 ありがとうございます。

この作品で伝えたかった事、やりたかったことを、ほぼ全部汲んで頂けて、うれしく思っています。

16/06/29 あずみの白馬

日常を切り取った中での独特な作風に惹かれました。
「この純水でないものは、さて、どこから来たのだろう?」
ここに作者さんの想いが凝縮されている感じで、面白いと感じました。

16/06/30 にぽっくめいきんぐ

あずみの白馬さん ありがとうございます!

まさに、ご指摘のセリフは、元にある核です。

ちなみに、ロンダリング対象は2つあって、
「雨」のロンダリングと、「私」のロンダリングがあります。

16/07/10 光石七

拝読しました。
文体が独特でリズムがあり、その中での現実と思索の描写が味わい深かったです。
最後の現実への戻り方もいいですね。
面白かったです!

16/07/13 にぽっくめいきんぐ

光石七さん ありがとうございます!

正直、これが自分の素の文なのかが分かっていません(苦笑)
いつもはもっと、ネタを混ぜようとする意識が働いているからです。

最近は長い物も書き始めたので、
今自分がどういう状態なのか、さっぱり分からなくなりました(苦笑)

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