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しーたさん

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雨粒カフカ

16/06/10 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:0件 しーた 閲覧数:697

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 目が覚めると、僕は雲の中にいた。かつては地上から見上げていた、どこまでも青い空に浮かぶ雲の中に。
 これは夢だろうか。
 確認してみよう。
 そう思って頬をつねろうとして、手を動かせないことに気が付いた。
 違う。
 僕は確かに雲の中にいるのだけれど、
 僕も、雲の一部になっていたのだった。

 文字通り風に流されるままに空を漂いながら、色々なことを考えた。
 どうして僕は雲になってしまったのか、と。
 しばらく頭をひねってみて、しかし考えても理由なんてわかりそうもなくて、どうせ夢だろうと開き直ってみた。
 そうしてみると空の旅というのはなかなかに心地良いものだ。
 風を全身で感じながら、太陽の温もりを感じながら、地上を見下ろす。
 眺めは最高だった。
 よく見知った、僕の住んでいた街が、今日も変わらずにそこにはあった。
 学校の屋上で、いくつかのカップルが弁当を広げて楽しそうに笑いあっている。空き地では親子がキャッチボールをしていて、その近くの家のおばあちゃんは庭の掃除をしている。
 普段は見られない角度から世界を見るのは新鮮で、なんだか楽しくなってきた。
 何か面白いものはないかと見回して、泣いている一人の女の子が目に入った。
 どうして彼女は、泣いているんだろう。
 気になったけれど理由を知る術はなくて、静かに涙を流すその少女を見つめたまま、ただ時間だけが過ぎた。

 それからしばらくして、夜になった。
 相変わらず少女のことは何もわからなかった。
 少女は相変わらず泣き続けていて、いつしか僕は、その少女のことを慰めてあげたいと思うようになっていた。
 どうすれば、慰められる?
 どうすれば、泣き止んで、笑ってくれる?
 考える。
 考える。
 考える。
 何も、思い付かなかった。
 空を漂う僕には、ただ見ていることしか出来ないのだと気付いてしまった。
 自分が情けなくなる。
 彼女は一人、泣いている。
 彼女の側に行きたいと思った。
 側に行ったところできっと何も出来ないけれど、それでも僕は、そう思った。
 そう、願った。

 唐突に、雲にヒビが入った。
 ヒビはどんどん広がって、やがて小さな雲の切れ端は水滴となっていく。

 やがて僕も、水滴となった。

 そして、雨粒として重力に従って地上に降り注ぐ。
 僕は一直線に、彼女を目指した。

 雨が降ってきたことに気付いて空を見上げた彼女の頬に、僕は落ちた。

 もう、大丈夫だよ。

 声は出せないけれど、心の中でそう囁く。
 本当は溢れる涙を拭ってあげたかったけれど、それはやっぱり叶わなかった。
 だから、念じる。
 泣き止んで欲しい、と。
 その想いが通じたのか、彼女は泣き止んだ。
 泣き止んで、真っ赤な瞳で辺りを見回す。

「……おとう、さん?」

 その一言で、すべてを思い出した。
 僕は、この少女の父親だった。
 僕は、元々人間で、
 少し前まで地上に住んでいて、
 今はもう、そうじゃなかった。

 また、念じる。

 そうだよ。
 一人だけ残して先にいなくなってごめん。
 でも、パパはいつだってお前のこと見てるから。
 だから、笑って生きて、幸せになって欲しい。
 そうしてくれさえすれば、僕は安心だから。

 彼女は頷きながらまた涙を流す。
 雨と涙に流されて、ついに僕は彼女の頬から離れてしまった。地面に落ちて、そのまま世界に溶け込んでいく。
 もっと彼女の側にいたいのに、そんな僕の意思と反して意識は薄れて行く。

 薄れて行く意識の中で、思う。
 このまま彼女を放っておくなんてできない。
 だから、彼女が幸せになるその日まで見届けよう。
 何も出来ないけれど、
 晴れの日は空から、
 雨の日はもう少し近くで、
 彼女を、見守り続けよう。

 そうして、泣きじゃくる彼女の姿を最後に、僕の視界は閉ざされた。

 目が覚めると、僕は雲の中にいた。かつては地上から見上げていた、どこまでも青い空に浮かぶ雲の中に。


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