1. トップページ
  2. スティックパン

福沢遊さん

性別
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

1

スティックパン

16/06/07 コンテスト(テーマ):第110回 時空モノガタリ文学賞 【 雨 】 コメント:0件 福沢遊 閲覧数:663

この作品を評価する

初めて君と出会ったのは、ある晴れた夏の日。



ぼくは蝉の鳴き声がうるさくて、コンクリートに顔をうずめていた。
“あつい…“
「にやぁ…」


「大丈夫?」

風の音かと思うほど、静かな声が頭上から響いてきた。
ゆっくり顔を上げると2つの白黒がこちらを見ている。

“人間様か…“

この世界で、1番偉いお方。

「大丈夫?」

静かな声で少年は相変わらず話しかけてくる。
どうせぼくの言葉なんて、分からないくせに。

「今日、真夏日になるみたいだから、水分ちゃんと取るんだよ」

ガサゴソと鞄から何かを取り出し、ぼくの目の前に置いた。

「じゃあね」

笑って少年は去っていった。
やけに香りの強いスティックパンを残して。



その日を境に、静かな少年を見かけることが多くなった。
時々目が合うと、例のスティックパンをくれる。

“静かな少年からスティック少年に名を変更しよう“

スティック少年は、会う度ずっと笑っていた。
ぼくと会うのが嬉しいのかなぁ
なんて思ったりしてみる。



今日もスティック少年は笑ってる。

“ぼくも笑ってみたいな…“
「にゃぁーにゃぁー…」

「いい事だけとは限らないよ」

“え…?“

少年を見つめる。
視線に気づいたのか、2つの白黒が見つめ返してきた。
少年の顔は笑ってる筈なのに、その白黒だけが全てを見透かしてる様だった。

「大丈夫、今だけだから」

人間様が何を考えてるのか、ぼくにはわからない。



その日は久々に雨が降った。
変わらない蒸し暑さに、灰色がかった世界は、より一層ぼくの瞼を重くする。

ここ毎日のようにスティック少年は、ぼくに笑いかけ、例のパンを置いていってた。

“雨の日はさすがに来ないよなぁ“

1つ大きなあくびをしてみる。


「大丈夫?」


耳が震えた。


「ねぇ、大丈夫?」


低く、嵐の様な声が頭上で響き渡る。

目の前にスティックパンが転がった。
少年は笑ってない。

ぼくは1口、スティックパンをかじってみた。
バターの香りがさらに強まり、口いっぱいに甘さが広がる。
もう1口、1口、


スティックパンは跡形も無く消え去り、少年もいなくなっていた。


とても喉が乾いた。

上を見上げる。
口を開けると、生温い雨が喉に吸い込まれていく。


「大丈夫…」

静かな声が頭の中で反芻する。



「にゃぁー」

足元でぼくが鳴いていた。

“これで笑えるよ“
「にゃぁんにゃぁー」


「ありがとう」
静かな声がまた反芻する。
同時に、自然と頬が上がった。



雨は今日も降り続いている。
ぼくはスティックパンを君へ贈るよ。










コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン