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いたるさん

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雨降り男の噂

16/06/18 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:0件 いたる 閲覧数:538

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「なあ、雨降り男の噂知ってるか」
僕が真剣に読書に耽っている最中に一馬が僕と本の間で手をヒラヒラさせながら話しかけてきた。
「知らないよそんなの。興味ないし」
「本の虫、物知り博士くんの大地なら知ってて当たり前だとおもったんだけどなーあ」

 正直鬱陶しい。一馬は数少ない友人だが自分の思った事はすぐ口に出すタイプで、時折僕が集中してることも気にせず喋りかけてくることがよくある。
「なんつって、どうせ詳しいんだろ」
好奇心旺盛な一馬のことだ、どうせ折れないだろう。僕は本にしおりを挟んで閉じ、溜息をついた。
「…知ってるよ、最近ここら辺で雨の日の夜にだけぼんやり見えるとかいうアレでしょ」
おお!と一馬は手を叩く。僕は嫌な予感がした。チラリと外を見るとどんよりと曇っている。

「今日の夜真相を確かめに行かねーか」

 午後10時。ケータイがバイブ音と共にチカチカと光った。画面には「着信:瀬戸一馬」と表示されている。
 時間だけはキッチリ守るヤツだ。2階の僕の部屋から外を見ると道路から傘を差した一馬が大きく手を振っているのが見えた。
 家族に気付かれないようそっとビニール傘を手に取り家を出る。小雨の中一馬は満面の笑みを浮かべている。遠足に行く小学生を見ている気分だ。
「よっしゃ、んじゃ行きますか!」
「もしかしてやみくもに探す気なの」
「そこらへん歩けばバッタリ出会うんじゃねーの」
「はぁ、もうちょっと頭使おうとか思わないの」

 そう言うと一馬は、「大地と違って俺は脳みそを使う事が苦手だからな!」と親指を立ててサムズアップ。僕は少しゲンナリしながら傘を持ち直し、ゆっくりと歩きながら話す事にした。
「まず、僕は見たことがないけどその雨降り男は雨の日にしか現れないこと。雨が降っていない時に見えることはないらしい。そしてぼんやりとしか見えないこと。多分背格好で男ってのが分かるくらいにしか見えないんだと思う。ちょっと調べてみたけどどんな顔だったとかは分からなかったしね。」
隣でフムフムと頷く一馬。

「で、最後に夜にしか現れないこと。でもこれは多分、そういうことじゃないと思うんだ。」
そりゃどういうことだ、と言いたげな一馬を片手で制し、僕は続ける。
「目撃情報は公園、人通りの少ない裏道、住宅地の道路がほとんどだった。この3つの共通点がカギだ。」
「共通点…?変質者が出そうとか」

 僕は首を横に振る。ついでに一馬のみぞおちにパンチを一発。
「これは僕の考えだけど、この3つの共通点は「真っ暗じゃない」こと。だから夜にしか現れないんじゃなくて、暗い所でなおかつある程度明るい所、でしか雨降り男が見えないっていうのが正しいんじゃないかな。雨と暗さの関係性はわからなかったけど…あと言っとくけど雨降り男が危害を加えたって話はないよ。」
「さっすが博士、名推理!」
そこは名探偵だろ…

「じゃあ丁度このあたりが出そうなんじゃ…」
ねーのか、と言いかけた一馬の言葉が止まった。そう、いた。
 住宅地の中、街灯から少し離れた所。しとしとと降る雨の中、男はいた。上半身はぼんやりと、下半身はもっとぼんやりと。隣には青ざめて身動きの取れない男が一人。

 近付いてみたい、もっと近くで見てみたい、今しっかりと見ておかないといけない。そんな衝動に駆られた。50メートル程離れたその距離を小走りで詰めていく。気付くと僕は男の目の前に立っていた。
 改めて男を見る。頭や肩は少し水が跳ね返っているような、腕や足は水が流れ落ちているような。暗い中街灯の光を雨が反射している感じだ。何だろう、何か見たことがある。まるでこれは僕が今持っている…

 僕はふっと上を見上げて、そしてもう一度男を見た。もしかして。僕は雨が滴る傘を男に差しかけてみた。すると男の姿が頭からゆっくりと消えて行く。なるほど、そういうことか。
 
 男はその間動かなかった。僕が興味深く観察しているのを楽しんでいるようで、悲しんでいるようでもあった。僕は頭を下げ、踵を返してもう一人の動かない男の方へと向かう。大丈夫か、と声を掛けると体をビクリと動かし、
「な、なな何なんだよ…」と声も体も震わせはじめた。

 僕は笑いながら「帰ろうか」と一馬の腕を掴み、雨の中を歩く。一馬が混乱している内に戻るのが正解だろう。

 ただの憶測だけれど、あの男は誰かに自分を見て驚いてもらいたい、雨が当たると姿が見えてしまうなりそこないの透明人間なのではないか。あながち一馬の考えも間違ってなかったかもしれない、と僕は自嘲した。それなら雨降り男のためにもこの事は誰にも言うべきじゃないな。

 事実は小説よりも奇なり。百聞は一見に如かず。自分の目で見るものが一番面白いんだなと、雨降り男と一馬に僕は心の中で感謝した。


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