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水面 光さん

■ホームページ「水面文庫」 http://www.minamo-bunko.com/ 忙しい中でも身を粉にして執筆活動しております。ジャンルとしては現代ファンタジーが中心でございます。よろしくどうぞー

性別 男性
将来の夢 物書きでメシを食う
座右の銘 人の心は変わらないから自分が変われ

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雨の妖精

16/06/10 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:0件 水面 光 閲覧数:726

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俺がこれから語る話は俺の中ではもちろん嘘じゃない。だが言っとくが、あんたがたがもしそれを信じてどうかなっても、俺は一切の責任をとらないからな。第一人を本当に信用するってのは多かれ少なかれ危険を伴うものじゃねえか。──俺はあのとき雨が降りだしたことに異常に反応している自分の脳ミソに気付いた。そう、雨が降るのは親父が絶対に納骨式に来るなと言っている証拠だった。事実は知らないがしかし、俺がドタキャンしたことを恨んでいる輩が確実に居ることだけは死ぬほど感じ取れた。雨脚が強くなる、土砂降りと言っていい。俺は独り自分の部屋の定位置に座って──ほとんど無意識と言っていいほど、そう、例の自動筆記に近い──キーを打っていた。まるでこうすればあのくそいまいましい親父の呪縛から自分を解き放てると心底信じ込んでるガキみたいな心境だった。無心にキーを打ってるとついに出やがった。雨降りのオカマが。どこに現れたか具体的に言いようがない。屋根裏でもないし、部屋の中でもないし、当然俺の神聖なるケツの穴の中でもない。あの雨音の中なんだよ! しかし外には居ない、俺の頭の中に直接声が聞こえてきた。その意味じゃ俺の頭の中に居ると言ってもいい。開口一番こう言いやがった。「アンタも相変わらずワガママねえ」俺は答えた。「それは役所の連中に言ったらどうだ? 確実に根拠を要求される」オカマは言った。「根拠ならあるわよ。アンタあの女が好きなんでしょ? うん、隠したって無駄よ、顔に書いてあるもの」「そんな話どうでもいいから」「あら、アンタがあのロリ声女にぞっこんなのはお見通しよ」「俺は駄目なんだよ! 病気持ちで、稼ぎもない、結婚なんて──」「出た出た、結婚! アタシ一言も言ってないわよ結婚しなさいなんて」「とにかくだ、俺は駄目なんだ」「この根性なし!」「なんとでも言え、根性とかまったく関係ないから」「いいこと教えてあげよっか?」「興味ない」「ま、聴きなさいよ。雨の日に願い事すると次に晴れた日に叶うのよ、知ってた?」「俺はガキじゃねえんだ」「ほらほらアンタもう願っちゃってるじゃない! アンタそんなことでいいの? あらやだイケズ!」「人に言うなよ」あんたがたにも言っておこう。俺はそのとき、ただあの女と添い寝したい、そう願ったんだよ恥ずかしながらなあ。次の日、朝起きたら隣であの女が寝てた。嘘じゃない。空はどこまでも晴れ渡っていた。いつものようにトイレで用を足して、洗面所で顔を洗い、二人分のコーヒーを入れていそいそと部屋に戻るとあの女は消えていた。跡形もなくな。文字通りみじけえ夢だったよ。用事であの女を見る機会があるんだがあのことを話そうかどうか、いやあれはやっぱり夢だったんだと思うことにした。だって、現実には誰がどう考えたってあり得ないんだからよお。また雨の日にあのオカマが言った。「ね?」俺は答えた。「ねじゃねえよ。ただの夢じゃねえか」「叶ったじゃない。認めなさいよ大人なんだから」「大人だからこそだ。ま、夢が見れただけでも礼は言っておくよ。ありがとな」「で?」「でってなに?」「決まってるじゃない、次の願い事よ」「あのな、俺で遊ぶな。雨の妖精はさっさと土に帰れ」「雨の妖精ってアンタのことじゃない、あらやだ忘れたの?」「俺が?」「健忘症、間違いないわ、病院行きなさい」「あのなあ、第一お前なんなんだ、オカマのくせに」「ほらほらもう願っちゃってる、あはは! でも、その願い事は叶わない気がするわ。アタシが言うんだから間違いない」あんたがたに言っておく、俺はそのときこう願った、俺を帰してくれと、土に帰してくれと。明日の朝、目覚めなければいいと。翌日、空はどこまでも晴れ渡っていた。俺はそれを見て、あのオカマが言ったことは間違いないことを悟った。それからというもの雨の日が待ち遠しくてたまらなかった。雨の日にまたあのオカマが言った。「次何にする?」「まず俺をあの頃に戻してほしい、幸せだった頃に」「あ、それは無理よ。壊れちゃったものは二度と元通りにはならないの」「じゃもういい、それ以上の願い事なんかない」「そんなこと言わないで新しい幸せをつかむの!」「新しい幸せ? 俺の歳を考えろって」「なに言ってんの、アンタ妖精じゃない。妖精は死なないのよ。あ、もちろん世界そのものがなくなっちゃったら終わりだけどね」俺は世界がなくなるのが正直怖かった。心の底から恐怖を感じた。そりゃ、この期に及んで馬鹿げているのは承知の上だ。だが、それもありっちゃありの選択肢だった。だから俺はこう願った。人間の心の中に棲みたいと。その願いは叶った。ほら、こうしてあんたがたの心の中に居る。雨の日に耳をすましてみるがいい。俺の声が聞こえるはずだ。あ、そうそう、あのオカマの声も。え? 聞こえないって? 聞こえないやつはまだ妖精じゃないな、たぶん。


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